神様が創造された世界を科学でひも解く

神様が創造された世界を
科学でひも解く

橋本 みのり
Minori HASHIMOTO

大東文化大学 スポーツ・健康科学部准教授(生態学・土壌動物学)

女子部 70 回生

2020年1月8日談

大東文化大学の研究室にて。

キシャヤスデという不思議な生物

 ヤスデって知っていますか。生態系の中で分解者と言われ、よい役割をする生きものですが、見た目はムカデと似ていてちょっと臭いので、一般的には害虫扱いかもしれません。私が主に研究しているのは、8年に1回しか地上に表れないキシャヤスデ。幼虫の7年間は土の中で脱皮を繰り返し、成虫になったときに地上に現れます。

 

生息場所は、冬が気温5℃以下、夏の活動時期でも昼間25℃くらいにしかならない標高の高いところで、山梨や長野の小海線付近などで数多く出てきます。線路を覆うほど大量発生し、車輪で踏むと体液がついて汽車が急勾配を滑ってしまう。汽車を止めてしまうほどなのでこの名前がつきました。以前はどれくらいの周期で現れるかわかっていませんでしたが、列車の運行記録をたどった研究者が、8年に1度だと発見。それが1976年と84年の大発生の時です。

 

大型のヤスデは生態系の中で、ミミズとほぼ同じ役割をしています。森の落ち葉が雨風にさらされて、細菌類とカビの仲間が早くからくっつきます。落ち葉がやや硬くても食べるダンゴムシやワラジムシなどが最初にやってきて、その後、徐々に柔らかくなってきたところにミミズやヤスデがやって来ます。

 

キシャヤスデは元々落ち葉を食べると言われていましたが、私自身の研究で、土もかなり食べていることがわかり、ミミズと同様に土壌改変者の役割を持っていることを発見しました。腐植の混じった土をひたすら食べ、糞をして微生物を活性化する。密度が高いと土を食べる割合も高くなって、土壌を一気に変えていきます。ただし最近は、以前ほどヤスデが大発生していません。今はそれがなぜかを解明すべく、追いかけているところです。

左:山梨でのヤスデ現地調査  右:土の中から出て来たヤスデ

人のつながりに導かれて

 キシャヤスデが出るとわかっている年は、できるだけフィールドに出られるスケジュールを組んでいます。学生たちを連れて行くこともあるんですよ。普段は1、2年生に教養科目としての生態学と生物学を、環境創造学科で生態学や物質循環を、また教育学科の人に小学校教員になるための生物を教えています。

 

自由学園にいる時は、まさか自分がこの分野に進むとは思ってもいませんでした。卒業後、人の心理や精神に関わる勉強がしたいと思って浪人したのですが、勉強するうちに生物学がとても楽しくなりました。学園で四季折々に接してきた生き物について、後付けで理論を教わり、実体験を伴う勉強になった。それで生物学科に行こうと思ったんです。

 

大学3年の頃、「分解者の働きはとても大事だけれど、わかっていないことが多い」と教わって興味を持ち、土壌動物の研究を始めました。思い出したのは、私が普通科2年の時、先輩が学業報告会で土壌動物を取り上げていたこと。内容はよく覚えていないのですが、実はその時指導をされていたのが、私の恩師である新島渓子博士だったんです。偶然って面白いですね。

 

大東文化大に来てからは、大橋二郎先生を紹介していただきました。大橋先生は男子部の卒業生で、このスポーツ・健康科学部を立ち上げた教授です。最初は学部が違ったのですが、今は同じ学部。不思議に自由学園とつながって、導かれてきたことを感じています。

大学での授業(ゼミ)の様子

小さな生き物に命を与え、役割を持たせた神様

 20年以上研究を続けてこられたのは、わからないことが山ほどあるから。なぜだろう?と考えるのが楽しくて仕方ないからです。まずは自分が知りたいのですが、もう一つは神様が創造された世界を理解したいという思いがあります。

 

私はクリスチャンなので、生物を学ぶ時、進化論と創造論の問題にどうしてもぶつかります。しかし、二つは決して相容れないものではないと考えています。むしろ、神様がどんなふうに世界を創られ、生物がどう変化してきたのかをひも解いていくのが、科学だと思っているんです。

 

小さな生き物に命を与え、役割を持たせる神様はすごいと思うし、デザインがとても上手だなとも思います。保護色一つとっても、周りの風景に溶け込む色を出す遺伝子を与えている。そう解釈していくと、生物の面白さを人に伝えることは、神様の創られた世界を伝えることだなあ、と。

 

高等科2年で生物の時間に国立科学博物館に連れて行ってもらい、進化についてのレポートを提出しました。その時も今のようなことを書き、織田秀実先生にA評価をいただいたことを覚えています。後からご著書を読み、先生も同じ考えの持ち主だったのではと思いました。高2でそんなレポートを書く人はいなかったかもしれない。でも、進化を考えるとき、自分には一番引っかかる部分だったので、思い切って書いてよかったと思いました。この考えを持っていなければ、生物の世界に入っていなかったかもしれません。

 

今後は、大学で環境や生態系に関心を持つ学生をたくさん育てたい。研究分野ではヤスデだけでなく土壌動物の世界を多くの人に広めたいと思っています。そして、巧妙につくられているこの世界の一部でも解明できたら……というのが自分の大きなテーマです。

「学園の自然豊かな環境で、生き物をたくさん見たことが今に生きています」

橋本 みのり(はしもと みのり)

1971年生まれ。自由学園女子最高学部卒業後、神奈川大学理学部応用生物科学科卒業。横浜国立大学工学研究科博士後期課程修了。さまざまな大学で非常勤講師として働いた後、大東文化大学環境創造学部専任講師となり、2年前より現職。専門は生態・環境、土壌動物、教科教育(理科)。