自由学園と半世紀にも及ぶ長い関係を持ったオレロップ体育アカデミーを訪ねました。今年も、自由学園最高学部からは、ギャップイヤーや学外研修制度を利用した学生が数名留学します。
コペンハーゲンから、電車とバスを乗り継いで約2時間半ほどです。オレロップ体育アカデミーは、デンマーク体操から強い影響を受けた日本のラジオ体操の本家ともいうべき存在です。
車窓からは地平線の向こうまで、緑の麦畑と黄色い菜の花畑が交互に広がり、大きなブナの木が五月の風にそよいでいます。
オレロップ体育アカデミーは、フォルケホイスコーレと呼ばれる学校の一つです。デンマークのグルントヴィが創始し、北欧諸国に広がったものです。
学習科目の多様性・テストの廃止（無単位・無資格、経験重視）・学生の自律的学習の促進・国家や外部から支配されない独立した教育（私立学校）・数ヶ月から1年のコース・書物を越えた対話学習・学生と指導者の共生平等（学生の自由自立）・寄宿舎生活（自然の中での生活教育）・成人教育（18歳以上なら誰でも入学可）
キーワードはこんなところでしょうか。学歴偏重の社会制度の中では適当な訳語がなかなか見つけられません。
国民高等学校・農民高等学校・成人教育センターなどなど・・。
宮沢賢治が目指した農業大学校が近いでしょうか。大坂で展開された緒方洪庵の適塾も私の中では重なります。
デンマークは、「民主主義の質が高い国」でも、世界ナンバーワンだそうです。政治家の多くが所謂名門の出身であり学歴を誇示したり、権力と結びついたり、あたかも贅沢が政治家の責任感を保持するような国とは大違いです。
フォルケホイスコーレが、民主主義の質をもっとも高めた教育制度であることは、デンマークについて語る多くの人の一致した意見です。
校長先生と、この学校に長く勤め自由学園がお世話になっているN氏と、昼食を一緒しました。100名ほどの学生も一緒です。
すべての学生が昼食時に集まり、教員・職員と食事を共にするのは自由学園の雰囲気とよく似ています。
この学校が目指しているのは、体育競技のエキスパートではありません。
「一人の金メダルよりも九十九人の健康な体を作りたい。これがこの学校の全人教育です。」と、N氏。
理念を共有するこの学校と自由学園の関係がなお一層深まることは確実です。
2016年5月13日 渡辺憲司（自由学園最高学部長）
