第61回 自由学園最高学部の品格/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第61回 自由学園最高学部の品格/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第61回 自由学園最高学部の品格

2017年2月25日

先日、妻が、振袖を着た女の子の人形を、孫のために買ってまいりました。明日館で買ってきたと云うことです。
「お父さん、いいでしょう。よく出来た人形でしょう。」と妻が言います。
「まあね。本物の生地かね。結構高いんじゃないの。」と私。
「いくらだと思う。」
「分からないが、2000円かな」
「何云ってるのよ。おもちゃも高いのよ。ガチャガチャばっかり買ってやるおじいちゃんには分からないのよ。」
「5000円もするのか。」
「そんな値段じゃ買えないわよ。一生大事にしてほしいのよ。この人形。」
一生大事にする人形などと云うものがあるのか。その時の会話はこれで終わりました。

もう一つの話です。
12月に、学部の2年生と、奈良京都に修了旅行に行きました。
やさしい介護?に囲まれて大変楽しい旅行だったのですが、その時のことです。私は、左程のどが渇いていなくても、自動販売機を見ると何か買いたくなります。集合時間まで少し時間があり、手持ち無沙汰のままにいましたら、目の前に自動販売機がありました。何を飲もうと決めるでもなく、ビールという訳にもいくまいなどと思案していると、学生に声をかけられました。
「先生、旅行中の自動販売機の使用は自粛ですよ。のどが渇いていたら私の水飲んでもいいですよ。」と学生がペットボトルを差し出してくれたのです。
私はちょっと驚きました。今時、自動販売機を使うのを自粛するなどと云うのは考えられなかったのです。

***

2006年の流行語大賞にも選ばれましたが、品格と云う言葉がその頃いろいろなところで使われました。
坂東真理子さんの著書「女性の品格」が、ベストセラーになって火をつけたような気もします。藤原正彦氏の「国家の品格」という本もその頃でしょうか。上から目線でついていけないような気もしましたし、日本の伝統文化偏重の懐古主義的匂いが気にもなりました。その頃私も少し悪乗りして、「江戸の品格」というエッセイを書きました。そして、品格をダンディズムに近いもので、江戸っ子の心意気のようなものであろうと述べました。粋につながる意気地・張りといったような態度が、品格につながるのでないかと考えたのです。

江戸っ子の品格をもっとも色濃く有していたのは勝海舟であろうと思います。洗礼は受けていませんが強いクリスチャンティも有していました。海舟は、朝鮮半島への侵略、又日清戦争などにも強く反対していますが、このときによく使っていたのが品格と云う言葉です。
他国を下に見て植民地とするようなことは、国家の品格を失うものだというのです。品格とは、互いに認め合うことだ、相手の弱みに付け込んで戦争を仕掛けるなどと云うことは、相手の品格を認めないことでもあり、自分の品格も失うことにもつながるのだと云うのです。(このあたりのことは、最近のブログにも書きましたので、御読みください。)
こんな詩のあることを思い出しました。「ニーバーの祈り」としてよく知られているものです。

O GOD,GIVE US
SERENITY TO ACCEPT WHAT CANNOT BE CHANGED
COURAGE TO CHANGE WHAT SHOULD BE CHANGED
AND WISDOM TO DISTINGUISH THE ONE FROM THE OTHER

神よ
変えることの出来るものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。変えることの出来ないものについては、それを受け入れるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。(大木英夫訳)

学部教育改革の会議で交わされた言葉を想起します。自由学園のもっとも自由学園らしい存在は最高学部である。<永久的に独創的であれ>と云うものです。
独創的であることの要件は、変えるべきものと変えてはならいものの識別です。
高価であっても、それが一生の宝になるようだったらそのものを大切なものとして贈る。明日館で売っている人形にそのことが云えるでしょう。
自動販売機で物を買わないようにしようというのも頑固な話です。しかし、世界中でこれほどまでに自動販売機が出回っているところもありません。人口密度における自販機台数は世界一です。高温多湿の気候であるためだとか、設置が安全に保たれる国だからとか、最新の技術のサービスであるといった意見もあります。しかし、これは日本の誇るべきものではありません。
台湾の友人の話です。台湾も自販機の多い国です。
「原発をやめることになったから、まず自販機を減らすんです。そして、ネオンも減らしますよ。その方が光が美しく見えますよね。」と友人は笑って云いました。
日本の国は、本当の自尊心や品格を失っているのです。愛国を語るものが、愛する誇りを失っています。愛される謙虚さを失っています。他国の品格を認めないことは、自国の品格のなさの露呈です。

最高学部は、権力権威に束縛されず、誇りをもって、変えるべきものと変えてはならぬものを識別した知恵を有して日本の大学教育をリードしていきたいと思います。

ネパールでのワークキャンプ・デンマークのホイスコーレ留学さらにポーランドの大学との交換協定も結ばれました。それは思い付きによるバラバラの国際協定ではありません。直視しているのは自由と人権への国際的視座です。
学生の研究成果が、学会で発表されます。これも大学生としては異例のことです。
次年度は、幼児への教育・福祉へ視座が統一テーマとして考えられています。やがて親になる若者の子育てへの学びです。

大学に求められているのは効率主義的産業社会の手足になるための教育ではありません。社会が求める理想への共働者です。
働くことに真の価値を模索し、理想のためのリーダーを育てることこそが大学の使命です。教育の中身が問われる時代です。そのために求められているのは、教育の品格です。
真の意味の少数教育<世界最小の大学>に誇りを持った自由学園最高学部は、永久に独創的です。

***

最近マイボトルを愛用していますが、ガチャガチャの誘いは断り切れません。

2017年2月25日 渡辺憲司 (自由学園最高学部長)

カテゴリー

月別アーカイブ