第82回 学校生活再開から1か月/学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

第82回 学校生活再開から1か月/学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

学園長ブログ

第82回 学校生活再開から1か月

2020年9月28日

2学期の学校生活の再開から無事1か月が過ぎました。

初等部の子どもたちが楽しそうに遊ぶ歓声や、男子部の生徒たちが竹ぼうきで落ち葉を掃き集める音が聞こえてきます。


  • 元気に遊ぶ初等部生

  • 道を掃く男子部生

「やっぱり学校に来れるっていいですね!」「対面の授業、楽しいですね」「部活も始まりました」「新入生と同じ部屋なので新鮮です」「クラスで交流を深めるためにレクリエーションをしました。」生徒たちの喜びの声もたくさん耳にしています。

8月24日、中高の女子部・男子部の登校が始まり、9月に入り幼児生活団幼稚園と初等部が、そして9月半ばには最高学部とリビングアカデミーが登校を始めました。自由学園に連なるすべての段階の幼児、児童、生徒、学生たちが学校に集まり、顔と顔を見合わせ生活を共にしつつ学ぶ、学校本来の姿を取り戻すことができたのは、本当にうれしいことでした。事情により自宅でオンライン等での学習を継続している生徒たちが、安心して学校に集まることができる日が一日も早く来ることを願っています。


  • 幼児生活団幼稚園

  • 初等部

今学期、最も早く生活を再開した女子部・男子部の生徒たちからは、折々に生活報告を受けてきました。十分な準備をもって始めたようであっても、学校でも寮でも、この1か月は試行錯誤の連続でした。これまで生徒・教職員が一堂に会し全員で共に食卓を囲んでいた昼食は、教室と食堂とに分かれて対面を避けて行い、寮生活も一部屋の人数を制限し、食事を2回に分けて行うなど、生徒たちと共に工夫しつつ新しい形態での生活にとりくんでいます。清風寮、東天寮には万一の時に体調不良の生徒の対応にあたるために、若い卒業生たちが交代で24時間体制でサポートに入ってくれています。


  • 女子部授業 自宅でオンライン授業を受ける生徒も

  • 最高学部 食事時間

今後もこの試行錯誤は続きますが、この状況の中にあってうれしいことは、新しい生活を創り出すこの試行錯誤の生活自体を、生徒たちが大きな学びの機会とし、団体の成長の機会としていることです。

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2学期を迎えるに先立って、女子部・男子部の高等科委員の生徒たちを中心に「コロナ禍の私たちの社会」を考える合同チームが発足しました。夏休み中に生徒たちが回を重ねて考えたのは、「新学期の学校生活の中で新型コロナウィルスに関わる差別を起こしてはいけない。そのために私たちにできることは何か」ということでした。

恐れや不安から、無知や誤解から、また思いやりや想像力の欠如から、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、罹患者やその家族、医療従事者等、命と暮らしを支える現場で働く方々への差別や偏見、誹謗中傷が私たちの社会に広がっています。またこれらと共に、差別を恐れ、「自分や家族の感染は秘密にしたい」「体調不良も言い出しにくい」という子どもたちの声をまとめたアンケート結果も報じられていました。

合同チームの生徒たちはスクールソーシャルワーカーやカウンセラーの助言も受けつつ、根気よくこの問題について議論を続け、全校生徒への問題提起を準備しました。そして8月26日、女子部・男子部の2学期の生活は全校で「コロナ差別」を考えることから始まりました。彼らは、「互いが尊重し合い、互いを愛し合い、互いに力を出し合う、差別を生まない社会の実現のために私たちに出来ることは何だろう」と訴え、さらに生徒一人ひとりにアンケート形式で「差別と聞いてどう感じますか?」「自分が差別をしてしまった場面について書いてください。」「37.3度以上あった時みんなに伝えられますか?」「自分が感染したら、何をしてもらいたいですか? 」「友達が感染したら、自分に何が出来ますか?」といった問いを投げかけました。

アンケート結果は生徒たちが共有できるようにポスター形式にまとめられ、掲示されました。私も生徒たちの声に目を通しましたが、コロナをめぐる差別の問題を自分自身の問題として捉えたことが感じられる様々な言葉が記されていました。

「友達が感染してしまったら、自分に何が出来ますか?」という問いに対しては、「お菓子を送る」「手紙を書く」「雑誌の差し入れ」「受けられなかった授業を教える」という具体的な内容と共に、「誰もが感染するもの。悩まないでねと言う」「寂しいと思わせないようにする」「思いやりを持って接する」「周りに言いふらしたりしない」「居場所を無くさないようにする」「帰って来た時に歓迎する」「その人がして欲しい行動をとる」等々、想像力をもって相手に寄り添う多くの言葉が並んでいました。

この合同チームのTさんはこの取り組みへの思いを、「社会には差別や思いやりのない言動がある。そこには大人の姿もある。学校も1つの社会。今このようなときに私たちは愛を土台にする社会の姿を示したい。学校が愛ある社会の代表になれるといい」と語りました。

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学校生活が始まり2週間ほどが過ぎたころ、女子部・男子部の委員長、副委員長、寮長たちから近況報告を受けました。コロナの状況下で、自治的生活運営の中心となり、責任を担っている生徒たちです。

手洗いや消毒の徹底を呼び掛けていること、食事時間には同一方向を向いて沈黙して食べていること、寮では自分の部屋以外には入らないようにしていること等々、女子部・男子部ともに、感染防止策を徹底した新しい生活について報告してくれました。また寮長たちは、夏休み中に行った新しい寮生活のためのルール作りについても話してくれました。その話しぶりからも責任感と緊張感をもって前例のない生活に取り組んでいる様子が伝わってきました。

一通りの報告の後、私は「では次の課題は何か?」と質問しましたが、その答えはとても印象的でした。

「これまで日常的に行っていた全員で集まる朝の挨拶や礼拝、昼食をクラスごとに行うことになり、互いの様子が見えなくなっている。今まで女子部で大事にしてきた学年を超えた温かいつながりやコミュニケーションをこの状況の中でどのように実現できるか。」

「互いを知り合う機会が減っている。こういう時こそ互いの生活を知り合うために『生活表』を活用できないかと考えている。」

「食堂では人数を減らして食事を行っているが、今までのような温かい交わりは難しい。どうしたら食事時間を少しでも楽しい時間にできるか。みんなと一緒に新しい形を考えたい。」

「新学期が始まり様々な形で緊張ある寮生活を送っている。寮長はルールを守らせる立場であるが、その上で、今まで僕たちの寮が持っていた愛をどのように実現することができるか。これを目指していきたい。」

人と人が身体的に距離をおくことが求められているコロナ禍の状況にあって、生徒たちが自由学園の学校生活において大切に守りたいと願っていることは、「温かさ」、「つながり」、「愛」の実現でした。

私は生徒たちのこのような問題意識をとてもうれしく、頼もしく思いました。これらの言葉は、このように語る生徒たちがこれまでの学校生活を通じて体験的に、「温かさ」や「つながり」や「愛」を、大切なものとして実感してきたことを示すものでした。そしてその大切なものを、人と人が常に距離を保つことが求められているこの状況の中にあって、どのように実現することができるかと頭を悩ませているのでした。特に気にかけていたのは今年入学した新入生たちのことでした。

数日前、女子部委員の生徒たちが報告にやってきて、この最初の報告から2週間の間に行った女子部での様々な試みについて語ってくれました。

「全校生徒で広い大芝生に広がって顔を見合わせての朝の挨拶と体操をしました。各クラスから一人、代表の日番が集まっての6学年でのミーティングも始めました。解散後には自由参加で学年混合の運動会をして盛り上がりました。」

「寮生が新入生の名前覚えられるように、確認表を張り出しました。連休中には寮に残った寮生たちで『大芝生ピクニック』を楽しみました。」

「みんなでお互いの生活を知り合えるようにオンライン生活表をつけ始めました。食事時間に副委員長からみんなが楽しくなるような『ひとこと報告』をしています」等々。

温かい社会を創りたいという生徒たちの熱意と行動力に感心しました。

このほか学外の問題にも目を向け、手作りマスクの寄付や、生活に困窮し家を失った方々の支援をするNPOの活動に参加する女子部・男子部の頼もしい生徒たちもいます。

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このような生徒たちの取り組みの背景で、9月19日には今年度2回目となる保護者会主催の「合同読書会」が行われました。この合同読書会は、自由学園に連なる保護者・教職員が自由参加で集まり、創立者の著作物の読書を通じて自由学園の教育理念や歴史などを学び合うとともに、部や学年を超えた交流を深めることを目的とするものです。自由学園の家族的なつながりを感じる素晴らしい交わりの場となっています。

今年度は「創立 100 周年にむけて自由学園の教育と創立者の想いにふれる」という年間テーマが設定され、今回のテーマは「創立者ミセス羽仁を感じる」でした。担当した女子部保護者会の委員の方が読書に選ばれた文章は羽仁もと子著作集第18巻『教育三十年』の巻頭言「新しき歌をうたえ」でした。

『教育三十年』は、自由学園の教育に30年間取り組んできた実践とその教育理念を創立者ご自身が1950年に1冊にまとめたものです。巻頭言には過去の振り返りとこれからの教育への希望が記されています。特に以下の部分は私自身、現在の学校づくりの指針としている文章の一つでもあり、今この文章を保護者の皆さんと共に読むことができたことはうれしいことでした。

「これからさきの鮮やかな目標は、学校はその温かさにおいて、子供たちの第二の家庭であり、今の世の中に存在するもっとも優れた社会であるという、その実相を具体化してゆくことである。少なくとも現代最高の理想に近い家庭の姿社会の姿は、本気な教育力をもつ学校にあると、多くの人をして思わしめるようにならなくてはならない。(中略)

天地(あめつち)の父の心は愛であるきわまりなき進歩である。み心に教えられて、愛の協力をしてゆこう愛の建設をしてゆこう。それがすべての人間がその中に棲んでいるところの、唯一無二の学校の心である、姿である。」

生徒たちが、学校を温かい愛の通う場にしたいと願い奮闘しているこのときに、保護者会の皆さんが、「学校はその温かさにおいて、子供たちの第二の家庭であり、今の世の中に存在するもっとも優れた社会」でありたいという教育の理想と、神様の愛の導きのもと、「愛の協力をしてゆこう愛の建設をしてゆこう」という祈りを共にしてくださっていることを本当にありがたく思いました。またコロナの状況下、保護者の皆さんが学校を信頼し、リスクも含めてこの教育の実現をご支援くださっていることを、あらためて心強く感じました。

人と人が距離をとることを「常識」とする「新しい生活」は、人と人の心の距離をも広げています。これまでにもあった孤立化の社会状況はさらに深くなり、これまでにはなかった孤立化も静かに社会を蝕み始めているように感じます。

人間が人間として心身共に健康に生き、学び、成長するために、何がなくとも必要であるのは、人と人との温かい心のつながりであり、愛による交わりです。

私たちはこの毎日の学校生活の小さな積み重ねの中で、すべての学びと生活の土台である温かいつながり、愛による交わりを大切に守っていきたいと思います。またこの心をもって私たちに出来る社会への働きかけを行っていきたいと思います。

2020年9月28日 高橋和也(自由学園学園長)

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