「既成概念の枠を超える」クリエイション

「既成概念の枠を超える」
クリエイション

竹島 綾
Aya TAKESHIMA

ファッションデザイナー

女子部 85 回生

2019年7月17日談

東京練馬区のayâmeアトリエにて

未知なる世界への好奇心

 幼い頃から洋服が大好きでしたが、デザイナーになるなどおこがましいと思うくらい、その職業と自分の将来を重ねて考えたことはありませんでした。

 

中等科から最高学部4年課程までを自由学園で過ごし、その時々でやりたいことに夢中で取り組んでいました。「学園ライブ」で行うショーの服作り、有志体操やイベント企画、ダンス、英語学習など。共通していたのは、自分自身がかっこいいと感じること。

 

まだ見ぬものへの好奇心、開拓者精神のようなワクワク感のまま突き進む私にとって、その当時の保守的な環境では向かい風を感じることもままありましたが、自分の意思を見失わずに信じる気持ち、自信はなくても飛び込む勇気をもつこと、それによってかけがえのない経験や同志と巡り合えること、それが自由学園での日々で学び得たものです。また、興味のある様々な分野に思いきり取り組んでみたからこそ、巡り巡って「服」という自分が一番好きなことへの確信に辿り着きました。学園での、トライアンドエラーの模索のような時間が私にとって大きな財産になっています。

ラガーフェルドが採用したデザイン画

海外生活で得た宝物の経験

 新卒で服飾雑貨の商社に入り、充実はしていたものの、将来の目標は見出せませんでした。そこで10年後に何をしていたいか考え、「独立して自分のブランドを持つ」計画を立てました。それが一番ワクワクすることだったからです。早速、仕事と並行して、ファッションデザインコースに通いましたが、技術と知識の詰め込み教育に疑問を持ち、留学を決意。会社もたった10ヵ月で辞めてしまいました。

 

留学先はファッションの3大校のひとつで、クリエイティブを最重視するロンドンのセントラル・セントマーチン美術学校。イギリスの教育は、「自分が創りたいもの」ありき。創造力が養われる最高の環境でした。

 

大学に入って3年目、インターンで渡仏しシャネルのクチュールアトリエ(*1)の「メゾンルマリエ」に入りました。私がデザインした刺繍パターンが、カール・ラガーフェルド(*2)の目に留まり、実際のコレクションの服となったとき、夢みたいなことは意外と目の前の現実に起きるんだな、と人生で初めて感じました。また、オートクチュールの現場でチームの一員として制作したこと、クリエイティブ・ディレクターであるクリステル・コシェール(*3)のブランド「コシェ」の立ち上げに携わったことはとても貴重な経験となりました。

 

卒業制作では、自分にしかないものとは何か、ルーツを振り返り、我が家では祖母が作った水色のワンピースを代々着ていたことをヒントに、「ドレスという主人公が旅をする」というテーマで、フェミニンな素材や色を用いて、あえてメンズウエアを作りました。既成概念を壊すというのは「否定」ですが、私がやりたかったのは概念の枠を超える「受容」です。多様性や新しい視点を賞賛するロンドン、本物のクチュール技術に触れたパリにいたからこそ創り出せた作品であり、また外に出たからこそ窮屈で生きづらかった日本の素晴らしさも受け入れることができた。こうした精神や経験は一生の宝物ですし、これからもずっと大切にしたいと思っています。

 

(*1)クチュールアトリエ:パリ・オートクチュール組合に加盟する加盟店(メゾン)傘下の生地の選定から縫製までを行う工房(アトリエ)

(*2)カール・ラガーフェルド:「シャネル」や「フェンディ」といった世界的ブランドのクリエイティブ・ディレクター

(*3)クリステル・コシェール:「メゾンルマリエ」のクリエイティブ・ディレクターを経て、2014年に「コシェ」を立ち上げたファッションデザイナー

グラン・パレでのショー前日の制作風景 於シャネル本社(本人提供)

人生という創造的な冒険を楽しむ

 30歳でブランドを立ち上げて2年、「10年後にブランドを持つ」計画は形になりましたが、さまざまな問題に直面したことで、挫折感や絶望感との向き合い方も学びました。

 

販売を目的とした「商品」となると、「作品」とは求められるものが全く異なることも強く実感しました。単純に良いものをつくれば評価される世界ではなく、「商品」はただの服のデザインに限らず、戦略的な商品構成やプロモーション、営業など多角的なアプローチによって、ブランドイメージの形成や売り上げ、ファン作りに繋がっていくことを知りました。

 

サステナビリティーも重要なテーマです。世界に誇る素晴らしい機屋さんや職人さんが日本各地にいること、また後継者不足により失われる伝統技術がある現実を目の当たりにしています。服を着てくださる方々もその産地の方々も、携わる方みんなが楽しくて嬉しくなる、誇ってもらえるようなものづくりがしたいと思っています。どのように社会に貢献していくか、それを考えて実行する時期が来たと感じています。

 

自分のブランドを持てたのは、頭で考えるよりもまず動いてみて逃げられない状況をつくり、恐れと不安に躊躇せず、問題が起きてから解決策を考える、という行動力があったからです。どんなに情熱を燃やし続けても、動かなければ現実は何も変わらない、努力すれば実るといえるほど現実は甘くない。でも続けていれば夢のまた夢のような素敵なことも起きる、という両面を、私は身をもって知りました。

 

自分が発信する事柄で、誰かに新しいワクワクを提供することが、変わらない私の創作活動のモチベーションです。オリジナルの物語を描くように、まだ見ぬ新しい景色に心を躍らせ、その道のりを楽しみながら、冒険心をもってこれからも生きていきたいです。

竹島 綾(たけしま あや)

1987年生まれ。女子部中等科より自由学園で学び、2009年自由学園最高学部4年課程卒業。2010年に渡英し、2012年にセントラル・セントマーチン美術大学に入学。在学中にシャネル傘下のアトリエ「メゾンルマリエ」で1年間インターンシップを行い、「コシェ」のブランド立ち上げにも携わる。2016年に学士課程ニットウェア科を首席卒業。2017年に自らのブランド「ayâme」を立ち上げた。