虐げられた人の盾になる

虐げられた人の盾になる

渥美 陽子
Yoko ATSUMI

渥美坂井法律事務所弁護士法人 弁護士

2002年女子部高等科修了

2021年5月14日談

代表を務める麹町のオフィスにて

仕事に熱中する父の姿を見て弁護士を志した

 弁護士ってあまり身近にいないし、弁護士にお世話になることってほとんどないですよね。私は父が弁護士だったのですが、仕事人間の父は帰ってくるのがいつも深夜。それを私は「それだけ熱中しているのなら面白い仕事なんだろう」と思っていました。女性が生きていくには手に職があった方がいいと思ったこと、ちょうどロースクールができるという時代だったこともあり、私も弁護士になろうと考えました。父は反対もしませんでしたが、特に薦めるようなこともしませんでしたね。

 

2002年に早稲田大学の法学部に入学し、その後に東京大学法科大学院に2年。修了した2008年に司法試験に合格しました。司法試験に合格すると、司法修習生という立場になり、法曹の仕事を実地で学ぶことになるのですが、迷わず弁護士を選択しました。裁判官と検察官は公務員なので自由がなさそうだな、と感じたのもあります。

 

最近はすぐ独立する弁護士も増えていますが、すぐに独立すると顧客の獲得が難しいこともあり、たいていはどこかの事務所に就職してノウハウを覚えてから独立するパターンが多いです。私は2009年12月に弁護士登録を行いましたが、最初は西村あさひ法律事務所に4年ほど所属しました。その後はカルロス・ゴーン氏の弁護でも知られる弘中惇一郎先生の法律事務所ヒロナカに移り、3年ほどして独立し、「あつみ法律事務所」を開所しました。その後、父の事務所と合流して、昨年12月に「渥美坂井法律事務所弁護士法人」の麹町オフィスを開設することとなりました。

調べ物は日常。膨大な資料と日々格闘する(本人提供)

言葉によって人を動かす仕事

 弁護士にも得意分野があります。西村あさひでは、企業の契約関連が中心。融資契約書や関連書類の不整合チェックや条項の修正交渉等をやっていました。こちらの事務所では紛争案件に関わることは多くはなかったのですが、当時、私が偶然個人で受けた仕事で会社の経営権争いに係る案件が、紛争解決第1号となりました。知人からの依頼で受けたものですが、印象深い案件でした。

 

ヒロナカでは、刑事弁護の中でも被告人が無罪主張をする案件を多く取り扱っています。刑事事件の多くは、被告人が罪を認めているものですが、そうではない案件なので、ハードなことが多いです。特捜部の事件にも関与することがあって、すごく勉強になりました。

 

現在の事務所は、ファイナンスやコーポレート分野、企業再生など幅広い分野を扱っていますが、私は訴訟案件を多く扱っています。実際には訴訟に至る前に和解交渉が進められるため、裁判に至るケースはあまり多くありません。うちの事務所は割と裁判を起こす方ですが、それでも2、3割程度です。裁判になると年単位で時間がかかるので、双方に負担がかかります。弁護士は弁が立つと思われるかもしれませんが、一方で重要なのが文書の作成能力です。ものを読んだり調べたりというのが日常ですし、裁判所は基本的には書面で主張を理解するので、自分が紡ぎ出した言葉で動かすしかないんです。弁護士は言葉によって人を動かす仕事だと思っています。

前に進むための区切りをつける紛争解決

前に進むための区切りをつけることがやりがい

 コロナは法曹の世界にも大きな影響を与えました。最初の緊急事態宣言のときは、裁判の期日が全部飛ぶという、前代未聞の事態になりました。ただ、これにより民事訴訟ではオンライン裁判が開かれるようになりました。とくに地方の裁判は、オンラインでできるのは大変助かりましたね。もっと早くに導入してもらいたかったと思うほどです。日本の裁判は慎重に進めるため判決までに時間もかかり、執行にも時間がかかります。少しでも負担が減れば、その分だけ仕事に集中できる時間が生まれることにもなります。休日は休むようにしてはいますが、完全に仕事のことを忘れる瞬間はありません。

 

弁護士は虐げられている人たちの盾となる存在です。極端な場合を除き、たとえ自分の倫理観とあまり合わない人に対しても、「守る役割の人」として全力を尽くしますし、時には公権力に立ち向かうこともあります。

 

しかし裁判の場は、必ずしも真実を発見する場になるとは限りません。神様の目から見た真実かどうかは、誰にも分らないのです。また、当事者の気持ちに沿った判決が出にくいというのも事実です。謝罪してほしいという気持ちに対して、民事では損害賠償金を支払うことを命じる形で判決が下されます。裁判官によって結論が変わることもあるため、単純には解決しません。

 

それでも私が紛争解決にやりがいを感じるのは、不幸を感じている人たちが先に進むための区切りをつけてあげられるからです。負ける可能性が高いことを説明しても、気持ちの整理のために訴訟をしたいという依頼人もいます。弁護士という仕事は大変ですが、自由学園で鍛えられたおかげで、多少のことではへこたれません。これからも、誰かの味方になって徹底的に頑張ることで、少しでも人が前向きになれるよう、手助けをしていきたいです。

渥美 陽子(あつみ ようこ)

1984年生まれ。初等部より自由学園に学ぶ。2002年女子部高等科卒業後、早稲田大学法学部に進学。2006年、東京大学法科大学院に進学し、2008年に司法試験合格。新62期として2009年に司法修習修了、同年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。離婚から相続、不動産取引、名誉棄損、株主権行使、証券取引等監視委員会対応、性犯罪等、取扱業務は多岐にわたる。