身近な野草を通じて自然の魅力を伝える

身近な野草を通じて
自然の魅力を伝える

半谷 美野子
Miyako HANYA

森林インストラクター・和ハーブインストラクター

1996年女子部高等科修了

2021年3月1日談:オンライン

道端に生えている草にも名前がある。

芝生の草を食べるという衝撃的体験

 昔から生き物が好きで、初等部の時は理科の先生になりたいと思っていました。「『雑草という名の草はない』と天皇陛下(昭和天皇)がおっしゃっていた」と先生からお聞きして、草取りをしながら、雑草の名前をどんどん憶えていきました。印象的だったのは、芝生の草取り中に先生から「カタバミって酸っぱいのよ」と教わったこと。それがきっかけで、今では年間100人以上に、カタバミの酸っぱさを味わっていただき、活用法をお伝えしています。

 

入間の実家ではノビルやヨモギを摘んだりしていましたが、芝生に生えている草を食べるという経験は衝撃的でした。カタバミは酸っぱかったし、チドメグサはパセリの味がしましたね。ムクドリがついばんでいる草も食べてみましたが、それはおいしくありませんでした。中等科1年の時、夏休み当番で学校に泊まった時には、一緒に当番をしていた学部1年生に「スベリヒユは食べられるらしいですよ」という話をしたら、みんなで食べてみようとなって、夜に料理をしたこともあります。今もっている草の知識の7割は、初等部と女子部で得たものなんです。

 

初等部5年生と中等科3年のとき、じゃんけんに負けて堆肥の係になり、いつも堆肥まみれになっていました(笑)でも、おかげでパッと見て何が堆肥になって、何が堆肥にならないかがわかるようになりました。いま、私の周りには畑をやっている人もいっぱいいますが、堆肥のことを聞かれれば、その時の経験を基にアドバイスができますし、堆肥に関する論文も造園会社時代に執筆しています。

ヨモギからお灸作りとお灸体験、ヨモギの石鹸作りのワークショップ

自然保全を考えるきっかけづくりを

 開発によって自然が破壊されていくのは悲しいことです。自然保護について学びたくて、高等科を出て日本大学に進学しました。森林学を専攻したのは、土壌や大気、木造建築、水の循環、動物、昆虫から環境問題に至るまで、自然の基本を網羅できるからです。森林の仕組みや林業、山村の文化や安全活動等の知識と技術を伝える森林インストラクターの資格も、大学3年で取得しました。卒業後は、練馬の造園会社に就職。そこでは剪定した枝をチップにして堆肥にしていたので、堆肥作りの経験が活きました。枝から堆肥をつくり、土に戻すことで木の循環が生まれますが、燃やしてしまえば灰しか残りません。循環を考えるということは、自然保全にとって非常に重要なことです。そのためには、人にその重要性を伝えていくことが必要です。

 

夫の仕事の都合で、15年前に愛知県犬山市に移住しました。犬山には豊かな緑がありますが、地元の人がその魅力に気づいていないと感じたのが、今の仕事をするきっかけとなりました。造園会社では、公園管理の一環としてNPOを立ち上げる仕事をしましたが、東京でできて犬山でできないわけがない、と移住して2年目に「いぬやま自然とあそび隊!」を設立しました。未就園児の親子の会で、市内の森や里山の中で、五感を通して自然の魅力や危険について知ってもらう活動をしています。和ハーブインストラクターの資格も取得し、一人でも多くの方に自然を知っていただくため、各地での講師活動のほかに、月10日ほど愛知県の薬草園で薬草の栽培管理や講座企画も行っています。

講座で一番大切なのは、実物の植物に触れていただくこと

五感を働かせて植物を知る

 薬草というと、漢方などの生薬を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、実際に民間薬として使用されている薬草は、薬局方(*)に掲載されている植物以外にもあり、私が使うのも身近な植物が多いです。例えば、ドクダミやビワの葉のチンキは虫刺されのかゆみ止めにしています。もぐさの原料になるヨモギは保湿クリームにしたり、ジェノベーゼソースにすると美味しいです。ツワブキは火傷に効くことを祖母に教わりました。私が学園の芝生で食べたカタバミも薬草としての効能がありますが、実は高級ハーブとして売られており、日本ではとても高級なレストランでないと出てきません。薬草の多くは食用可能。面白いのは、「食べられるんだ」と思うと、みんな真剣に見るようになるんですよ(笑)。

 

気を付けなければいけないのが毒草です。視覚はだまされやすいので、触覚と嗅覚も頼りにします。特に嗅覚は重要です。水仙とニラやノビルを間違えて食中毒を起こす事故がありますが、切ったときに独特のにおいがしなければ、お店で売っていたり、人にもらったとしてもおかしいと思わないといけません。今は世の中、強い香料のものが多く嗅覚が鈍りがちですが、嗅覚は安全のためにも鈍くなってはいけないと思います。毒草を摘まないためには、五感を研ぎすますことが、何より大切です。

 

もし、災害がおきて流通が止まったとしても、こうした知識があればきっと役に立つことでしょう。いまはコロナ禍で気軽に出かけられなくなりましたが、それでも受講者の方から「野草を知ったおかげで家の庭も畑もとても楽しかった。見るだけで豊かな気持ちになった」と言っていただいたこともあります。好きなものはだれもが守りたいと思うもの。だから、自然をみんなが好きになってくれるよう、この仕事を続けていきます。

 

(*)薬局方:医薬品に関する品質企画書。医薬品や生薬について記されている。

半谷 美野子(はんや みやこ)

1977年生まれ。幼児生活団より自由学園に学ぶ。1996年に女子部高等科を修了、翌年に日本大学 生物資源科学部森林資源科学科に進学。卒業後は練馬区にあるアゴラ造園に勤務し、公園管理やみどりの環境学習のNPO設立に携わる。2006年に愛知県犬山市に移住。「いぬやま自然とあそび隊!」代表を務め、野草や自然の魅力を伝えるための講師業、執筆業等を手掛ける。