第151回 休校おすすめ読書4ー「眠られぬ夜のための落語」 /最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第151回 休校おすすめ読書4ー「眠られぬ夜のための落語」 /最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第151回 休校おすすめ読書4ー「眠られぬ夜のための落語」 

2020年4月20日

あまりにベタな題名なので今まで避けていたが、読んでみたらなかなかいい。
カールヒルティ著『眠られぬ夜のために』(岩波文庫)。
熱心なキリスト教徒であるヒルティは、随所にいい言葉を残している。

「不眠を避けるのに大切なことは、まず第一に、興奮や不安のたねになるような考えごとを抱いてではなく、むしろなるべく静かな、よい思想と心の平安をもって、夜の休息に入ることである。」

「あなたが、ともすると暗い気分になりがちな時には、小さなものに眼をむけるがよい。小さな花、小さな動物、それから、(もし健康で天真爛漫〔らんまん〕ならば)幼児たちも、容易にある種の悦(よろこ)びをさましてくれています。」

よい思想と心の平安の読書、聖書。最も安眠を誘う本にちがいない。暗い気分の時は、小さいものに目を向けるといいという指摘も鋭い。清少納言も思い出す。いつもなら、目を向けることのない、近所に生えている小さな花の名前を探すのもいい。寝る前に花の名前を思い出すと、少しほっとする。
「オドリコソウ・オオイヌノフグリ・ホトケノザ・日日草・・・」

今回は、落語のすすめ。
YouTube『快眠落語』
https://www.youtube.com/channel/UC84HOozxdfEBd3FRpweVqdA

立川志の輔・春風亭昇太などの演目が詰まっている。聞き流し、BGM落語だ。3時間近く落語を聞き流すうちに眠る。これも悪くない。だが、落語を聞き流すという姿勢が気に入らない。聞き流すから落語の内容をほとんど覚えていない。演者を馬鹿にしているような気もする。笑い過ぎて目が覚めてしまう。(これはいいのですが・・。)うつらうつらと3時間も聞いてしまうこともある。ぐっすり快眠にはならない。
そこで、やはり正統的にしっかり古典落語を聞き、スイッチを切って眠る。

枕元に必携はガイドブック。これが実に多い。手元にあるだけで20冊を越える。
立教時代の教え子、安原真琴君の『超初心者のための落語入門』もおすすめ。図解が多く落語界の基本的な情報を得るのには格好。

私の監修した『吉原の落語』(青春新書)もある。関心事を吉原にしぼって読むにはおすすめだが、私の関係した本の中で、中古本が一番の高値。(そんな本ではありません。どうしたのでしょうね・・落語本番付なら、贔屓目で幕下上位です。)

イチオシ!は『東京落語地図合本』(朝日文庫 佐藤光房著)。
『朝日新聞』日曜版に連載が始まったのは、1986年。一冊で刊行は、1992年。記事も古く、写真も昭和60年代のものがほとんど。作品解説は、選りすぐりの126作品。

この本と同じようなブログ企画がネットの『落語散歩』。これも労作。700の作品解説、写真も新しい。

この他にも、『江戸落語の舞台を歩く』(マイナビ文庫)などがある。
これもお買い得。ネットでの「落語の舞台を歩く」は、続編含めると387話。落語ガイドの大関格だ。『落語と歩く』(岩波新書)も、フィールドを全国に広め、出典も幅広い。
情報量では圧倒的にネットの落語紹介にかなわない。

それでも、『東京落語地図合本』がイチオシ。
20年以上付き合っている愛着が一番の理由なのだが、江戸文化背景の記述がひきつける。落語フィールドワークの草分けとしても評価したい。古今亭志ん生・三遊亭圓生・桂文楽を生で聞いた著者の記述もいい。作品ごとに東京(江戸)の由来の場所を記す点では同じだが、昭和ノスタルジーの写真もデジタルとは違う一味。落語の出典など、研究書としても鋭い。特に落語と中国説話との関連など詳しい。Amazonで500円を切る。
紫檀楼古木(したんろうふるき)などと云った作品もあがる。この本で初めて知った演目だ。零落した狂歌師を題材にしたものだが、江戸狂歌壇の広がりまで筆は及ぶ。深川、玄信寺の紫檀楼古木の墓所も掲載している。(現在は非公開)

この話を、林家彦六(八代目林家正蔵)で聞いた。もちろんYouTube。彦六のゆったりした語り口は確実に睡眠を誘う。彦六に続いて、静かに眠りを誘う落語家は、古今亭志ん生だ。
昨晩は、「代わり目」を聞いた。酔っぱらいの亭主が本当は女房に感謝いていると独り言(女房が陰で聞いている)で終わるオチが泣かせる。『東京落語地図合本』では、昭和36年、プロ野球ジャイアンツの優勝祝賀パーティーで余興をやらされた志ん生がこの話をした時、選手たちがおしゃべりに夢中で静かに聞かない(話の途中で長島が入ってくると静かになったそうだ)ことにカッとして脳出血で倒れたと云ったエピソードを紹介。翌年、奇跡的に復活した時、新宿の末広亭で、成り行きにまかせて話しているうちに、自然に始まったのがこの演目だったと記す。

北海道から東京へ来て、はじめて寄席に行ったのが、1963年。煌めく東京、浪人生活も身につかなかった。高校時代の友達と会うのは、上野駅の「聚楽」と決めていた。行く当てもなく、昼過ぎから夜まで「鈴本」で時間をつぶし、気がついたら、友達とも離れ、古今亭志ん朝の追っかけになっていた。よく行ったのは「落語勉強会」、そんな会だったと思う。日曜日の午前中(開演前)、池袋演芸場にかよったような気がするのだが、そのあたりの記憶ははっきりしない。

志ん朝本も、ムック本はじめ多く出ているが、この際じっくり志ん朝を聞くなら榎本滋民著『榎本版 志ん朝落語』(ピア出版)を傍に置くのがいい。古典中の古典19作品と志ん朝の関わり、聞き所、押さえどころがわかる。

志ん朝が亡くなったのは、2001年。この後の落語会については、近刊の『21世紀落語史』(広瀬和生著)が面白い。「志ん朝の死がもたらしたもの」というのが書き出しだ。ネットでこの本の全面公開も始まっている。

「おもしろきこともなき世をおもしろく すみなしものは心なりけり」

伝、高杉晋作の辞世だそうだ。少しでも笑い、おもしろく寝付きたいものだ。落語でひと眠り、おすすめです。
晋作と云えば、裕次郎演じる高杉晋作登場の、川島雄三監督、映画『幕末太陽伝』も必見。落語「居残り佐平治」「品川心中」を聞いた後でこの映画を見るのもいい。

【追記】
『江戸川乱歩電子全集3 明智小五郎結婚篇』(小学館)の最後に私のインタビュー記事「乱歩の秘密は、江戸にあり。」が、所収されています。まことに勝手な、言いたい放題ですが、「まるで一席の落語のようなインタビュー」と解説されています。私の落語体験、志ん生賛歌、レオナルド熊、好色一代男、池袋演芸場、三遊亭白鳥、乱歩落語など、注記が45もつくロングインタビューです。
『江戸川乱歩電子全集』全20巻は、乱歩作品の集大成。この際乱歩を読みつくすという人にはおすすめです。

尚尚
大学2年の今頃、浅草ロック座で照明係のアルバイトをやった。夢は脚本家。その時、演出主任から云われた。「落語をコントのシナリオにしたら読んでやる」。文楽の「明烏」を必死に聞いて、主任に持って行った。返事はなかった。55年も前の事だ。時間たっぷり今なら出来るかもしれない。

 

2020年4月20日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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