第77回 文学・環境学会講演雑記/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第77回 文学・環境学会講演雑記/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第77回 文学・環境学会講演雑記

8月24日、清泉女子大学でASLE-Japan/文学・環境学会の全国大会があり、小峯和明氏(立教大学名誉教授)と基調講演を行った。
文学・環境学会は、アメリカにおけるネイチャーライティングが発祥とも云うべき学会である。最近では、環境人文学などともよばれている分野である。今年に入ってからも、『環境人文学Ⅰ文化のなかの自然』『環境人文学Ⅱ他者としての自然』を刊行している。
私も、前者には、『花札追憶 明治35年帝国議会議事録を中心に』という一文を書いている。このことは、このブログの第9回でも触れている。
日本文学研究者とアメリカ文学研究者が一堂に会したのは、2010年に立教大学で開かれた『国際シンポジュウム エコクリティシズムと日本文学研究-自然環境と都市』であった。今回の講演で一緒に話をした小峯氏や司会の野田研一氏(立教大学名誉教授)、ハルオ・シラネ氏(コロンビア大学教授)とは共編で『環境という視座』という本も出している。そんな縁で今回の講演に至ったのである。

私に与えられたのは、『環境文学への視座 ― 日本古典文学をめぐって 近世文芸を中心に』という題目である。始めに、近代と中世の狭間における特殊性としての近世の混在と独自性について述べた。写本→ 版本→ 活字本という出版機構の移りに伴う飛躍的読者層の拡大、出版文化の成立について語り、又、近世におけるノンフィクションと虚構、物語への立ち位置を考えた。さらに、都会的「粋」は二次自然の象徴であり、そこには政治的自然操作や季節感の画一化が生まれる土壌があるのではないかなどとも述べた。
そして、現在構想している『資料コレクション環境日本文学』(仮題)の近世作品について述べた。

Ⅰ 動物との交流
『百物語』・『雪窓夜話』・『甲子夜話』『狐の業と兔が申す』・『北越雪譜』『熊人を助ける』
Ⅱ 植物との交流
『菅笠日記』・『井関隆子日記』・『方四の薫り』・『盆栽秘言』・『幕末日本探訪記』・『七草考』・『兼山遺草』・『自然真営道』・『大学或問』
Ⅲ 災害
『犬方丈記』・『薬師通夜物語』・『北行日記』・『後見草』・『飢饉噺書類集』・『視聴草』・『柏井氏難行録』・『折りたく柴の記』・『耳袋』・『むさしあぶみ』・『かなめいし』・『青ヶ島往還記』
 Ⅳ 都市とツーリズム
『東山道の記』・『己巳紀行』・『遊歴雑記』・『官遊紀勝』・『篠枕』・『三餐余興』・『樺島浪風記』・『江戸名所花暦』・『花見の日記』・『何羨録』・『武江産物志』・『江漢西遊日記』・『夷男道行』
Ⅴ 異文化との遭遇(周縁:蝦夷、沖縄、東アジア、西洋など)
『えみしのてぶり』・『十勝日誌』・『西域物語』・『蝦夷談筆記』・『高田屋嘉兵衛日記』・『琉球談』・『呂宋覚書』
Ⅵ 食文化の多様性
『詩本草』・『料理物語』・『長崎名勝図絵』・『朝鮮通信使の記録』
などである。

講演では、以上の選択の根拠などを述べたが、的確な説明にはならなかったと思う。多様な近世の作品から選ぶのはきわめて難しい作業である。又、自然描写と云えば、芭蕉をはじめとする俳文を如何に考えるか。又戯作などの虚構性の強い作品をどう考えるか、課題は重い。
しかし、いま日本が抱える環境に対して、殊に、東日本大震災以降の状況に文学作品がいかに応じるかという問題を考える時、環境文学研究の意義は大きいはずだ。従来の文学史の流れに安穏に乗っているだけでは、新たなものは出来ない。文学研究に必要なのは、常にテキスト解釈の模索である。

歴史資料の中で、<文学>(ことば)の有効性を考えることは、今こそ重要である。文学は無用の用ではない。文学は有用である。

 
追記
上にあげた作品はあまりなじみのないものも多く含まれているであろう。まずは、学生諸君に是非事典等でこれらの作品解説でも読んで欲しいものだ。

 
2017年8月25日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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