旅行は平和産業人の繋がりが平和をつくる

旅行は平和産業
人の繋がりが平和をつくる

増田 沙紋
Saaya MASUDA

星野リゾート

女子部 92 回生

2021年7月4日談:オンライン

「星のや東京」にて。都会のホテルだが環境に配慮し、前庭を造成している

本質的な価値を提供していく

 現在、入社3年目。最初の1年は「星のや東京」というホテルの現場で働いていましたが、企画開発部署へ異動願いを出し、海外事業グループ発足と同時に配属されました。現在の部署は10名弱の規模で、日本国外の事業に携わるため、英語でのコミュニケーションが多くを占めています。英語でのコミュニケーションはもともと得意ではありませんでしたが、仕事を通じて学び続けています。

 

この部署で私は、海外に新しいホテルをつくるプロジェクトのマネジメントを担当しています。どのプロジェクトにおいても地域ごとに少しずつ異なる魅力を将来のホテルのお客様に提供できるように、土地やマーケットのアセスメントを丁寧に行います。プロジェクトの大枠が決まったら、建設に関わるさまざまな知識を持っている専門家の方々と協力しつつ、プロジェクトが進むようスケジュールや予算、契約の管理をします。

 

現在の部署では中国大陸を除く(別の部署が担当)、国外のプロジェクトを担当しています。弊社が国内でこれまで取り組んできた日本旅館や温泉旅館の考え方をどのように国外でマーケティングしていくかも重要なポイントです。

 

ホテルづくりはゼロから1を生み出す仕事ですが、星野リゾートには「新しく市場をつくる」「ブルーオーシャンを狙っていく」社風があり、既存の競合にとらわれず、誰に何を提供したいのか、という観点からコンセプトを考え抜き、それを土台として本質的な価値を提供していきたいという理念があります。手放された物件をリノベーションするプロジェクトも中にはありますが、それらにおいてもその施設に求められる本質的な価値をしっかりと提供していくことを大切にしています。

入社1年目、「星のや東京」で働いていた頃。(本人提供)

地域の魅力を掘り起こす仕事

 学園卒業後に通った東大の大学院には、官僚を目指す学生が多くいました。私自身も国家公務員になることを考えていましたが、インターンで経験してみると、官僚は条例や政策を作ることが主な仕事。そうではなく、何かが起きている現場に近いところで働きたいと思ったのです。

 

星野リゾートについては、就職情報誌で知りました。当初全く考えていない業界でしたが、誌面には国内での開発の仕事が紹介されていました。私は最高学部時代、名栗(*)に通って地域活性化や土地の魅力について考えていた時期があります。そのことを思い出し、地域の魅力を掘り起こす星野リゾートの仕事は、とてもやりがいがありそうだと感じました。

 

学部2年のときにはネパールのワークキャンプにも参加し、自分が生きてきた環境とは違う環境や人の生活に関心を持つようになりました。大学院に進学したのは、「環境問題と人間の営み」を学びたいと思ったから。そこで選んだ研究テーマは、「日本に住む外国人労働者が、どのような生活をしているか」でした。カレー屋さんで働くネパールの方々に、日本で幸せに生活できているのか、インタビューを重ねました。そうしたさまざまな経験は、直接ではありませんが、今の仕事に繋がる必然があったのかもしれないと思います。

 

(*)名栗:埼玉県飯能市にある山間地域。自由学園では1950年からこの地域で植林活動を行っている。

コロナ禍でリモートワークが増え、現在は週に一度出社している。

温泉でゆっくりすることは争いを鎮める

 「観光業が平和につながる」と、弊社の代表は言います。代表は米コーネル大学の大学院を出ていて、同級生や先輩後輩とも関わりが深く、その方々と仕事をすることもあるそうです。当然いろいろな国籍の友人がいます。その文脈の中で代表の話を聞くと、人の繋がりは相手を思いやることに繋がり、平和にも繋がっていくということが心に刺さります。

 

私が通った大学院も「人間の安全保障」を学ぶところだったので、同級生の中には熱心に平和構築を研究する人がいました。当時の自分はあまり平和研究に関心がありませんでしたが、今はその人たちと同じ方向にベクトルが向かっていると感じることがあります。もしかしたらこの仕事の延長線上で、彼らと再び関わりができるかもしれません。

 

人と人が幸せに過ごすこと、温かな施設を提供すること、温泉でゆっくりしてもらうことが、争いを鎮めるきっかけになるかもしれない。自分が思っている以上にそれは意義があることで、結局は「人間の安全保障」に繋がるのかもしれないと思います。

 

今の仕事は、実は自由学園時代と似ていると思うことがたくさんあります。たとえば、プロジェクトマネージャーの仕事は、お料理リーダー。役割分担を決め、タイムテーブルを考え、それぞれの仕事の進捗やタイミングを図って声を出していく。その規模が少し大きくなったものが、今の私の仕事です。

 

また、ホテルのサービスの現場は、寮長と似ています。寮生が笑顔で「ただいま」と帰って来てくれる時の嬉しさは、ホテルのゲストが到着された時と近い感覚があるのです。今と違うのは、学園時代は考える時間がたくさんあったこと。「自由学園の自由ってなんだろう」「なぜこれをしなければならないのだろう」とずっと考え続けていました。正解はまだ見つけきれていませんが、今、さまざまな選択をする時、あの頃考えていたステップが力を与えてくれていると感じます。

増田 沙紋(ますだ さあや)

1993年生まれ。自由学園最高学部卒業後、東京大学大学院総合文化研究科(人間の安全保障プログラム)修了。2018年に株式会社星野リゾート・マネジメント入社。星のや東京サービスチームで働き、現在は海外事業グループで新規開発案件のプロジェクトマネージャーを務める。