自由学園男子部第3回生であり、工学博士として河川工学分野の研究に生涯を捧げられた木下良作先生が先月3月2日,満101歳でお亡くなりになりました。謹んで哀悼の意を表します。 木下先生が解明した蛇行する川の複雑な流れを三次元的に理解するための理論は、現在の河川工学の基礎となっています。

木下先生の学問の原点は、自由学園那須農場における生活と実践にありました。農場開拓という創立者羽仁吉一先生の志を受け、その実学の精神を体現し、「自然に学び、生活の中で真理を確かめる」という姿勢を、生涯にわたり貫かれました。那須の地を流れる蛇尾川の度重なる氾濫に直面し、「この川を治めなければ農場と周辺地域は守れない」との切実な思いを抱かれたことが、先生の研究の出発点でした。

測量をご指導くださる木下先生
若き日より洪水対策のただ中に身を置き、自らの目で流れを観察し、洪水後には河床の変化を丹念に測り続ける――その徹底した現場主義こそ、先生の学問の根幹でした。
先生の最大の功績は、河川の基本構造を成す「砂礫堆」の発見と、その形成過程の解明にあります。洪水流によって形成される砂礫堆が、河川の形態と流れを規定する基本要素であることを見いだし、水流と河床形状との関係を体系的に明らかにされました。これにより、洪水災害や取水障害の発生機構の理解に新たな道が開かれ、河川工学における基礎理論の確立に大きく寄与されました。
さらに先生は、その理論を実証するため、困難を極める洪水時の現地観測に挑み続け、新たな観測手法の開発を進められました。また、小規模な水路模型による実験を通じて河川現象の再現に取り組まれ、当初懐疑的であった声にもかかわらず、全国主要河川の航空写真の精査を通じて、砂礫堆の形成が特定の河川に限らず普遍的な現象であることを実証されました。なお洪水中の航空写真の撮影には、阪急航空の協力を得て、当時西独からただ1機輸入された「ドルニエ Do28 」が用いられました。この機体は現在「石川県立航空プラザ」に展示されていることが明らかになっています。(写真「石川県立航空プラザ」山内修館長より提供いただいた「ドルニエ Do28」。)

加えて、木下先生は、音響探査機など先端的計測技術を導入し、洪水流の三次元的構造や乱流の実態解明を推進されるなど、常に研究の最前線を切り拓いてこられました。その成果は、「木下蛇行」曲線(Kinoshita-generated Meander Curve)として知られる河川蛇行の式や、長波長の掃流うねり現象の存在を指摘したことなど、河川の基礎理解にとどまらず、実際の治水計画や河川管理に広く応用され、社会の安全と持続的な水利用に大きく貢献しています。

先生は、得られた知見を広く社会に開くことを重んじ、学会発表や各地の研究会での講演を通じ、治水研究に貢献してこられました。その姿勢は、学問の公共性を体現するものであり、多くの研究者・技術者に深い影響を与えました。
2008年には蛇尾川の研究に取り組む最高学部の学生たちが、現地で直接先生にご指導いただき、その後、ご自宅にお招きいただき親しく先生の謦咳に接する機会もいただきました。


お話しくださる木下先生

お話くださる木下先生
幾度もの洪水と困難に直面しながらも、決して歩みを止めることなく、常に現場に立ち続けられたその姿は、実学の精神そのものであり、私たちにとって尽きることのない学びの源です。木下先生が遺された学問的業績と、その根底にある精神は、自由学園に連なる者にとって、これからも長く受け継がれていくべき道標です。
謹んで哀悼の意を表し、木下良作先生のご生涯に深い敬意と感謝をお捧げいたします。

















