ドラマだから伝えられること

ドラマだから
伝えられること

増田 靜雄
Shizuo MASUDA

NHK名古屋拠点放送局制作部ドラマ班

2000年 男子部高等科修了

2021年3月12日談:オンライン

今まで携わってきたドラマの台本(本人提供)

テレビドラマ作りを志した理由

 元々、僕は記者志望でした。国内も世界も激変した90年代。政治、経済、社会で大きな出来事が次々と起こる中、男子部での生活を過ごしました。現場で活躍している記者の姿をテレビで見て、漠然と「将来は記者になりたい」と思うようになり、政治学を学べる大学に進学しました。しかし、就職活動を始めた大学3年の秋、大きな転機がありました。就職セミナーで、あるテレビ局のドラマプロデューサーの方と出会いました。

 

数多の大人気ドラマを生み出したヒットメーカーで、「なぜドラマ?」との質問に、「テレビのジャンルは一つの手段でしかないと思う。例えば戦争を伝えるとしても、どのジャンルだったら伝えたい人に届くか。若い人たちに伝えたいから、僕はドラマを選んだ。それと小さい時から純粋にドラマが好きだったから」と。

 

僕自身もドラマにすごく影響を受けてきたことに、そのとき気づいたんです。寮にいたときも新聞のテレビ欄をチェックし、休日になると平日録りためたドラマを見ていました。ドラマだからこそできることがあると感じ、ドラマ制作志望で就職活動を開始しました。

ドラマ『ドリームチーム』の撮影で使われたキッチンカー(本人提供)

みんなが気づかないことをキャッチする

NHKに入ると、最初は地域局で経験を積みます。初任地は福岡。情報番組内の4分間のリポートを作ったり、「のど自慢」や福岡発の音楽番組などを担当しました。

 

入局2年目、先輩から「北九州にすごい小児救急病院があるらしい」と聞いて取材に行くと、小児医療の現場が大変なことになっていると知りました。夜間救急外来はいつも病気を患ったお子さんたちでいっぱいで、待ち時間が長時間にわたることが当たり前の状況でした。しかも現場の先生と話すと、90%以上は救急を必要としない軽症の患者さんだと言います。医師の皆さんは、救急を本当に必要とする患者さんを救えなくなってしまうと危機感を抱いていました。取材を進めていくと、背景に核家族化で孤立し日々不安を感じているお母さんたちの苦悩が見えてきました。「相談できる相手がいない、場所がないから救急に来る」。その問題を『クローズアップ現代』で取り上げてもらい、これが全国デビュー作となりました。

 

その後、長崎に赴任して諫早湾干拓の現場にも通いました。地元漁師の方と農家の方々が、一つの公共事業を巡って、いつの間にか対立関係にさせられている現実を目の当たりにしました。

 

普段の生活では気づかないことが世の中にはたくさんあります。僕らの仕事は、現場に行って、実際に起きていることにいかに気づき、好奇心を持って見つけられるかだと思います。これは、中学高校で養ったように思います。山登りや寮生活などさまざまなことに取り組む中で、相手にまず寄り添うことを学びました。男子部での日々の生活が今の仕事につながっています。

演出家は編集まですべてに関わる(本人提供)

“物語”が力になる~プラットホームが多様化する難しい時代で~

 その後、東京のドラマ番組部に入り、朝ドラの助監督からスタートしました。そして、ある脚本家の方との出会いが、大きな転機となりました。取材をたくさんなさる方でした。医療系のドラマだったのですが、地域局時代に培った繋がりで、たくさんのスーパードクターをご紹介し、一緒に取材しました。また「こんな面白いことが今起きている!」「実は医療業界はこんなことになっている」など取材メモを日々作って、その脚本家の方に渡し続けたんです。

 

出来た脚本を読んだとき、衝撃を受けました。“現場”の取材情報をたくさん取り入れながら、その先にある本質を見極め、“今”の時代の空気を、ユーモアと合わせてとても面白く描いていたんです。そして、物語の根底には、脚本家の方の強い思い、情熱がありました。“物語”が持つ力、凄さを痛感したんです。そこからますますドラマ作りが面白くなりました。

 

最新作2021年1~3月放送の『ドリームチーム』では、企画の立ち上げから、台本の中身、キャラクター設定、ロケ場所探しから撮影、編集まですべてに関わりました。このドラマは、世代を超えた友情を描いています。コロナ禍の時代だからこそ、どんな年代でも「今からでも夢は描ける」という思いを込めました。脚本家の方、プロデューサー、みんなでアイデアを出し合いながら物語を構築していきました。脚本家の方も僕もバスケットボール部の出身だったので、バスケ部の寮を中心に話をふくらませました。自分の学生時代の経験も多少入っています。

 

かつて、日本のドラマはオリジナル作品が多かったのですが、今は漫画など原作があるものがほとんどです。ゼロから作り上げるのは、やっぱり大変。でも、オリジナルで勝負したい気持ちがあります。

 

ここ数年、映像業界はプラットホームが多様化し、大きな変化の時を迎えています。中でもテレビドラマの立ち位置は難しくなっています。テレビにしばられず、常に新しいものをキャッチアップしようとしています。

 

今後は、国際共同制作に取り組みたいと思っています。日本のドラマ作りの良さを大事に、いろんな国の方と一緒に世界へ打って出ていけるようなドラマを作りたいです。

増田 靜雄(ますだ しずお)

1981年生まれ。2000年自由学園男子部高等科修了。筑波大学卒業後、2005年NHK入局。福岡放送局、長崎放送局を経て、東京の制作局ドラマ番組部へ。朝ドラや大河ドラマ、単発ドラマなどに携わり、『花子とアン』『64』などで演出を担当する。2015年には米ロサンゼルスのUCLAフィルムスクールで客員研究員として1年間学ぶ。最新作は2021年放送のドラマ10『ドリームチーム』。