6年にわたるプロジェクトを終えて

6年にわたるプロジェクトを終えて

学園長 高橋 和也

 

 自由学園で学んだ方々のその後の歩みを自由学園のWEBサイトで紹介する「自由学園100人の卒業生+」が、2016年秋の開始以来6年の年月を経て、2021年12月に完了しました。

 

これまでも自由学園の卒業生の社会での働きを紹介する取り組みは、『自由学園の手紙』という書籍の形で第1巻が1994年に、第2巻が1999年に出版されています。この2冊は寄稿していただいた原稿をまとめたものですが、これに続く「自由学園100人の卒業生+」は、インタビュー形式でお話を伺わせていただき、プロジェクトチームが記事に仕上げるという形をとりました。

 

大切な人生の経験やお仕事についての思いをお話下さり、ご協力くださった100人の皆さまに心より感謝を申し上げます。

 

 創立100周年に向かうこの最初の企画に、プロジェクトチームは3つの思いを込めました。 第1に、自由学園で学んだすべての方々と学校とのつながりをより深いものにしたいという思いです。卒業生の皆さんと共に100周年を迎え、共に次の100年に向かいたいとの願いをもってプロジェクトを開始しました。

 

そのためインタビューの範囲を最高学部卒業生のみにとどめず、自由学園で「同学の友」として共に学んだ高等科修了段階の卒業生や途中転学の方々にまで広げ、「卒業生+(プラス)」としました。

 

第2に、現在自由学園に在校し学んでいる生徒、学生たちへの応援メッセージという意味も込めて、卒業後の歩みに自由学園での学びがどのようにつながっているかを伺いたいという思いです。言い方をかえれば、創立100年という節目に、卒業生の生き方という側面から自由学園の教育の特色や意義を明らかにしたいという思いです。

 

そして第3に、これから自由学園を知ってくださる方々に、卒業生の「今」の姿を通じて、この教育への理解を深めていただきたいと考えました。そのため、今働き盛りである30代、40代の若い世代の方々を中心に紹介することにしました。

 

 インタビューという形で私自身、90人を超える卒業生の皆さんのお話を聞かせていただけたことは本当に貴重な経験となりました。

 

100人の方々のお話しを伺い、あらためて実に多様な分野で個性豊かに卒業生が活躍されていることを実感しました。

 

たとえばタイトルのみをいくつか紹介すると、「オピニオンの発信で社会をよりよくする」「この世のただ中でキリストに従って生きる」「子どもがいるがん患者とその家族を支える」「医療を受けることが難しい人のために働きたい」「環境と経済を可視化し、社会課題を解決する」「『よそ者』の視点で水俣病を伝える」「共助の精神を育むコミュニティ支援のあり方」「混ざり合う社会を体現する『ブラサカ』を広めたい」「男女兼用マタニティ服で共に力を合わせる社会を」「旅行は平和産業 人の繋がりが平和をつくる」「神様が創造された世界を科学でひも解く」「農業は隣人愛の具体的な実践」「自然への畏敬の念を忘れず、食への感受性を拓く」「パンを通じて愛を配りたい」といったように、様々な分野に広がる言葉が並んでいます。

 

これらのお一人おひとりがそれぞれの場所で、信念をもって、いかに生きるかという人生の問いに向き合い、また社会の課題に向き合って使命の道に歩む姿にとても励まされました。

 

「社会をよくするために」という言葉を多くの方々が語られたことも印象深く、新しい価値を創り出す生き方からは輝きが感じられました。この6年間の折々に、お話しからいただいた励ましや希望を生徒、学生たちにも紹介してきました。

 

もちろん人生はすべてが順風満帆というわけにはいかず、幾人かの方は、回復困難と思われる病や精神的な人生の危機、あるいは生活を共にしていた生徒の自死、悲惨な震災現場での救援活動など、人生を揺るがすような絶望感や無力感に襲われた大きな痛みを伴う経験をお話しくださいました。それぞれその暗闇のトンネルにどのような光がさし、どのように再び歩み出すことが出来たかというお話には最も強く胸を打たれました。

 

また100人の中には、私自身が担任や授業を通じて接し、悩み多き10代の姿を目の当たりにしてきた思い出深いかつての「生徒たち」もいました。大人として成熟した姿に触れることができたことは大変感慨深く、教師としての大きな喜びを感じました。彼らと較べ自分自身はこの間一体どれほど成長しただろうかと振り返る機会ともなりました。

 

「自由学園の卒業生はどのような道に進まれるんでしょう。」

 

自由学園に関心を持ってくださる方からしばしばこのようなご質問をいただきます。この質問には「どんな職業を」という意味合いに加え、「どんな生き方を」というより本質的な問いが含まれているように感じます。「自由学園100人の卒業生+」はこの両方の問いに十分お答えできる内容となったと感じています。ぜひ多くの方にお読みいただきたいと願っています。

 

6年にわたるプロジェクトをお支えくださったライターの中林智さん、菅原然子さん、菅聖子さん(編集責任兼務)、カメラマンの赤木真二さん、明石雄介さん、マネジメントの薮内明子さん、赤木博子さん、長い間本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。