第40回 夏休み余話「池袋の女」/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第40回 夏休み余話「池袋の女」/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第40回 夏休み余話「池袋の女」

2016年8月22日

今日は台風9号が関東上陸。横殴りの雨が暑い夏を振り払うように降っています。
近況。8月初めに、家内が、40日ぶりにアメリカから帰国。3キロ減った体重が、ようやく外食から解放されたせいか、4キロ増量。ビールもうまくなり、日常的過剰食欲路線?に逆戻りし元気回復です。

8月の初めに、池袋学の一環で、立教大学と東京芸術劇場が共催、文化庁協力の「雑司ヶ谷」についての講演会がありました。

「雑司ヶ谷」の位置が、近代の道路建設や、鉄道建設に振り回されて、地域のとらえ方が狭いものになったが、江戸時代では、現在考えられる地域よりももっと広い地域で「雑司ヶ谷」が考えられていた。いささか乱暴に言えば「池袋」と「雑司ヶ谷」を分けて考える必要はないと話しました。

そして、「雑司ヶ谷」又「池袋」には、自由への意識が、大正ロマンと呼ばれた時代に花開いたとされるが、地域としては、江戸時代から芽生えていたのではないかということ。

例としたのは、「池袋の女」の解釈。
話は、池袋出身の下女と浮気したら、男の屋根や雨戸に石が降り、さらに皿や火のついた薪が飛んできたが、下女に暇を出したらその怪異はおさまったというもの。
似た話は、池尻・沼袋などにもあり、根岸鎮衛の随筆「耳袋」にも載っています。
池袋の女性とは浮気をするな。手を出すと祟りがある。池袋の女は怖いぞといった江戸時代の伝承です。

この話に、一つの解釈を与えたのが、哲学堂・東洋大学の創設者井上円了です。
「妖怪学」で、彼は旧来の迷信を打破しました。円了はこの話は、女性の欲求不満の表れであると云っています。この話は、女性の自作自演に違いないとも云っています。

私はもっと突っ込んだ解釈で、「池袋の女の話は、<女性が自由を求める抗議行動>」だ、などと話しました。又、自作農が多く若者宿の連帯の強いこの地の男性には、地元の女性に対する独占欲が強く、他所の男が手を出すのを嫌った風土もあったなどとも云いました。

加えて、雑司ヶ谷には、鬼子母神を中心とする法華経の女性救済信仰があり、女性の自立を助長していた。
それが、近代になり、キリスト教の自由主義思想を迎え入れる土壌に発展したのではないか。などとも話しました。

「ちょっと飛躍し過ぎじゃないですか」と聴衆の一人。
私としては、「池袋の女」の封建的イメージをどうにか払拭したいと考えたかったのですが、、、。
元気が出て滑りすぎのような気もしました。

2016年8月22日  渡辺憲司 (自由学園最高学部長)

カテゴリー

月別アーカイブ