第152回 2020年9月入学・新学期導入について/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第152回 2020年9月入学・新学期導入について/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第152回 2020年9月入学・新学期導入について

2020年5月2日

導入に私は賛成です。以下の理由と条件からです。

 

多くの政治家や教育評論家を始め、今年度からの9月入学推進理由に、海外との年間スケジュールの対応性、グローバル化に向けての良策であるとの認識を示す方が多いようです。

しかし、今、第一に考えるべきは、現在、学校における対面授業や学校で友人と生活を送ることの出来ない児童・生徒・学生のことです。

休校同様の状況下、遠隔授業も行われていますが、彼らは学校生活の時間を奪われています。

その象徴は、中体連・高体連の全国大会の中止です。日常で行われるスポーツ活動の成果が失われたのです。9月入学・新学期導入は、それらの大会の開催可能性を生むでしょう。

もちろん、スポーツ面のみではありません。その時、その時、その時で育まれ、小学生・中学生・高校生・大学生でしか味わえない自然とのふれあいも、そして人間関係という最大の学校教育の価値も奪われたのです。与えられたのは空白です。胸をときめかし新たなページをめくるという感動を与えられなかったのです。

9月入学・新学期開始案は、60日余りの空白を埋める最善策です。

子供たちの犠牲をいかに回復するか。その視点を第一に考えて、9月入学・新学期開始を考えるべきだと思います。私は、不安を希望に変える可能性を今回の提案は持っていると思います。既に入学式や始業式を行ったところでも再び子供たちに直接語り掛ける言葉は必要です。再入学式・再始業式は齟齬しません。

私は、楽しい遠足や修学旅行や運動会や音楽会の時間を回復させたいのです。後にコロナ世代の犠牲などと呼ばせてはならないのです。

 

第二の理由は、教育の多様化の推進です。グローバル人材の育成という視点は重要です。国際人の養成も英才教育の視点も重要です。しかし、これも海外に留学できる学生にとって好都合であると云った論点のみで強調されるべきではないのです。海外に留学できるのは、学生・生徒・児童の何割でしょうか。現在ではおそらくそれは富裕層のごく限られた者です。

失われた時間は、一方で教育に大きな変革をもたらそうとしています。遠隔授業は、教育の多様性を推進しました。この動きを止めてはなりません。遠隔授業は多くの課題を抱え、教師の大きな負担と協力によって、現在急速に進展しています。教育現場へのサポート体制を強化し、この動きを止めてはなりません。

学校に行きたくても行けない人がいます。登校拒否の子供にとって、教室に入れない子供にとって、病院での生活を余儀なくされる子供にとって、遠隔授業は、従来の努力に加えて、さらなる一つの道筋を示したのです。誰もが学校に行けないという状況は、今まで学校に行きたくても行けなかった人への配慮を考える時でもあったのです。一方的管理教育からの脱却も推進されたのです。管理教育から自主的教育構造への転換が求められたのです。

国際化とは、多様な教育のひとつです。地球規模でのコロナ感染症の拡大の被害を、世界の子供たちと共有して考えることこそが、今もとめられているグローバル化なのです。9月入学は、世界へ目を向ける大きなきっかけになるでしょう。地球規模での人権教育の再構築にもつながるでしょう。

 

第3は、施行の条件です。具体的なことを先に云いましょう。9月入学・新学期導入に際して、各学校に、現行プラス1名以上の、カウンセラーもしくは相談員を導入すべきです。これは最低条件です。殊に初年度は、教員の負担は、過剰になるでしょう。通例の年でもそうですが、長い休みの後、子どもたちの不安は増します。登校拒否や病におちいるケースが多いのも長期休暇の後です。今回は、異例の長さからの復帰です。子供の不安は拡大・膨張しています。これに対処するのに現在の教職員数での対応は無理だと思います。

さらに9月入学を実施した場合の教員の負担増大は目に見えています。臨時教員・非常勤講師から専任採用枠拡大もあわせて必要と考えます。教育人員の充実が、強力に押し進められない限り、砂上の9月入学になるでしょう。教育改革は急務なのです。拙速を理由に改革のスピードを緩めてならないと思います。

9月入学・新学期導入案に必要なのは、子どもへのやさしい目線です。子供たちが何を望んでいるかを、子どもの立場に立った議論を始めるべきです。子供たちの目線を一番知っているのが、現場の教師であり、保護者であることは言うまでもありません。文部科学省も、教育の理想と未来を見つめた「教育改革」への新たな一歩を踏み出すべきではないか、そう思えてなりません。

 

2020年5月2日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

 

カテゴリー

月別アーカイブ