環境と経済を可視化し、社会課題を解決する

環境と経済を可視化し、
社会課題を解決する

小野 あかり
Akari ONO

環境・経済コンサルタント

2012年女子部高等科修了

2021年2月5日談:オンライン

仕事場がある牛久にて

環境負荷を「見える化」するLCA

 環境について関心が高かった私は、高等科を終えてから東京都市大学環境情報学部で学び、大学院まで進学しました。そこで出会った主人と結婚し、主人が立ち上げた会社で企業や自治体に対して、ライフサイクル・アセスメント(LCA)という手法を使って二酸化炭素(CO2)排出量等を測定し、企業の製品や自治体活動の環境負荷を「見える化」する仕事を行っています。

 

LCAというのは新しい学問です。たとえばペットボトルの原材料から廃棄までのライフサイクルを見て、環境負荷について考える、というものです。ライフサイクル全体で見るため、「製造工程における負荷が大きい」「廃棄工程における負荷が大きい」というのが数字となって見えるため、その改善が検討しやすくなります。負荷が大きいことが分かれば、企業イメージにとってはマイナスとなってしまうので、「もうちょっと低く出してくれないか」という企業もいないわけではありません。それでも、10年前と比べればずいぶん変わってきており、積極的に情報を公開していく姿勢が企業側にも見られるようになりました。

 

会社を立ち上げて3年目を迎えましたが、LCAをやっている会社はまだ少ないのが現状です。そのため、大きなものでは国からの仕事もあります。一方で、まだまだLCAについての認知度が低いこともあり、LCAの仕事は2~3割程度。残りは自治体を対象とした、地域経済を見える化するコンサルティング業務を行っています。

CO2の排出量や地域経済の見える化で無駄をなくす

課題を抱える自治体の経済活性化へ

 自治体にもさまざまな課題があります。とくに人口減少や高齢化といった社会課題を抱えている地域は深刻です。東日本大震災の被災地だった東北地方の自治体などでは、震災から10年が経過したことで復興需要が減少し、国の支援金もなくなることで、どのように地域経済を回していくかが大きな課題となっています。

 

私はそうした地域の自立化を支援しています。とくに街づくりの勉強をしていたわけではないので、仕事をしながら学んでいるというのが正直なところです。が、まずは地域経済の見える化をすることで無駄をなくし、経済の好循環を生み出すために、自治体の産業連関表の作成を行うことから始めています。産業連関表は、生産状況や産業間の取引状況をまとめた統計表ですが、国や県レベルではあるものの、自治体レベルではありません。

 

たとえば電力は、多くの自治体が他地域から買っています。何十億円という金額を支払っていますが、それを自分たちの自治体で作れるようになれば、その分のお金をほかに回すことができます。もちろん電力をつくるというのは簡単なことではないので、すべてを無理やり自分たちで賄おうということではありませんが、できるところからできる分だけやっていきましょう、というのが私たちの提案です。

 

重要なのは町の人が押し付けられたように感じないよう、自主的に動いてもらえるようにすること。チラシを配ってワークショップへの参加を促しています。ワークショップでは、パートナー企業とも協力して、30年後、50年後にどうなってほしいかという長期的な共有ビジョンを作成しています。参加率は自治体によってまちまちで、そこが課題です。役場は恩恵を受けるけど住民には恩恵が感じられないとなれば、人々の関心は失われてしまいます。ワークショップに参加してよかったという思いを持って帰ってもらえることを意識しています。産業連関表で町の状態を知り、自分たちの関係している部分をどうするかを考えることから始まります。数字というのは、人を動かすうえで非常に重要なものだということを実感しています。

エコプロダクツ展示会にて、来場者にサービス内容を説明する(本人提供)

行動変容を促すのは「恐怖心」と「ワクワク」

 環境問題は複雑です。そのため、母(環境ジャーナリストの枝廣淳子さん)が何十年と取り組んでいるのに解決しない問題って何なのだろうと思ったことが、この世界に入ったきっかけです。地域経済の仕事をするとは思ってもみませんでしたが、環境も経済も全部つながっているものです。どれか一つをとって解決するというものではありません。解決を目指すなら、包括的に見ることが求められます。

 

人は簡単に変わることができません。変わるには理由付けが必要で、危機感や恐怖心を刺激することが最も効果的です。地域経済もLCAも、何もしなければこんな結末が待っているということを示し、それを避けるための行動を促すための現状を伝えるという仕事です。

 

自治体の担当者が変わっても継続してもらうためには、自分自身の行動で町が変わったり、リアクションがあるのだという手応えが感じられるような引き継ぎが必要です。ワクワクするような仕事を生み出し続けることを目指して、地道に一つひとつ積み上げていきたいと思います。

「ワクワクするような仕事を生み出し続けたい」

小野 あかり(おの あかり)

1993年生まれ。中等科3年で自由学園に編入。2012年、女子部高等科修了。東京都市大学環境情報学部、同大学院環境情報学研究科に進学し、2016年3月修了。その後、IT企業での勤務を経て、同年7月に夫が立ち上げた株式会社Green Guardianに入社。1児の母。