第22回 「江戸吉原」 『東京人』4月号/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第22回 「江戸吉原」 『東京人』4月号/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第22回 「江戸吉原」 『東京人』4月号

2016年3月4日

雑誌『東京人』4月号の吉原特集「江戸吉原-闇が生み出す江戸の虹」が、3月3日発売になった。『東京人』の吉原特集は、2007年3月号「江戸吉原-遊郭は文化の最前線・2010年3月号「江戸吉原-聖と俗、光と影の人模様」に続いて、3回目の特集である。9年間に、3回吉原の特集が組まれたことになる。

吉原の特集が、『東京人』で組まれたのは、2007年が最初である。
編集長の高橋氏は、2007年の編集後記で「東京人」が、東京都が発行元だったこともあって、特集は汲みにくかったこと、又人権や性差別の問題を考えると躊躇もあったと記し、「しかしながら、吉原が江戸文化の一方の核であり、それを離れて江戸の粋も、浮世絵も、生活文化も語り得ないことは事実です。歴史は、現代から見て悪であっても、当時の視線でその事実を冷静に眺めなければ、却って歴史を歪めて見ることになってしまいます。そう決意して、初めて吉原の特集を編んでみました。」と記している。高橋氏のこの決断は、遊郭研究史を行うものを大いに勇気づけるものであった。

この九年間で、遊郭史研究は、大きな状況の変化を見せて来た。それまでの吉原研究は、懐古的な趣味性に落ち込んだものか、もしくは、あまりに現代的価値観からの否定的視座からのものであった。
その両側面は、共に閉鎖的なものであった。タコツボ的吉原研究と云ってもいいかもしれない。そのタコツボから脱するように、文学史・絵画史・芸能史的側面はもちろんのこと、比較文化史・芸能史・都市学・女性史・民俗学といった側面といった多角的な側面から吉原が俎上に上がったのである。
『東京人』の三回の特集の流れも、このことを示したものであると云っていい。

私は、最初の号の巻頭文で、「吉原三百四十年の光と影」を書かせていただき、次の号では、松井今朝子さんと対談し、「二代目高尾の残影を追って」を書いた。
そして今回は、酒井順子さんとの対談「華やかな影に悲劇の匂い遊女の女性像」と、高橋是清・高村光太郎らの吉原とのかかわりで「廓を「物語」るという文化」を書かせていただいた。

今号の注目は、郷土史家西まさる氏の「吉原遊郭を支配した南知多のおとこたち」。新吉原成立の時期、愛知県南知多出身者が、多くの揚屋経営に関わっていたというもの。総合的検証が必要になろうが吉原の歴史に一石を投ずるものである。
又、デザイン工学の若手女性研究者奥富小夏氏の「江戸の都市計画と廓建築」も、引手茶屋の建物の作りに言及するなど興味深い。後藤隆基氏の「芝居との近接した関係」は、明治20年代の新聞記事を丁寧に当たり、吉原と歌舞伎役者の関係に触れたもの、歌舞伎裏面史から読んでも面白いものである。
闇の世界を垣間見ながら、文化の光を覗いていただきたい。

3月7日(月曜日)BSTBS pm10:00「にっぽん!歴史鑑定」放映も、吉原がらみの話で、インタビュー受けています。

2016年3月4日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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