第25回 江戸はおいしい-落語と歌舞伎/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第25回 江戸はおいしい-落語と歌舞伎/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第25回 江戸はおいしい-落語と歌舞伎

2016年4月5日

4月2日、新宿調理師専門学校で講演。題して、「江戸はおいしいパート1―歌舞伎・落語にみる江戸の食」とした。
3月後半は山の家に籠って、この講義準備にかかり切りだった。これが何とも楽しい。残雪の八ヶ岳を仰ぎながら、毎日浴びるように落語を聞き、歌舞伎のビデオもつけっぱなし状態であった。

なぜ江戸はおいしいか、といったことが主題。
まず第一に、政治的食の環境。
権力によって生まれた水路・街道による食の集中。米の流通。落語、「幾夜餅」「搗屋無間(つきやむげん)」などは、搗き米屋の奉公人の夢を語ったもの。格差社会へのけなげな抵抗とも取れよう。

第二は、野菜流通の自然的食の環境。
『練馬区史』に、昔から葛西と練馬には対立感情があったと述べて、「荒川が大水だとか、雨が多いといった気候の年は、練馬の農家の人は、今年は葛西の連中はだめだが、私達の村は大豊作だ」と記している。小松菜が豊作であった年は、大根は不作であったというのである。水が出ても、日照りでも江戸の野菜は潤ったのである。又、外国野菜の普及を背景にした落語「唐茄子(かぼちゃ)屋政談」、家庭に常備されるようになった「青菜」(この落語では、青菜が切れたと云うのが話題だが・・)からもこのことは読み取れるのではないか。

第三は、江戸湾の豊富なプランクトンによる魚介類。
これにまつわるのは、落語「芝浜」の女房の思い、「シジミ売り」の鼠小僧のやさしさ、歌舞伎「四谷怪談」の隠亡堀、直助のうなぎ掻きも、江戸前の環境なしに語ることは出来ない。第四は、単身赴任の多い江戸の外食産業、屋台、煮売り屋などの盛況。「時そば」又、「ト(コ)ーフイ ゴ(オ)マイリガンモ(ホ)ドキ」と、甲府へお礼参りに行く若い二人を町内のみんなが見送る落語「甲府い」。雪の日、歌舞伎「直侍」の熱々の掛け蕎麦も経済的食の環境が背景と云ってもいい。

そして、五感が四季に触れる食として、落語「目黒のサンマ」「ねぎまの殿様」歌舞伎『髪結い新三』にふれた。
江戸がおいしいのは、江戸という土地が生んだ食のうまさである。この基盤があったからこそ、殿様への笑いが生まれ、髪結い新三の粋な啖呵が生まれたのである。
最後に、江戸の食が持つ平等的庶民感覚にも触れた。まとまらない話だったが、こちらは、十二分に楽しんだ。

講演後は料理セミナー。新宿調理師専門学校長上神田梅雄先生の講義つきで、一汁三菜の夕食が出された。これも季節感たっぷり、満腹の一日であった。

次回は、5月8日安原真琴さん(彼女は私の立教時代のゼミ生)が「新宿高野からみた新宿の歴史」を講演。小生は、パート2として、7月9日「小説に見る江戸の食」を講演予定。料理セミナーは鮎と泥鰌・鰻だそうだ。主催に、江戸に生きる会(もう十年近くやっている江戸の文化の普及会で、小生は、なんとなく名誉会長)も絡んでいる。

2016年4月5日  渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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