第74回 3.11から生まれた温かい繋がり/学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

第74回 3.11から生まれた温かい繋がり/学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

学園長ブログ

第74回 3.11から生まれた温かい繋がり

2020年3月11日

「十三浜の佐藤徳義さん、のり子さんからワカメが届きました!」
高等科3年生のN君が学園長室におすそ分けを届けてくれました。2月27日のことです。この3月、卒業を前にした男子部女子部の高等科3年生は、わかめ収穫の繁忙期のお手伝いに石巻市北上町の沿岸部、十三浜地区に出かける予定でした。残念ながら新型コロナウィルスの影響で活動を中止せざるを得ませんでしたが、そのお知らせをお世話になっている十三浜の漁師さんにしたところ、予定になかった船を海に出し、ワカメを収穫し、学校に送ってくださったのでした。

「いつも浜で食べているように今年もわかめの初ものをみんなに食べさせたい。卒業する高3の生徒たちのため、臨時休校前に届けたい」との温かい思いからでした。大きな励ましをいただきました。

自由学園では、2011年の震災直後から、高等科生、学部生が中心となり、創立者を共にする婦人之友社、そしてその読者組織である「友の会」の皆さんと連携し、東北の被災地での活動に取り組んできました。取り組みの内容は、9年という月日の中、状況に応じて年々変化を続けてきました。

震災直後には、大学部の学生たちが津波に遭われたお宅からの荷物の運び出しや泥の掻き出し作業に、また炊き出しや不足する物品のお届けなどに携わりました。自衛隊の大型車両が往き来する中でのことでした。その後、高校生たちは仮設住宅や保育所、グループホームでの交流や環境整備などのお手伝いをさせていただきました。津波によって仕事と生活の場を失った十三浜のわかめ漁の漁師さんとの繋がりも早くから生まれました。この十三浜との繋がりはここ数年は「支援」から「交流」へと発展し、現在の、わかめ漁を体験させていただく活動につながっています。

9年前、この被災地での活動を進めるにあたり、私たちが心していたことがあります。それは、私たちのペースで被災した方の生活を乱すことをしてはいけないということ。そしてこの活動を通じて学校をアピールをしないということでした。これは仙台在住でこの活動を支え続けてくださっているお2人の卒業生から、重ねてご注意いただいたことでした。ボランティアを含め、配慮を欠いた被災地訪問がいかに現地の方を傷つけているかを目の当たりにしての助言でした。

当然のことですが活動当初、「東京の若いもんが何しに来るんだ」「どうせ今だけだろう」と受け止められることもありました。被災地それぞれの現状に加え、漁村の暮らしや漁業について何も知らなかった私たちは、その時々に現地の皆さんのお話を伺いつつ、試行錯誤しながら私たちにできる活動を検討し、続けてきました。

そして回を重ねつつ、十三浜の皆さんに家族のように温かく受け入れていただけるようになり、多くの生徒たちが漁師さんたちのお仕事のお手伝いを通じて様々な経験をさせていただくことができました。その中で、「お帰りー」と迎えてくださり、「都会で疲れたらいつでも帰っておいで」「社会人として失敗したら浜に戻って来いよ」と生徒たちが言葉をかけていただくまでの信頼関係を築くことができたことは本当にありがたく、うれしいことでした。

先日NHKのニュースが、岩手・宮城・福島の被災者およそ2000人にアンケートを行ったところ、今も被災者だと感じている人が6割あまりに上ったとの調査結果を伝えていました。これは阪神淡路大震災の2.5倍。その背景には経済的な復興の実感が感じられていない現実があるとのことでした。私たちを受け入れてくださった十三浜の皆さんも、困難に直面する生活にありながらも、生徒たちに温かく接してくださっていたことをあらためて感じます。

東日本大震災が起こり9年の時が流れました。この歳月が、東京に住む私たちの震災の記憶を薄れさせ、震災被害の影響を受け続けている被災地の方々の実感との隔たりを大きく広げています。今回新型コロナウィルスの影響による混乱の中でお送りいただいたワカメは、9年間に積み重ねられた温かいつながりの象徴であり、被災地である東北の漁師さんから未来を創る若い世代に贈られた熱いエールの象徴のように感じられました。

希望は相手を思う気持ちがあるところに生まれる。自然災害や感染症の拡大という人間の思いを越える困難な現実の中にあって、感謝と共にあらためて実感しています。3.11をきっかけにいただいた温かい繋がりを、生徒と共にこれからも大切にしていきたいと思います。

2020年3月11日 高橋和也(自由学園学園長)

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