元旦 午前中、奥日光戦場ヶ原散歩、高い木の上に枯れ木を集めた大きな鳥の巣かと思いきや、熊が冬眠前に木の実を食べる巣(熊だな)の跡だそうだ。夜、深酒一睡後眠られず、妻持参の『対訳 ポ-詩集 加島祥造編』を寝床で英語音読。これが、百人一首を音読すると同じくらい気持ちがいい。この年で初感覚。江戸川乱歩の名の由来から、エドガ-・アラン・ポーは推理小説家で著名だと思っていたが、フランスなどでは詩人としての名が高いそうだ。乱歩ゆかりの鳥羽の海やポ-ゆかりのニューヨークの喫茶店、ヴァージニア大学のことなど思い出しながら夢路。ポーの詩「大烏」に熊野の八咫烏が交じり合ったような初夢。
2日 例年のごとく輪王寺初詣。「福もってこい・福もってこい・・」のコマーシャルソングが耳にずっと残って思わず口ずさむ。正真正銘二日酔い美味大正風コロッケワインなし。
3日 年賀状約400通。今年もほとんど不義理のまま返信せず。来年こそはすべてに返事と毎年のごとく思う。
4日 昨夜から『東京人』3月号掲載の原稿「江戸のパロディ」400字16枚を一気に書く。右肩あがらず。大田蜀山人19歳の詩壇デビューの折、平賀源内に序文を依頼した平秩東作の狂歌(愛妻追悼)に触れようと思ったが書き込めずに終わる。井上隆明著『平秩東作の戯作的歳月』(角川書店)の紹介も出来ず。無念。
5日 湯島天神から上野に回り蓮玉庵で鴨南そば。鈴本で初笑い。五代目馬風元気、77歳か。九代目正蔵に渋みがでた。
6日 3月刊行予定『江戸遊里の記憶-苦界残影考』(ゆまに書房)の再校に手をつけ始めるも、進まず。書くのも読むのも好きだが校正は見るのもいやだ。
7日 学園始まり会議連続す。研修会参加、キリスト教主義学校における教員のあり方についてグループ討論。『日本人の大地像』(海野一隆著)年越しで読了。日本における地動説江戸の初期からありとのこと。神仏合一の歴史など卓見。
8日 学生K君らと初場所国技館と相撲見物の予定が、当日券朝早く売り切れ、すみだ北斎美術館に行く。庶民の画家がすこしお高くとまったような、瀟洒な美術館。回向院の膃肭臍(オットセイ)の墓など案内。両国橋から柳橋へと散歩。
9日 祭日返上で教員会議。『天皇と和歌』(講談社選書メチエ)著者鈴木健一氏より寄贈。愛という権力・武力と対決する和歌・文化を体現する天皇などの目次あり。秀吉の朝鮮出兵を諫め、天下のためにも「遠慮可然」と必死に思いとどめた後陽成天皇の書(京都国立博物館蔵)ことなど思い合わす。
10日 始業式。「ゆっくり歩めと」と一言。夜、吉祥寺にて福島泰樹ライブ。福島氏とは、30年前に知り合った。中原中也の詩を絶叫する歌人。法華宗の僧侶。筋金入りの反戦活動家。中也の弟思郎さんのハーモニカの話など懐古し感涙。
11日 クリスマスマーケットなど思いつつH君ポーランド土産のホットワインを半分空ける。
12日 帰路駅前で新得共働同学舎のチーズでちょい飲み。銭湯初風呂と思ったが寒さに怖気づく。
13日 肩痛のリハビリ理学療法功を奏すも、帰路、図書館で6冊借り元の木阿弥。
14日 終日家にて『江戸遊里の記憶』再校仕上げる。気恥ずかしき次第、鬱なり。
15日 東武博物館にて講演会。遊女高尾の磐城・塩原・仙台・坂戸での伝聞など、意気地の意味を漫談風に語る。カルチャーでの30年前からの生徒も聴講に来てくれる。最長の教え子なり。感謝に講演熱が入る。帰路、浅草「アリゾナキッチン」なく、初店一合。
16日 演習黄表紙読み初めのつもりが駅前でお茶会。夜、4月からの『東京人』連載「赤坂人物散歩」(仮称)の打ち合わせ。執筆前の放談が一番楽しい。酒後の卵かけ御飯。これまた絶品。太るわけだ。
17日 インディアナ大学ジョーンズ教授より電話。共編翻訳「EDO ANTHOLOGY」第一巻(第二巻既刊)に助成金の由。
18日 立教時代の同僚森氏来園。学内を案内。氏中国哲学者、久闊を叙し談論。
19日 講義日本文化史「北斎の人生」。剣道八段原氏と飲む。酒道の風格あり。
20日 ゆまに書房に再校渡し、何時ものごとく「うどん屋 立山」にて何時ものごとく小酌のつもりが、隣席の70歳越えの立教野球部OBと喧々諤々酩酊。
21日 朝から雑司ヶ谷七福神巡り。鬼子母神から雑司ヶ谷の墓地を抜け護国寺手前の清土鬼子母神まで。法明寺墓地の伝楠木正成公息女の墓、小さくて可愛い。不忍通りの鄙びたフランス料理店でプロバンスの話に花咲く。脹脛膨張。
22日 大相撲千秋楽。千賀の浦部屋打ち上げパーティー。10人ほどの小さな部屋、関取はいないが、やがて稀勢の里が生まれることを期待。和気藹々、ちゃんこ鍋で芯から温まる。
23日 入試。夜『勝海舟とキリスト教』(下田ひとみ著)・『東アジア共同体と勝海舟―九条改憲をめぐる情勢と課題―』(下町総研)読了。「我が道には争ひなし、我は兵を語らず、吾は戦はず」(安藤昌益)の言も思い合わす。昌益、羽仁もと子の故郷八戸の町医者。
24日 面接試験。みんないい目をしている。寸時青春を共有。夜、吉祥寺にて小酌、学園ミュージカルのことなど夢談義。
25日 学部棟4階よりの富士山夕景、沈黙沈思を誘う。秋津・新秋津間、乗り換え酔夢誘惑ロードで独酌。陶然。台湾産うなぎの肝焼き大ぶりにて安価旨し。
26日 『高田屋嘉兵衛』(生田美智子著 ミネルバ書房)と『菜の花の沖』(司馬遼太郎)を比較しながら読む。前者細密後者大雑把。
27日 先年刊行の『標準問題精講 国語 特別講義 読んでおきたいとっておきの名作』(旺文社)の編纂者仲間と志木にて小酌。カワハギの肝、ぬる燗に合う。
28日 卒論相談にN君来。山本鼎の足跡を追え、フランス・ロシアが鍵だなどと無責任指導後、年寄り暴言と反省。午後引っ越しの留守番。爺爺二人、ドイツワイン一本開け、眠気もほどよく強いもんだなどと自慢していたらノンアルコールの表記。味覚も衰えた。
29日 孫と終日ディズニ―チャンネル。
30日 仮題「浮世絵で読み解く遊郭」の資料準備を始め、書架より浮世絵展目録引き出しゴミを吸う。やや風邪気味。
31日 日本学生野球協会審査室会議。球春近し。トランプ大統領移民政策に腹立ち抑えられず。Facebookのアメリカの仲間からも批判の声届く。
2017年2月1日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)