第47回 人類の技術の粋に触れる機械時計の分解組み立て実習/学園長ブログ - 自由学園 リビングアカデミー(45歳以上の方々の学校)

第47回 人類の技術の粋に触れる機械時計の分解組み立て実習/学園長ブログ - 45歳以上の方々の学校【自由学園 リビングアカデミー】

学園長ブログ

第47回 人類の技術の粋に触れる機械時計の分解組み立て実習

機械式腕時計の分解組み立て実習が無事終わりました。男子部高等科1年生の4日間かけての特別授業です。
今回は文字盤やケースなどの仕様は4種類ですが、内部機構は例年同様、セイコーの70系と呼ばれるもので、時計修理の技能検定で使用されている本格的なものです。

実習の「教科書」では分解の作業工程は49段階。部品数は数えてみると63個でした。分解できない部品もあるため、実際の部品数はもう少し多いと思いますが、たったこれだけの部品で正確に時を刻み、カレンダーもついた時計が動いていることにあらためて驚きました。
生徒たちは既製の完成品を一度分解し、再度元通りに組み立てながら、機械時計の仕組みを体験的に学びます。

ヒゲゼンマイを動力とするこのような機械時計の発明は1675年。以来人類が改良に改良を重ねた300年を超える技術の粋に触れたことになります。

私自身も自由学園の生徒だったときにこの実習を体験しましたが、動力の心臓部ともいえるアンクルとガンギ車、そしてテンプの精巧な仕組みには本当に驚きました。

機械時計は巻き上げられたゼンマイが反発力によってほどけようとする力を利用して動きます。一気にほどけてしまわないように制御するのがこのアンクル、ガンギ車、テンプです。ゼンマイの力が有効に使われるように歯車を組み合わせて回転数を上げ、分針、秒針、ガンギ車へと伝える「増速輪列」の仕組みも見事です。

もっとも小さなものでは長さ1ミリという部品をピンセットで扱う作業には、各自の手先の器用さだけではなく、クラス全体の集中力が求められます。今回も扱いに慎重さが求められるアンクルの組み入れの時には特にクラス中が緊張した空気に包まれました。

それでも作業中、ピンセットの先でつかんでいたはずの部品をどこかに飛ばしてしまう、あるいは落としてしまう人が出るわけですが、そのたびに周囲の生徒たちも含めて幾人もが机の下にもぐりこみ、床に張り付くようにして協力して数ミリの部品探しをしていました。ずいぶん遠くから「あったー」と声が上がり、歓声が起こる場面もありました。どんなに小さな部品にもその部品の固有の役割があり、その1つがなければ時計は動かないのです。

私たちの生活は様々な便利な道具に囲まれています。そしてそれらの道具の使い方はどんどん簡単になっています。しかしコンピューターもスマートフォンも、ほとんどの道具は、その仕組みが理解できない“ブラックボックス”です。不具合が起これば買い替えか、丸ごと部品交換をするのが当たり前になりました。このような時代だからこそ、物事を仕組みから理解する経験の意味は大きいと感じます。

「技術のもっとも深いところには祈りがある」と創立者の羽仁吉一先生が書かれています。手の働きは確かに心につながっています。腕時計の分解組み立ては、あたまとからだとこころを育てる自由学園独自の学びの一つです。

時計を教材とするこのような勉強は戦前の男子部創立期から行われていました。当初は目覚まし時計のような大型の機械時計の分解組み立てを行い、仕組みを学んだ上で、各生徒が木製の時計を自作するという課題に取り組んでいました。

現在の実習は、時計店を営まれている男子部卒業生の荒木斉さんを中心とする5人の技術者の方にご指導いただき行うことができています。ご指導くださった先生方に心より感謝を申し上げます。

 

2018年2月28日 高橋和也(自由学園学園長)

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