第43回 乱歩・種彦・早川さん/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第43回 乱歩・種彦・早川さん/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第43回 乱歩・種彦・早川さん

2016年9月21日

『乱歩事典』(勉誠社で刊行予定)の「江戸川乱歩と江戸文学」・「江戸川乱歩と男色」の原稿執筆、遅れに遅れて各方面に迷惑をおかけしましたが、ようやく出版社に送ることが出来ました。
まだ手を入れなければなりませんが、まずは一息です。遅れた理由はひとえに私の怠惰にあるのですが、引っ越しの時に古新聞を見つけては作業が滞るようなそんな感じだったのです。

引っかかったのは、乱歩と合巻類の草双紙との関係でした。読本類との関係などは触れられているのですが、合巻類との関係は、管見の及ぶ範囲ではあまり触れられていないようです。ところが、江戸川乱歩が所蔵していたと思われる和本の中で、もっとも数量的に多かったのは、草双紙だったのです。このことを和書カードと云う乱歩自筆の蔵書整理のカードを見ていて再認識しました。

「風俗浅間嶽」のカードには、五冊本の欠本であることを記し、国貞、芳幾、国貞の画工の名、成立年代、嘉永七年(安永一年)と記し、種彦の「浅間嶽面影草子」改作であることが注記されています。又赤字で「透明人間の絵あり」などともあります。「浅間嶽面影草子」(文化九年刊)は、種彦の名を広めた出世作と云うべき代表作です。子供の取り違え・隠形(おんぎょう)の術・不義密通・容貌の醜化・幽魂・惨殺などなど・・。又西鶴の『男色大鑑』巻二の形跡など、乱歩の関心がこの作品に向けられていたことは明らかです。この作品に乱歩の類似作品を思い出す人多いでしょう。

田舎源氏

  『偐紫田舎源氏』 柳亭種彦

引っ越しの古新聞は、草双紙だったのです。 しばらく柳亭種彦に関わりそうな雰囲気もあります。

立教大学の職員だった故早川重雄さんから、種彦の『偐紫田舎源氏』全冊をいただくと云う僥倖も重なりました。ありがとうございます。
早川さんは、小生が学生時代には鬼の教務と呼ばれていました。タイムスイッチを片手に窓口を寸秒たがわず閉めたものです。私の友人などは、右手に卒論を持ち、左手を窓口に入れたところ、思いっきりひっぱたかれたとも云っていました。愛想笑いなど皆無、頑固・反骨、一徹の人でした。

そんな気骨の人でしたが、花街に詳しく、江戸の好色文学に造詣が深く、退職後は、私の大学院の学生を可愛がってくださったり、奥様のサンドイッチを研究室でふるまわれたり、時には厳しく指導もしていただいたりしました。お亡くなりになった後、多額の寄付を大学にされたとも聞きました。

乱歩作品は、他の文学作品と比較しても電子化に適しているようです。
小学館の『江戸川乱歩電子全集3 明智小五郎結婚編』に小生のインタビュー記事が載っています。落語通い・立教職員小野田さん・ロック座照明係・レオナルド熊・乱歩蔵書・元巨人軍投手横山君のことなどなど・・・。放談です。

2016年9月21日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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