JIYUGAKUEN 100th ANNIVERSARY

よりよい教育を目指した
学校改革について

共に生きる社会を創る
学校を目指して
― 共生共学・生活即探求―

学園長 更科 幸一

自由学園は2021年に創立100周年を迎えます。「真の自由人をつくる」「思想しつつ 生活しつつ 祈りつつ」「生活即教育」は、変わることのない自由学園の教育理念です。現在、この理念のもと、変化する社会の課題に向き合い、未来を創る子どもたちのためのよりよい教育を目指した学校改革に取り組んでいます。2024年度からは中高の男女共学も開始したいと考え準備中です。目指す学校のビジョン、改革の中心となる「共生共学」「生活即探求」についてご説明させていただきます。

キリストをただ一人の
先生として

新しい時代に向かう学校づくりは、創立者の教育理念の原点に立ち返り策定した〈キリスト教精神を根底に据えて、常に「一人ひとり」を大切にし続ける学園、子どもたちも教職員も「自ら学び続ける人」になる学園、よりよい「社会をつくる人」が育ち続ける学園〉という指針のもと、一貫教育のそれぞれの段階で進めています。

この指針の土台には、私たち一人ひとりは神様によって愛されたかけがえのない存在であるというキリスト教信仰の上に立つ人間観があります。罪ある私たち人間を御子イエス・キリストの血によって贖ってくださった神様の愛を知り、生徒も教師も共に与えられた意志の自由といのちを精一杯に生かし、キリストをただ一人の先生として神と人と共に歩む。そして神の国の実現を目指す。そのような学校であり続けることが私たちの変わらぬ願いです。

「共生共学」について

「共生共学」は、「共に生き、共に学び、共によりよい社会を創り出す学校」という学校像を示す言葉です。「共生」には以下3つの意味をこめています。

第1に、人と人の共生です。今、私たちの生活は、世界中の人々との様々な繋がりの上に成り立っています。この繋がりは世界中の人がこれまでにない形で大きな協力を生み出すことを可能にしました。しかし、一方で多様化し、複雑化した繋がりの中で、国家、民族、宗教、文化など、様々な立場や利害がぶつかり合い、対立があらわになっています。このような状況の中で、平和を実現するにはどうしたらよいでしょうか。次の100年に向けて、自由学園はこの課題に取り組みます。
自由学園は創立以来、一貫して協力してよりよい社会を創る人を育てる人間教育に取り組んできました。今後この実践の上に、今まで以上に、国や文化、性別、年齢など、さまざまな異なる背景を持った人が共に学ぶ環境を整え、多様な人々が共に生きる平和な社会を創り出す人が育つ学校を目指します。ここ数年取り組んできた国際教育・平和教育の充実もこの一環です。男女共学もこの目標に向かっての一歩です。

第2は人間と自然との共生です。温暖化をはじめとする環境問題は、地球規模の危機をもたらしています。私たちには、人間中心の生き方を持続可能な生き方に転換し、地球上のすべての命あるものと共に生きる姿勢を身につけることが求められています。
自由学園ではこれまでも、自然と共に生き、自然から学ぶ様々な実践を積み重ねてきました。恵まれた自然環境は生徒たちの労作によって大切に守られてきました。これらを通じ子どもたちは、自然と共にある喜びの感情や自然への畏敬の感覚、そして生きた知識を得てきました。これらはどれも真に豊かで持続可能な世界を創り出す人に求められる最も基本的な資質です。
現在、これらの学びの一層の強化を図るべく、探求的・教科横断的に学びを深めるカリキュラムを準備しています。また飯能市との連携協定のもと名栗植林地への林道整備を進めており、今後一層、この地の有効活用が期待されます。

第3は、私たちの一人ひとり誰もが、神様の愛の中に「共に生かされている」かけがえのない存在であるという意味での「共生」です。聖書を土台に、多様な一人ひとりの個性や関心を神様から授けられた賜物として尊重し、それぞれの人がその人らしくあり、かつ共に生きることができる学校を目指します。校内のバリアフリー化も課題の一つです。
創立者羽仁もと子は世界が戦争に向かう1930年代、フランスで開催された教育者会議に参加し、キリスト教に根差す人間教育を通じた世界平和の実現を訴えました。そして帰国後、時代に先駆けた「男女共学・国際共学」構想を描きました。今回の学校改革が推進する「共生共学」、そして男女共学は、この精神を発展的に継承するものです。

「生活即探求」について

自由学園は「よい社会は創り得る」という希望を持った人が育つ学校であることを目指して、社会に「働きかけつつある学校」として成長してきました。
次の時代を担う子どもたちの市民的資質をどのように育むか。日々の生活と教科の学びをどのように地域や世界の課題とつないでいくか。また未来の社会の優れた小さなモデルとしての学校の姿をどのように実現できるか。変化する社会にあってこれまでの取り組みを活かしつつ、よりよい実践を生み出していくことが求められます。
この課題に取り組むべく、中等科・高等科のカリキュラムとして新設を予定しているのが、「探求」と「共生学」です。
自由学園は伝統的に「学業報告会」や「張り出し勉強」など、ある期間集中して一つのテーマに取り組む学びを行ってきました。「探求」ではこれを年間を通じて行います。各人それぞれの興味や問題意識から出発し、実生活を土台として、自ら問題を発見し、主体的・協働的に学び、問題解決に向かう力を養います。
「共生学」は、「平和」「人権」「環境」など、地球規模の共通課題(SDGs等)や地域課題などに教科の枠を超えて学際的に取り組む新設科目です。最高学部との連携、国内外の学校との共同研究、地元企業や自治体、NPOなど学外の機関との連携なども視野に入れ、構想中です。様々な知的リソースとの連携や教科の融合を通じ学びの幅を広げ、柔軟な思考力や豊かな創造性が育っていくことを期待しています。
課題解決のための学びには一般に「探究」の文字が用いられますが、自由学園では、その問いが生涯を通じた「真理の探求」「生きる意味の探求」につながることを願い、「探求」を用います。

多様な学びを可能にする
学習空間の整備について

「生活即探求」の学びを支援する学習環境が「ラーニング・コモンズ」です。ラーニング・コモンズは従来の黒板に向かい机が並んだ学習空間ではなく、学び方の多様化に伴い多機能化した学びの空間です。創立100周年募金における学習環境の整備は、以下3つの要素からなる環境づくりが中心となります。

第1に、様々な情報を活用し、1人で自律的に学習に取り組むことができる個別学習エリアです。従来の図書館のイメージです。
第2に、様々なグループでの協働作業に取り組むことができる協働学習エリアです。
第3に、学び得た内容を発表し、共有し合うためのステージ及びプロジェクター等を備えたプレゼンテーションエリアです。
これらは、多様な学び方を行き来しつつ、より柔軟に、より深く学ぶことを可能にするものです。コンピューターやタブレット等を活用するための情報通信インフラの整備が前提となります。

第1段階では現存の女子部校舎、男子部校舎を活用し、多様な学びが可能となる学習空間へと改修し、第2段階で、ラーニング・コモンズを中心機能とする新しい学びの実現のための校舎の建設に着手する計画です。

自由学園はそのキャンパスと校舎を、創立者の羽仁もと子先生・吉一先生の時代から大切に守り育んできました。遠藤新氏による南沢キャンパスは、学園の有形無形の財産です。それらを大切に継承しつつこれからの新しい学校像を具現化するという事業にあたり、外部の知見を借りながら、進めていきます。
ライト建築の特徴である「有機的建築、自然との調和、意匠性」等を継承しつつ、今回の改革指針である「一人ひとり」が安心して居られる環境、「多様で主体的な学び」が促進される環境、「社会に開かれ」多様な他者と出会える環境といった諸条件を実現すべく、現在計画を立案中です。
今回の創立100周年募金計画は、変化する時代に対応し自由学園が次の100年に向けて取り組む大きな教育の挑戦です。来るべき世代に自由学園独自の人間教育を生き生きと伝え、よりよい社会の実現を目指す学校としての姿をますます輝くものとするために、皆様のお力添えを賜りたく、お願い申し上げます。