患者さんに寄り添う病院の薬剤師

患者さんに寄り添う
病院の薬剤師

後藤 佐惠子
Saeko GOTO

ベトレヘムの園病院 薬剤師

女子部 62 回生

2020年10月2日談

東京・清瀬市にあるベトレヘムの園病院の中庭で。

入院患者さんのそばで働く病院薬剤師

 ここはカトリックの精神を土台に、心身に重い疾患をお持ちの方の尊厳をお守りすることを目的に運営される療養型の病院です。急性期の病院とは違い、患者さんの多くは神経系疾患や脳血管障害の後遺症、難病や末期がんなど緩和ケアを含む長期の療養を余儀なくされている方々です。

 

ふだんみなさんは、薬局に行ったとき薬剤師に会いますよね。私は病院にいる薬剤師なので、それとは少し違います。医師から処方箋が出て調剤するところまでは薬局薬剤師と同じですが、入院患者さんに日常的に接することが大きな仕事なのです。

 

病院には、医師、看護師、介護士、理学療法士、言語聴覚士、臨床検査技師などさまざまな専門家が働いていて、薬剤師もそのチームの中にいます。毎日患者さんと一番近くで接するのは看護師や介護士ですが、その人たちとコミュニケーションを取りながら、薬が効いているか、悪い方向にいっていないか、患者さんの状態をみています。

 

たとえば、意識が朦朧としたり、食べられなくなったり、歩けなくなったりするのは薬の影響による場合が多い。そういうことが起きていないか、実際に患者さんに会い、看護記録を見て、医師や看護師と意見交換しながら薬の調整をしていきます。

 

医師は科学者として体の症状を診ていますが、薬剤師は化学者として薬が体に入ってから出るまでをモニターしています。もちろん最終的な判断は医師ですが、そのサポートをするのが薬剤師の役目です。

92床の病院で3人の薬剤師が働いている。

一人ひとりに細やかに対応する

 医師も薬についての知識はありますが、膨大な種類がある薬の細かいことは、やっぱり私たちがいちばんわかっています。たとえば「薬の構造がこうなっていて、この部分が悪さをする」とか「体に入ってから出るまでの時間が何時間だから、処方するタイミングはいつ」など、薬の成分と一人ひとりの状態を合わせていきます。

 

ここは療養病院なのであまり急変はないため、夜は患者さん50人に対して看護師2人、介護士1人の体制です。その環境で問題になるのは、夜中に薬が切れて具合が悪くなり、患者さんに変化が起きること。そうならぬよう投与時間の相談をするのも大事な仕事です。薬が効きすぎてもまた具合が悪くなるので、量や種類も慎重にみています。

 

薬でコントロールしている部分も大きいのですが、のみすぎはよくないので、ここでは薬をなるべく減らしていきます。それができるのは、多くのスタッフの目があるから。病棟で働く人たちがそれぞれの症状を理解し、何かあったときにはすぐに対処できるので、薬を減らすという勇気ある決断ができるのです。

 

10数年ほど前から病院内の病棟薬剤師の存在は全国に広がってきましたが、従来の薬剤師の仕事に加え医療チームに関わることができるので、すごくやりがいがあります。

「病院の薬剤師はとてもやりがいのある仕事です」

「よくみる、よくきく、よくする」から始まる

 薬剤師を目指したのは、初等部のころから理科が好きだったから。母が入退院を繰り返していて身近に医療があったこと、父から「女の子は薬剤師がいいよ」と言われ続けてきたことも影響しています。資格さえあれば、女性でもさまざまな働き方が選べる仕事。父は元銀行員でしたが、医薬分業を見据えて薬剤師の需要が増えることも知っていました。世の中を見通す力があったのだと思います。

 

自由学園を卒業し薬科大を出た後は、薬が創りたいと思って製薬会社の研究所に就職しました。しかし、思うような部署で働けず2年で退職。その後結婚し、子育てをしながら病院や薬局で働いてきました。10数年くらい前まで「薬剤師はハサミが使えて、7の段の掛け算ができればOK」と言われていたんですよ。今はAIが出てきて機械化も進み、機械調剤の部分では、調剤助手に任せることも増えています。

 

機械ができることは機械に任せ、AIにはできない患者さんのケアをしていくところに、これからの薬剤師の存在意義はあると思います。私は、病棟薬剤師として現場で患者さんに直接触れ、チームで働くようになって、ますますやりがいを感じるようになりました。

 

この病院は職員が100人ほどなので風通しがよく、患者さんについても話をしやすい雰囲気です。5年前、先輩の紹介でここに来たら、偶然にも院長の娘さんが学園の卒業生だったと知り、とても驚きました。最近私は院内に電子カルテを新規導入するメンバーになり、薬剤師以外の仕事も引き受けて困難なことが続きましたが、院長からはいつも「がんばれ、自由学園」と言われています(笑)。

 

仕事の上で意識しているのは「よくみる、よくきく、よくする」ということ。初等部で学んだ言葉ですが、患者さんの様子をよく見て、スタッフの話をよく聞くことから、すべては始まると思っています。

後藤 佐惠子(ごとう さえこ)

1963年生まれ。自由学園最高学部卒業後、星薬科大学で学び薬剤師に。製薬会社に就職。結婚後は、子育てをしながら病院、薬局に勤務し、自由学園の学校薬剤師も兼務。2015年よりベトレヘムの園病院へ。同病院診療協力部薬剤科科長。