楽しく仕事をすれば世界は広がる

楽しく仕事をすれば
世界は広がる

小路 桃子
Momoko SHOJI

WebマガジンCheRish編集長/『自由学園最高のお食事』企画・スタイリング

女子部 74 回生

2017年6月10日談

主宰するウェブマガジン「CheRish」の作業中。

料理の授業が好きだった

 『自由学園最高のお食事』を企画したのは、学園に恩返しをしたいという気持ちがあったから。でも本当のことを言うと、学生時代の私は学園で言う問題児だったんです。

 

普通科1年の時、とても仲良くなった友だちがいたのですが「ご親友はだめです」と先生に注意されて以来、挫折の連続でした。高等科になると、ピアスの穴を開けたり、寮生だったのにこっそりアルバイトをしたり、やりたいことは全部やりました。最近になって同級生から「悪いことは全部桃ちゃんに教わった」と言われて、苦笑してしまいました。私自身は挫折しながらもやりたいことをしていたので楽しかったのですが(笑)。

 

北海道に住んでいる母は何度も学園に呼び出され、そのたびに申し訳ないなと思っていました。母も卒業生(50回生・足立洋子さん)ですが、大らかな人ですから私は8年間やってこられた。母にまで小言を言われていたら、きっとつぶれていたと思います。

 

その母が料理の本を出版することになり、私はスタイリストとして関わるようになりました。そこで知り合った人と学園の話をする中で生まれたのが、このレシピ本の企画です。私、料理の授業だけはすごく好きでした。そこに学園の精神が詰まっていると感じていたので、多くの人に伝えたかったんです。

 

同じクラスの中林香さん(カメラマン)、菅原然子さん(ライター)、母(料理家)と、JIYU5074Laboという4人のユニットをつくり、ボランティアで関わることを納得してもらって、本の制作を始めました。

母足立洋子さんの料理スタイリングはすべて手がけている。

感謝の気持ちと恩返しと

 出版の第一の目的は、自由学園を多くの人に知ってもらうこと。レシピ本にしたのは、学園を知らない人にも気軽に手にとってほしいと考えたからです。そのため私たち卒業生チームは、学園の説明は最小限にしようと考えていました。

 

ところが、担当編集者や出版社のカメラマン、デザイナーの方など、卒業生ではないスタッフと仕事を進めるうちに、彼らが「もっと自由学園のことを説明するべき」と助言してくれました。カメラマンの写真には、食堂の黒板やテーブルの温かい空気など、私たちが当たり前すぎて見落としていたことが写っていて、学園のよさを外の人からあらためて教えられました。

 

出版に当たってはさまざまな反対もあったんです。それでも担当編集者は、一度も心折れることなく支えてくれました。また、学園長の高橋先生が「僕が責任を持ちます」と言ってくださったのも本当にありがたいことでした。

 

制作中は学園で学んだことのフル活用でした。短時間で手順よく仕事を進めること。作業分担をしっかりすること。意見をはっきり言い合うこと。全て学園で身についたことでした。あらためて学園で学んだことの重さを感じました。

 

私が真面目な生徒だったら、本を作ろうとは思わなかったかもしれません。学生時代は反発ばかりしていたけれど、友人たちとの本作りを通して学校のよさをあらためて感じることができたことに、本当に感謝しました。

「CheRish」を女性の活躍の場にしたい。

女性が活躍できる場を作りたい

 私は学園卒業後、実家がある北海道で大手建設会社に就職しました。学園では何もできない劣等感があったけれど、社会人になって上司に仕事を評価してもらい、初めて「自分にもできることがある!」と思えました。

 

結婚して再び上京し、IT系企業に転職。最初はカスタマーサポートをしていましたが、同じ部署の人が次々産休に入って企画担当者が不在となり、急きょ出した女性向け企画が「面白い」と採用されて企画職に異動。それが大きな転機となりました。

 

それからは自分のやりたいことをどんどん提案し、海外出張にも何度か行きました。その時学んだのは、「仕事は楽しくやったほうが絶対にいい」ということ。楽しんでいると新しいアイデアが浮かぶし、各方面から声をかけてもらえることを実感しました。

 

その会社で8年ほど働いて退職。次の仕事について模索していた時に、ある方の協力を得てWebマガジンを立ち上げました。今はまだ他の仕事もしながらですが、さまざまな女性と一緒に、大人女子を楽しむWebマガジンを作っています。

 

私は、自分が「何もできない」と思っていた時期が長かったんです。でも、いろいろな人の力を借りてたくさんの経験をしてきました。

 

「できない」と思っていたときは小さな失敗さえ怖かったけれど、「できる」と思えたら、無限の可能性が広がって失敗も経験と思えるようになりました。失敗がつながって私の「今」がある。だから、何もできないと思っている人の力になれるよう、女性が活躍できる場を作りたいと思っています。

『自由学園 最高の「お食事」:95年間の伝統レシピ』(新潮社刊)の売上の一部は、学園に寄付される。

小路 桃子(しょうじ ももこ)

1975年生まれ。1996年自由学園最高学部を卒業後、鹿島建設(株)に就職。2005年にGMOインターネット(株)に転職し、女性向けブログサービスヤプログ!でコンテンツ企画・著名人ブログを担当。映画、美容、レシピコンテンツなどの企画を手がける。2013年に退職、WebマガジンCheRishを立ち上げる。母、足立洋子さんのフードスタイリストとしても活動中。