城崎温泉を支える若旦那(後編)

城崎温泉を支える若旦那
(後編)

田岡 聖司
Seiji TAOKA

城崎温泉 旅館 小宿 縁 代表

男子部 55 回生


椿野 泰宏
Yasuhiro TSUBAKINO

城崎温泉 つばきの旅館 常務取締役

男子部 59 回生


城崎温泉で家業を継いだ2人の卒業生対談、後編。

2020年11月11日談:オンライン

城崎温泉にかかる柳湯橋で。

歴史ある旅館を継ぐということ

田岡 僕は長男でしたから、子どもの時から旅館を継ぐということを、お客さんからも言われていました。モーグル選手としても活動していたので、スキー業界での仕事を考えた時もありましたが、やっぱり城崎の土地が好きだったんです。でも、2003年頃に「そろそろ帰る」と言ったら「まだ帰ってこなくていい」と言われ、有馬温泉で1年間修業を。それでも「まだいい」と言われて、ロンドンでも修業して、ようやく2005年に帰りました(笑)。それから8年ほどして、一番近い旅館が廃業して放置されていたところを改修して、小宿 縁を始めました。城崎はカニが有名ですが、オフシーズンにも目玉になるものを、と考えて但馬牛をメインに据えた旅館をデザインしました。

中学から地元を離れたので、戻ってきたときに自分のネットワークはほとんどありませんでしたが、青年部に所属したことで広がり、いまでは何不自由なくやっています。逆に城崎を離れたことは大きな経験だったと感じています。

 

椿野 僕も小さい時から両親の背中を見て育ちました。旅館を少しでも継ぐ気があるなら、と父も通った自由学園を紹介されました。田岡君兄弟が先に入学していたので、「城崎のお兄ちゃんが行っているなら」ということもあって入学しましたが、自由学園の入学イコール城崎に帰ってくるという意識があったんだと思います。父が豊岡市の市議会に出馬したため、就職3年目で戻ることになりました。東京でいろいろ楽しくなってきた頃でしたが、初めて父親からお願いされたなと思って、ひょこっと帰りました。

学校で学んだ机の上の勉強以外のことすべて、掃除や洗濯、料理、寮生活、那須での牧場体験や植林活動に至るまで、いろんな経験がいまの仕事に活かされています。人手が足りなければ皿洗いも風呂掃除もトイレ掃除もするし、壊れたところは直す。何でも自分でできるのは、学園の生活があってこそ身に付いたことなんだと感じます。。

城崎温泉の冬の味覚松葉ガニを手に、椿野さん。

町おこしのきっかけは自転車旅行

田岡 いま、椿野君と2人で力を入れているのが自転車で、12年ほど前からツーリング大会を開催しています。今では800人以上が参加する大きなイベントです。コロナ禍でも、好きな時に来て決まったルートを走ったら参加証を出すようにしたら、450人くらいの申し込みがありました。サイクリングで盛り上げようと思ったのは、高等科1年のときに東京から長崎まで自転車旅行をした経験があったから。しばらく自転車からは離れていたのですが、最近また熱が出てきています。

 

椿野 僕も中学3年の時に青森まで自転車旅行をしました。東京から城崎まで自転車で帰った経験もありました。ふと自転車を使って観光イベントにつながったらいいなと思ったのですが、それまで他地域と連携して何かを作り上げるというイベントはあんまりなかったので、非常にいいイベントになったと思います。

 

田岡 豊岡市一帯の山陰海岸ジオパークはユネスコ世界ジオパークの認定も受けており、認知度向上のためにジオパークのスポットを自転車で巡り、体で感じておいしいものを食べてもらう「コウノトリチャレンジライド」も始めました。レンタサイクルもやっており、城崎の裏側を見られるサイクリングガイドツアーは好評です。

 

椿野 いまは地域の独自性を売りにした着地型観光が注目を集めています。この地域ならではの体験は魅力あるものです。日本でジオパーク認定されているところは多くありません。実は、山陰海岸ジオパークには経済活動が伴っていないので認定を取り消すという話も出ていて危機感を覚えています。ジオパークを使った活動を、サイクリングを通じて支援したいと思っています。

小宿 縁は「但馬牛の宿」を謳う

城崎の未来を見つめる

田岡 城崎温泉には1300年の歴史があります。僕らの責任は、その歴史をさらに1000年、2000年と続けていくことです。城崎に住んでいる子どもたちに、城崎って楽しいなと感じてもらい、この先の10年、20年を支えてくれる人のための場所づくりをしていきたいと思っています。城崎は何かあってもすぐに手を打って、いい方向に転換していけるそんな街です。未来を担う子どもたちにしっかり、城崎というバトンを受け渡していくことが僕たちの使命です。

 

椿野 コロナ禍によって旅館の姿も変わりつつあります。以前、講演会で「動物園は小さい時に1回行って、大人になってカップルでデートにいって、結婚して子供が生まれた時にもう一度行くという経営スタイルでやっている」と聞きました。城崎もそういう街にしていきたいと思っていますし、自分の旅館も人生で3回訪れてもらえるような旅館にしたいと思っています。

「学園で学んだすべてが生かされている」と椿野さん。

田岡 聖司(たおか せいじ)

1977年生まれ。中等科より自由学園に学び、最高学部卒業後はビジネスホテルとリゾートホテルの営業職を経て、ホテルリステルズに4年間勤務。有馬温泉で1年間、三國屋ロンドン支店「菊」レストランで1年間の修行をした後、城崎温泉・三國屋に戻る。三國屋別館として、小宿 縁を設立、代表を務める。

 

 

椿野 泰宏(つばきの やすひろ)

1980年生まれ。中等科より自由学園に学び、最高学部卒業後、ホテルオークラに2年間勤務。その後、城崎温泉に戻り、つばきの旅館の経営に携わる。