第83回 中国人民大学・清華大学・ドクダミサラダ/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第83回 中国人民大学・清華大学・ドクダミサラダ/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第83回 中国人民大学・清華大学・ドクダミサラダ

2017年11月11日

11月初め、約10年ぶりで北京を訪問しました。
中国人民大学での講演と清華大学で行われたシンポジュウム「生命と環境」の総括コメントを行うためです。

人民大学では「17世紀初めのアジアにおけるヒューマニズムの展開」と題し、中国・韓国・日本において、後世まで小説、演劇で語り継がれた、李香君・ノンゲ・吉野と云う3人の遊女の生きざまに焦点をあてながら、3国の比較文化論を考えてみました。

明朝末の文人の政治結社にシンパシーを感じ、激しい気性の持ち主であった劇作「桃花扇」の主人公李香君には、<侠>、文禄慶長の役(壬申倭乱)で日本の武将を抱き抱えて死んだ、ノンゲには<義>、又、貧しい刀鍛冶に思いをとげさせた遊女吉野には、<情>のキーワードがあてはめられるのではないかと、図式的な解釈を述べました。3人の遊女のゆかりの地、秦淮(南京)・晋州及び長水(韓国)・島原及び鷹ケ峰(京都)では今も祭りが行われています。私が訪れた思い出やスライドをまじえて話をしました。

人民大学は、毛沢東が創設にかかわった大学です。ここで遊女の話をするのは、少し場違いなような気もしたのですが、李香君の名前は、約3分の1の学生がその名前を知っていました。韓国の延世大学でも日本と韓国の比較女性史にふれた時にノンゲの話をしましたが、韓国の学生の9割以上がノンゲの名前を知っていますし、愛国の烈女としてその逸話を熟知しています。教科書にも載ったことがあると聞きました。

講義の後、学生に囲まれ日本の遊女史について熱心な質問を受けました。
吉野は井原西鶴作の「好色一代男」では、主人公世之介の妻となった人物ですが、(京都の町衆本阿弥家に嫁いだとも云われています)質問は江戸時代の文化論にまで及びました。日本文化専攻の大学院生のようでしたが、知識の豊富さに驚きました。しかし、海外の大学で日本文学の講演などをした時にはしばしばこのような状況になります。ジェンダー論やサブカルチャー論さらに慰安婦問題などの広がりの中でも遊女史は欠かせない問題提起なのです。

清華大学は、今年10月発表のQSアジア世界大学評価ランキングでは、第6位でした。北京大学は第9位、東京大学は第13位です。懇親会では、このランキングの話題も出ました。
「クイズ問題の解答だったら、東大が一番ですよね」などと、韓国の大学の先生からちょっと嫌味を云われたので、「自由学園の大学部は、教員数と学生数比率では日本で有数ですよ。外国への留学比率でもトップクラス、クイズより生活力ですよ」と、少し学園の自慢話をしました。(大学評価の指標比率100%中で、教員数と学生数の比率は15%を占めています。他の指標では、教員の博士号取得比率は5%などです。)

清華大学のシンポは、朝9時50分から19時頃までびっしりのプログラムでした。
「交感と他者性─ネイチャーライティング再考」「生命化祝祭から見た韓日の胞衣文化」「韓国の壇君神話と檀君神話」「中国古代分類学における人の位置」などの基調講演の他に、「近代日本の紀行文に描かれた中国」「王宮の須弥山―「天皇」号再探」「庭園と環境―水辺・泉殿・地下水・井戸―」「犠牲にされた自然・沖縄―目取真俊「平和通りと名付けられた街を歩いて」論」「災害の特徴と農作物について―室町時代を中心に」「中国における「生態文学」研究の歩み及び日本環境文学の受容に関する考察」「上林賦の景観―司馬相如の学問を中心に」「ベトナム説話における川をめぐって」など多角的な視点からの発表がありました。

いずれも力のこもったものでしたが、私が総合コメントで触れたのは、北京外語大学教員の沖縄の基地問題と目取真俊にふれたものと、明治大学大学院生のベトナム漢文説話にふれたものでした。アジアの抱える環境問題への研究者の取り組みの熱さに大きな刺激を受けました。
中国の若い女性の研究者から沖縄の基地問題に対する鋭い指摘を受けようとは思いませんでした。芥川賞作家でもある目取真俊の作品にもう一度正面化から向きあうことを教えられました。基地問題がアジアの生命と環境の抱える大きな問題であることは明確です。

どうも懇親会の白酒(高粱の焼酎)で乾杯を重ねたせいでしょうか、痛風の激痛に襲われました。痛みと共に、初めて食べたドクダミのサラダ(雲南料理)と若芽の松葉(あの細い楊子のような松葉ですよ)のオヒタシ?を思い出しています。強いにおいのドクダミも若い松葉もアルコール分解の最高効能の薬膳と聞きましたが・・。

2017年11月11日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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