第132回 雑誌『性の健康』・『男色大鑑』・残暑見舞い/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第132回 雑誌『性の健康』・『男色大鑑』・残暑見舞い/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第132回 雑誌『性の健康』・『男色大鑑』・残暑見舞い

2019年8月31日

8月末、性の健康医学財団刊行の『性の健康』に連載していた原稿がようやく終わりました。『性の健康』は、季刊雑誌、掲載は10月発売の秋号(定価1000円)の予定です。

性の健康医学財団は、2021年に創立100年を迎える公益財団法人。今まで、「花柳病予防協会」「日本性病予防学会協会」などと呼称を変えています。2005年世界保健機構(WHO)が策定した性の健康と権利の策定に基づき、性の健康世界学会で、モントリオール宣言を行っていますが、宣言には「性の権利」「ジェンダーの平等」「性的虐待の排除」「セクシャリティの教育」「性感染症の蔓延阻止」などの目標をあげています。財団は啓蒙活動にも力を入れ、出前講座では、中学校・高校・大学で性の健康について講演活動(経費無料)も行っています。大正10年刊行された『體性』は『性の健康』の前進というべきもの。『體性』には、北里柴三郎・芥川龍之介なども記事を書いています。

『性の健康』の内容は実に多彩。最新刊の夏号では、「性感染症 診断のポイント」「母子感染最新報告」「HIV感染と疾病」など医療従事者向けの記事も多く、インタビューでは、「現代の中高生たちに性をどう伝えたらよいか」など、中学校・高校の教員が読んでほしいような記事も並びます。「第一次大戦を終わらせた馬の性感染症-媾疫」なども歴史の裏側を垣間見るような気がしました。巻末の連載「昔の医局の当直日誌」は、明治43年の医局員の吉原や温泉地での遊びのさまを挿絵入りで記していますが、明治末から大正初年頃の風俗を描いたものとして極めて貴重なものです。

夏号で私が書いたのは「トランスジェンダーの開花 「お国歌舞伎」の行方と男色文化」そして今回は、連載最終の第4回で、「西鶴「男色大鑑」の周辺」と題して執筆しました。
井原西鶴46歳、貞享4年(1687)1月に刊行された『男色大鑑』は、江戸時代のみならず、日本の小説史において(世界的に見ても稀有な作品だと思いますが・・)男色文学の最高傑作です。この時代には、好色二道などと、男色と女色は並置されていました。
「男色大鑑」前半部中、秀逸の一篇としてよく知られている、巻二の二「傘持てもぬるゝ身」を取り上げ武士社会の男色(南方熊楠流に言えば浄道)<衆道の誠>について考え、「葉隠」に言及し、最近流行りのBLボーイズラブと呼ばれる漫画・小説にもふれました。老人の怖いもの知らずの好奇心が先行したような気持でしたが、男色文芸について書いたのは初めてでしたので新鮮でした。

『男色を描く 西鶴のBlコミカライズとアジアの<性>』(勉誠出版2017年)で、編者の一人、染谷智幸氏が、冒頭で、「昨今、全世界的に起きつつあるマジョリティ(多数者)の横暴は目に余ります。・・・マジョリティに必要なのは、正論ではなく寛容です。しかし、そうした疑問を掲げて批判を展開することは重要だとしても、それ以上に、恋愛や性愛の多様性を推し進めて、豊かな関係性を築き上げようとすること、そしてそれを文学や芸術を通して表現しようとすることは、さらに大切だと感じるようになりました。」と記しています。

染谷氏に同感します。ただどこか歯がゆさを感じるのは、「寛容」という言葉に、上から目線と云うのでしょうか…。我々が求められているのは、教養を身にまとう理解する人ではないのです。江戸時代の人々が、男色を嗜好したのは、男色にマイノリティの一員としてかかわっていたのではありません。ごく自然な人格として存在していたのです。友情とも恋愛とも呼べる<衆道の誠>が生まれたのはその結果です。

20世紀の哲学をけん引し、自らはエイズによって命を失ったミシェルフーコのインタビューをまとめた『同性愛と生存の美学』(哲学書房)を一気に速読しました。(もちろん緻密な理論は未消化のままです。)「自分の性の真理を即自的に発見するのが問題なのではなく、むしろこれから自分の性現象を、関係の多数性に達するために用いること」・「われわれは懸命に同性愛者になろうとすべきであって、自分は同性愛の人間であると執拗に見極めようとすることではないのです。同性愛という問題の数々の展開が向かうのは、友情という問題なのです」などという言説が浮かびます。フーコだったら江戸の男色文学をどのように読み解いただろうかなどと仮説を立ててみたりしましたが、もちろんまとまりません。いつかそんな読み解きもしてみたいと思いました。
大きな課題をもらった夏の終わりです。

明日8月31日は、糸魚川の「根知山寺の延年おててこ舞」、稚児行列が人気の出し物です。稚児が池の跡も見てきたいと思います。何とはなしに考えている「男色文芸紀行」の一歩です。
9月2日は、京都でキリスト教学校教育同盟の「時代が問いかけるキリスト教大学の使命」と題した集会に参加、40年以上もキリスト教大学にかかわってきた一人として自ら自己に問いかけてみようと思います。

ようやく人肌の燗がうまい季節になりました。残暑お見舞い申し上げます。

2019年8月31日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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