子どもがいるがん患者とその家族を支える

子どもがいるがん患者と
その家族を支える

小嶋 リベカ
Rebekah KOJIMA

国立がん研究センター中央病院 心理療法士

女子部 71 回生

2021年2月8日談:オンライン

仕事場である国立がん研究センター中央病院で。

親子のコミュニケーションの橋渡し役

 私は今、国立がん研究センター中央病院で「ホスピタルプレイスタッフ(HPS)」として勤務しています。主に関わるのは、未成年の子どもがいるがん患者さんとそのご家族です。この病院の初回入院患者のうち、4人に1人は未成年の子どもがいます。

 

HPSの役割は、親子のコミュニケーションの橋渡しをすることです。病院で私が行った調査によれば、がんであることを子どもに伝えたくないという親は半数くらいいました。しかし、内緒ごとが増えると、子どもが抱える不安や違和感は大きくなっていきます。ですから、真実をすべて伝えるのではなくとも、親子で話せることを増やしていくことが大切です。子どもも、大人と同じく、様々な感情を抱えています。抱えきれなくなると、個々のやり方で表現をします。子どもは、とくに遊び(プレイ)を通じてその気持ちを整理することがあります。子どもにとって遊びとは、心のバランスをとるための大事なツールなのです。親の治療や副作用について、玩具を使って教えることもあります。

 

親が病気になって「なんともない」という子どもには出会ったことがありません。子どもの発する言葉には、感情が隠されていることがあります。「別に何も感じない」と語る子どもは、何かしらの理由があって気持ちを親に見せずにいるのでしょう。「親に面会したくない」という子どもは、想像力があるからこそ、そういう風に振舞うのでしょう。おちゃらけてしまう子どもは、周りの様子を見て「なんか元気づけなきゃ」と思う優しさをもちあわせているのでしょう。こうした子どもたちの力が親とのコミュニケーション不足によって削がれてしまうことがないようにするのが、私の仕事です。

子どもにMRIについて説明するための玩具。

「今日もわからない自分であるように」

 私がサポートする患者さんの7割以上は終末期です。患者さんは、子どもとこれまで通りの日常を過ごしたいけれど、それができないという現実を前に、子どもへの申し訳なさという気持ちから大きく揺らぐことがあります。そんなときは、ほかの患者さんがどのように子どもに愛情を伝え、ときを重ねたかなどを話し、親の子への愛情表現が継続できるように支えます。息を引き取られるときは家族の大切な時間です。その家族の輪の中に子どもも居られるように支えることもします。病室に入る前に不安そうな子どもには、親の様子や親への気持ちの伝え方を話し、病室の中へと送りだすこともあります。

 

仕事をするうえで心がけていることがあります。「自分が主役にならない」ことです。ご家族の一人ひとりにはこれまで培った力があります。その家族の力を信じ、大切な人を失った後も生きていける力を信じています。ですから、「私が連絡を取り続けてなんとかしなきゃ」とはなりません。

 

一日の仕事を始めるときは、「今日もわからない自分でありますように」と願います。わかった気になってしまうことが一番避けたいことです。年間200家庭以上にお会いしていると、複数のご家族から同じ相談を受けることもありますが、ご家族にはそれぞれの歴史があり、背景が異なります。マニュアル化せず、それぞれに向き合うことが大切です。ですから、どんな一日でも、「わからない自分であるように」と心がけているのです。

親子の指紋を色紙の表裏にスタンプして作られたお守り「ゆびぺったん」

ちゃんと欠けを知り、グラグラしてもいい

 私は自由学園の高等科在学中に父を亡くしました。その半年後に受けた渡辺和子先生の授業で、先生がおっしゃった言葉が印象に残っています。「優しいことは強いことだけど、その強さが見出せない自分も愛していく。その精神的自由が生きていく上で必要です」という言葉です。このときのノートは今でも大事にとってあります。誰もが喪失する経験をもちますが、喪失した自分を愛するためには安心できる相手が必要です。私自身が安心できる相手になりたい、とこの言葉を折々に思い出しながら学んできました。

 

この言葉のおかげで何かを失うのは、自分に「欠け」があるからだという思い込みも見直すことができました。「欠け」も「揺らぎ」も自分の一部であり、醜い部分ではないのです。ちゃんと欠けを知り、グラグラしていいのです。これまでの仕事を通じて、そういった部分が大事なのではないかと思うようになりました。

 

「なんでこんな目に」と、そこだけを切り取ったら暗闇としか思えない状況は、誰もが経験することでしょう。その瞬間だけを切り取らないことが、サポートするうえでは非常に大事です。子どもに言わないという親の精一杯があり、面会に行かないという子どもの精一杯があります。それぞれを尊重し、病院での出会いだけではわかり得ない前後の歩みが在るということを認識しながら、患者さんご家族の味方であり続けたいと思っています。

「今日もわからない自分でありたい」

小嶋 リベカ(こじま りべか)

1972年生まれ。British Association of Play Therapists認定プレイセラピスト、臨床心理士、公認心理師。1993年女子学部卒業、1997年ルーテル学院大学卒業、2003年サリー大学ローハンプトン校大学院で学位(Postgraduate Diploma in Play Therapy)取得。2004年よりセラピスト、スクールカウンセラー等を務める。2013年より国立がん研究センター中央病院緩和医療科にてホスピタルプレイスタッフとして勤務。