第60回 「自由学園みらいかん」グッドデザイン賞受賞 植林編/学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

第60回 「自由学園みらいかん」グッドデザイン賞受賞 植林編/学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

学園長ブログ

第60回 「自由学園みらいかん」グッドデザイン賞受賞 植林編

第60回 「自由学園みらいかん」グッドデザイン賞受賞 植林編

第60回 「自由学園みらいかん」グッドデザイン賞受賞 植林編

2018年11月16日

植え付けから伐採まで30年、50年を要する植林という活動は、学校教育においてこれに取り組む場合、野菜や花の栽培とは異なり、その「成果」を自分自身が目にすることのない活動といえます。しかし成果を自分のものとして手にしない活動であるからこそ、その働きには貴い教育的な意義がある。自由学園ではこのような思いを持って、約70年、生徒による植林・育林活動を続けてきました。

昨年その山の木を使って建てた子どものための施設「自由学園みらいかん」が、2018年グッドデザイン賞を受賞しました。今回の受賞は、もちろん建物そのものへの評価でありますが、それと同時に、このような教育の「デザイン」に対する評価を含むものであると受けとめ、とても意義深いものと感じています。

今年5月の男子部保護者会で、生徒による植林地での働きの意味について以下のようなお話をしました。

先月高等科2年生は埼玉県飯能市(旧名栗村)にある男子部の植林地に労働に行きました。生徒たちはよく働いたと報告を受けました。名栗での植林が始まったのは、今から68年前の1950年のことで、生徒たちは68年目のバトンを受け継いでいます。

昨年12月に竣工した「自由学園みらいかん」の建築には、生徒の手で植えられ、育てられてきたこのヒノキやスギが使われています。建物本体で使われた木材の約4割、見える部分では約8割、家具はすべての材が、生徒・学生が植え、育ててきた木です。

1950年、第1回植林に出発する生徒たちにむけて創立者羽仁吉一先生は、「君たちが48歳になった時この杉の木を使って新しい校舎を作るのだ。これが自由学園の教育だ。心を込めて行って来なさい」と励ましの言葉をかけています。

18歳の生徒たちが「48歳になった時」という構想は、木の成長にかかる年数を30年と見たものですが、実際は67年後ですので、最初に植林をした11回生の皆さんは今85歳です。時間はかかりましたが生徒が植えた木で校舎を建てるというこのスケールの大きな夢が、半世紀以上の時を経て実現したことは、本当にうれしいことです。

「みらいかん」は、2歳児を対象とする「ことりぐみ」、生活団の預かり保育「かるがも」、初等部のアフタースクールの子どもたちが主に利用します。次の世代をつくる子どもたちのために、半世紀以上にわたって生徒・学生の働きによって育てられてきた木が活用されるということもうれしいことです。

名栗の植林は当時の男子部高等科3年生(男子部11回生)が、宮島真一郎先生の指導のもとに2週間かけて8ヘクタールの土地に、杉苗2万本、檜苗4千本の植え付けを行い開始されました。作業のために寝泊りした山小屋も同年4月に教師と男子部10回生の手によって建てられたものでした。

名栗に次いで、1966年には三重県海山町に最高学部生のための第2の植林地が拓かれ、卒業生、学部生の手で2年がかりで山小屋が建てられ、檜を中心とする植林が開始されます。
その後2つの山では連綿と生徒・学生たちの手により補植、下草刈、枝打ち、間伐、除伐、道つくり、運材、小屋整備といった作業が続けられ、森づくりが行われてきました。

私が学生として海山での植林に携わった1980年代には木はすでに大きく育ち、作業の中心は「枝打ち」でした。梯子を木に立てかけて登り、ある高さまでの枝を鉈とのこぎりで切り落とす作業です。いつか材として切り出したときに、節の少ないよい材になるかどうかは、枝打ち次第ということでした。よい木に育って欲しいと願いつつ丁寧に作業をすることもあれば、何度も時計を見ては終わりを待っていることもありました。山の中で4、5時間、ひたすら木と向き合う時間は、じっくり自分に向き合う時間でもありました。

この植林を振り返りある卒業生は「植林の醍醐味は自分の働きの成果を自分自身で目にすることができないところにある」という印象深い感想を述べています。目先の成果や評価を求めず、いつか誰かのために役立てられるであろう日を信じ、目の前にある自分の役割りに心を尽くすことの「醍醐味」。創立者はここに植林が持つ人間教育の価値を見出していたのではないかと思います。植林にとどまらず、自由学園での様々な生活の場面に当てはまり、生徒たちには共感できる言葉だと思います。

みらいかん竣工についての経緯を学園新聞に書いたところ、以前男子部にお子さんをお送りくださった上甲晃さんが、ご自身のブログに感想をお書きくださいました。上甲さんは、松下幸之助さんが次世代のリーダーを育てるために作られた「松下政経塾」の初代の塾頭を長くつとめられ、現在はご自身で「志ネットワーク・青年塾」を立ち上げ、リーダー養成の活動をなさっている方です。その文章の中に次のような一節がありました。

「自由学園の教育で植林を重視してきたのは、ただ単に自然に親しみ汗を流して労働する体験を味わわせるためではない。自分たちが汗水流して木を育てることが、やがて必ず、後世の人たちのためになると信じる心を育てるためであろう。その意味からも、自分たちで育てた木で、後輩のための校舎を建てる理想が実現したことは、まことにまぶしいばかりだ。」

リーダーとなるべき人たちを育ててこられた上甲さんの深い洞察のこもった言葉であると感じました。

詩編1編、讃美歌536番には共に、神様の教えに従う人の成長が、ときが来れば木陰に人を憩わせ実を結ぶ、流れのほとりに植えられた木の成長に重ね合わせられています。吉一先生も「木を植えることは人を育てることに似ている」とお書きになっています。人の成長にも木の生長にも長い時間がかかります。育ててくださる方を信頼し、成長する生徒たちの力を信頼し、今年度も歩みたいと思います。

 

 

 

2018年10月5日 高橋和也(自由学園学園長)

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