人に「幸せ」を感じてもらえる仕事を

人に「幸せ」を
感じてもらえる仕事を

佐々木 多恵子
Taeko SASAKI

アロマテラピーインストラクター ビューティーセラピスト

女子部 75 回生

2016年9月20日談

アロマテラピーのレクチャーをおこなう(日本アロマ環境協会「アロマの現場」より)

教室の空気が好きだった

 私、女子部講堂の後ろにある教室が大好きで、そこで授業を受けるときはいつも「幸せだな」と思っていました。小中学校で過ごしたコンクリートの校舎はあまり好きではなかったんです。でも、自由学園の教室の雰囲気や、室内から見える自然、寒いときは寒くて、暑いときは暑いという感覚も大好きでした。

 

こんなに学園の建物が好きだったのに、それがフランク・ロイド・ライトに由来することは全然意識していなくて。ある日テレビを見ていたら、「あれ? 学校の建物に似ている建物だな」と思って、そこで初めてライトを知ったのです。それから図書館に行って、ライトと名の付く本を片っ端から読みました。私がいいなと思った空間には意味があり、歴史があったことがわかり、もっとライトのことを知りたいと思うようになりました。

 

学園では農作業や掃除の時間があり、日常的に土に触れますが、高等科のころはそれがイヤでイヤで。いつも「私、女子高生だよ? なんで土まみれにならなきゃいけないの?」と言っていました。

 

でも、ライトに恋をして、ライトが自分の作品を「有機的=オーガニック」と称していることを知り、土の感触、風の音、太陽の光、全部を知れば彼の世界にたどりつけると思い、学部2年のグループ勉強(選択制の授業)は農芸を選びました。

 

学校の花壇を担当し、土作りをしながら、その感触にすごく癒され、「こんなに気持ちがいいのに、どうして今まで土に触ってこなかったのだろう」と後悔しました。こうした作業すべてがライトの理解につながると思っていたので、本当に充実していました。

中日美容専門学校美容科2年生のアロマテラピー基礎講座(本人提供)

父の病気をきっかけにアロマの世界へ

 私はのんびりした性格なので、卒業する年の秋になっても進路が決まっていませんでした。この年は美術展があり、お客様の中に「こんなに素晴らしい環境でのびのびと勉強してきた人が、うちの会社に就職してくれたらいいのに」とおっしゃった方がいらしたそうで、そのご縁で大高建築設計事務所に就職。最初は事務職で入りましたが、これまでライトを知るためにしてきたことを話すと、2年目から大学の工学部第2部で建築を学ぶ環境もいただきました。

 

その後いろいろな機会を得て建築関係の仕事を続けていたのですが、父が病気になり転職。病室で母が父のマッサージに使っていたエッセンシャルオイルに癒され、それがきっかけで植物の香りを使って体や心を整える、アロマテラピーに興味を持つようになりました。

 

建築をつきつめたいという思いはありましたが、父の見舞いの時間がとりやすい派遣の仕事に変え、建築とは全く関係のないコールセンターで働きました。同時にアロマテラピーのアドバイザー・インストラクターになるための勉強をスタート。

 

思えば私、常に働きながら学んでいるのです。大変でしょうと言われますが、学園では常に勉強しながら働く生活だったので、違和感はなかったですね(笑)。アロマは自然に触れるし、健康に役立ち、香りで快適な空間をつくります。その空間を気持ちのよいものにするという点では、建築と同じような考え方で取り組めたと思います。

ナチュラルオーガニックイベントでのメイクセミナー(本人提供)

広くいろいろ経験してみる

 私はもともと、生活の中で誰かに「幸せ」を感じてもらえる仕事をしたい、という思いをいつも持っていました。

 

たとえばアロマテラピーを覚えたての頃、海外旅行のツアーで一緒になった女性が時差ぼけで具合が悪くなったことがありました。私が持参したエッセンシャルオイルを渡すと、翌朝から「ウソみたいにすっきりした」と元気になり、とても感謝されました。

 

そんな経験もあって、人の生活を手助けするアロマテラピーを仕事にしたいと関連会社に入り、ショップやスクールの運営を経験。33歳で独立しました。

 

最初に働いた建築事務所が、33歳定年システムをとっていたので、私も漠然と「どんな仕事に就いても、その年で独立しよう」と決めていたのです。その後は美容専門学校でアロマテラピーについて教えたり、美容関連のPRやナチュラルメイクの指導もしています。

 

独立当初、最初の2カ月間は収入ゼロ。打ち合わせに出て企画を出しても、気づくとアイデアだけ横取りされていた、なんてこともありました。でも、独立する前に「万が一、生活に困ったら、近所のお店でアルバイトしよう」とだけ決めていたので、あせりはありませんでした。結果的にバイトはしませんでしたが、生活していくために必要な働きなので、それが落ち目だとも思いませんでしたね。

  

好きなこと、やりたいことに素直になるって大事だと思います。自由学園は、広く多分野のことを学べるので、その環境を最大限に生かして、生徒さんたちはいろいろなことに挑戦したらよいと思います。社会に出た時、その経験が思わぬところで生きてきますから。

佐々木 多恵子(ささき たえこ)

1976年生まれ。97年自由学園最高学部卒業後、大高建築設計事務所に就職。翌年から工学院大学建築学科で学びながら働き、2002年3月卒業。03年(株)環境計画へ転職。設計部で公共施設などの設計にかかわる。04年父の入院をきっかけに、派遣会社に所属しインターネットサポートのコールセンターで働く。その間日本アロマ環境協会のアロマテラピー資格を取得。05年アロマ関連会社・パスカルコミュニケイションズに就職。09年独立、講師活動を開始。