「嘘」と「真実」で刺激的な作品を

「嘘」と「真実」で
刺激的な作品を

太田 祐司
Yuji OHTA

アーティスト

男子部 59 回生

2018年8月26日談

埼玉県越谷市にあるアトリエにて。

イタコの降霊でポロックの新作を描く

 この絵は、生誕100年になるジャクソン・ポロックの霊をイタコに呼び寄せてもらい、僕のアトリエで描いてもらったものです。僕がインタビューをする形で降霊し、イタコが絵を描いていくのですが、その様子はすべて映像に収めていて、映像も合わせてひとつの作品となっています。絵には、一切手を入れていません。2作品作ってもらったのですが、どちらも予想以上の出来でした。

 

僕は「嘘」をテーマに作品を作っているのですが、そもそも、嘘ってなんだろう。テーマとして人を説得させられるほどのものがあるんだろうか? ということをずっと考えています。嘘は必ず言葉を介するので、美術作品としてはダイレクトに伝わりにくい部分もあります。

 

ただ、映画にしろ小説にしろ、みんな作り物だと思います。僕は作り物が好きです。でも場合によっては自分の作品を作り物とは言いたくありません。展示する時は本物として見せたい時もあります。映画や小説はフィクション、ノンフィクションと区別されますが、美術はもともとフィクションです。基本的には「嘘だ」と怒る人はいません。

 

もう一つの作品は、「半馬博物館」。半馬はすでに絶滅した二足歩行をしていた架空の生物です。模型やミイラ、土偶や古文書、半馬の鳴き声や、オリジナル落語の映像などさまざまな物を作って展示しました。

 

イタコや落語家のように、作品に他人が介入したほうが作品の説得力は増します。僕はフィクションをテーマにしているけれど、その中で人間のおかしさや面白みを表現したいとこれらの作品を作った時は思っていました。100%自分で作った物には広がりがなく、作品にした時にあまり面白くありません。

 

他人の介入によって僕にはない部分が生まれると、見ごたえが出て作品の強度が増します。イタコの面白み、半馬について語る誰かのおかしさ。作品では、そういうものが出てくることを望んでいます。

『ジャクソン・ポロックの新作をつくる(2011)』(本人提供)

大学の教授を納得させたかった

 男子部の頃から美術の授業はとても好きだったのですが、学部に進学してから美大に行きたいと思うようになりました。学部3年の1年間、夜は美術予備校に通って受験したら芸大の一次試験はパスしたので、美大受験が不可能ではないだろうと思い学部を辞めました。その後、東京造形大学の絵画科に入学。3年の時にクラス分けがあり、インスタレーションクラスを選びました。

 

インスタレーションとは、絵画や写真のような平面作品ではなく、空間として見せる作品です。そこで出会った教授が、後に学長になる有吉徹さんという人でした。作品を見る力のある人で学生が作った作品の本質を、作った本人よりも的確に見抜いてしまうような人でした。東京造形大学の時は、その教授を納得させたいと思い制作をしていたように思います。

 

ある時、大学で自分のコンセプトをまとめなければならず、冷静に客観的に作品について文章化したら「嘘」でまとめるとすべてが収まった。そこで自分のやりたいことに気づきました。

 

卒業制作で1年かけて作ったものが「半馬博物館」です。この作品はZOKEI賞という卒業制作においてクラスの中から1人に与えられる賞をもらえました。それまでは卒業したら就職しようと思っていたのですが、やはりアーティストになりたいと思い東京芸大の大学院を受験。合格してそこで学び、現在まで作品作りが続いています。

『半馬博物館(2009)』の半馬ミイラと解説(本人提供)

仕事だけでは生きていけない

 卒業してすぐ、大学の友人たちとアトリエを借りました。僕は作品だけでは食べられないので、週4日は別の場所で働いて、週3日ここで制作。仕事は業務委託という形でホームページ制作を請け負っています。

 

取引先にもよりますが仕事においてはお金のこと最優先です。ただ僕としては稼ぐことだけに躍起になるのは本当にキツいなと思います。もちろん請け負った仕事はちゃんとやっていますが、僕は仕事だけでは生きていけません。

 

なぜかといえば、やはり制作がしたいからです。制作したいから働いています。仕事は仕事、美術は美術。頭を使う場所が全然違うので割り切っています。

 

美術だけでは食べていけませんし、儲かるようなものではないです。でも自分としてはやりたいことを続けることに、人間の価値があるんじゃないかと思います。

 

今はフェイクニュースやデマなど、社会に嘘があふれる時代。もっと違う見せ方をしないと美術作品として厳しいかなという気持ちもあります。社会の流れの中で制作をするわけだし、やるからには美術の世界で評価を得たいです。

 

作品を見る人には面白く見てほしいのですが、僕はただ面白いからやっているわけではありません。趣味とは違うと思います。自分の選んだこの道で、実力でやっていけるようでありたいと思っています。

埼玉県越谷市にあるアトリエにて。

太田祐司(おおたゆうじ)

1980年東京都生まれ。98年自由学園高等科卒業後、最高学部3年で中退。東京造形大学絵画科、東京芸術大学修士課程修了。「嘘」をテーマにさまざまな作品を制作。代表作に「ジャクソン・ポロック新作展」や「半馬博物館」などがある。