第46回 『明日の友』秋号 ―勝沼ワインと甲斐絹(かいき)/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第46回 『明日の友』秋号 ―勝沼ワインと甲斐絹(かいき)/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第46回 『明日の友』秋号 ―勝沼ワインと甲斐絹(かいき)

2016年10月3日

%e6%98%8e%e6%97%a5%e3%81%ae%e5%8f%8b16%e3%83%bb10_s「中央線の電車が、勝沼ぶどう郷駅に近づくと扇状地が広がり、母の懐に抱かれているような気がする。」
こんな書き出しで、「富士山の恵みの子どもたち」と題した紀行エッセイが、『明日の友』(婦人之友社)の秋号(2016年10―11月号)に掲載されています。

『明日の友』には、2004年から2010年まで、南は沖縄久高島、北は北海道旭川、時にはアイルランドやプリンスエドワード島など、気ままな出会いを探して「たまさか紀行」を連載しました。

今回は、久しぶりの執筆。
夏の真っ盛り、汗だくの取材でしたが、諏訪の御柱祭の<木落とし>にも参加したことのあると云う気鋭のカメラマンとゼミの学生だった気心の知れた編集者、そして勝沼のワイン造りをメインに取材すると云うのですから、呑兵衛には願ってもないおいしい仕事でした。

取材先は、
・宮沢賢治の詩に由来した「くらむぼんワイン」(旧山梨ワイン)
・ブドウ酒醸造開始の地「龍憲セラー」
・地場の材料を使った「カーサ・ダ・ノーマ」のブランチが辛口ワインとベストマッチの「原茂ワイン」
(オーナー古屋さんのお母さんは『婦人之友』の愛読者、お姉さんは、自由学園の出身です。知りませんでした・・・)
・お洒落なラベルの創業80年の「勝沼醸造」
・葡萄薬師を納める国宝大善寺本堂
などと盛りだくさん。

山梨のブドウ畑の多くが、養蚕農家から転じたことは知っていましたが、ワイン製造が戦争と大きくかかわっていたことには驚きました。
魚雷探知機(水中聴音器)の開発に有効だと、軍からは「ブドウは兵器だから生で食べてはいかん。収穫したブドウはすべてブドウ酒に加工せよ。」(『山梨県史』資料編)などと増産命令が下ったそうです。

加えて、傘地にその技術を生かしている「槙田商店」や、平安朝のかさねの色目を生かしたショールなどを販売している「富士桜工房」(山崎織物)など、甲斐絹(かいき)の伝統を今に引き継ぐ制作・販売の現場を訪ねました。

甲斐絹が、郡内縞として江戸時代に流行したことは、『好色一代男』・『色道大鏡』などの記載によって知っていました。
今までは、その縞模様のことが気になっていたのですが、そればかりがこの絹織物の特徴ではないようです。
南蛮船によってもたらされた、更紗(サラサ)や天鵞絨(ビロード)などと同じく、玉虫のような光沢とそのややぬめっとした肌触りに特徴のあることを、目で見て触って初めてわかりました。

訪ねたワイナリーも甲斐絹工場も、家内工業の手作りの良さが培われた結果でした。わたしは、最後を以下のように結んでいます。
「山梨のワインや、甲斐絹は富士山の子ども。自然が育んだ家族愛の結晶だ。」

詳しくは『明日の友』をご覧ください。
羽仁もと子草案の「家計簿」をいかした老後の前向きシンプル生活の記事など読み応え十分です。

山梨の今年のヌーボー(新酒)解禁は、11月3日。
富士吉田の路地にある古い民家風の<吉田うどん>の具のシャキシャキのキャベツやあまい馬肉を肴に勝沼ワインといきたいですね。
うどん屋にワインはあるかな・・。白が合いますよね。

2016年10月2日  渡辺憲司 (自由学園最高学部長)

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