第153回 休校おすすめ読書5-『ニルスのふしぎな旅』/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第153回 休校おすすめ読書5-『ニルスのふしぎな旅』/最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第153回 休校おすすめ読書5-『ニルスのふしぎな旅』

2020年5月4日

じっくり読みましたが、休憩・食事をはさんで一日で十分読めます。「ニルスのふしぎな旅」(セルマ・ラーゲルレーヴ作)上下2巻です。

私が、今回読んだのは、菱木晃子訳の福音館書店版です。上巻513ページ下巻533ページですから、1000ページを越える分量です。児童書に新本2巻で5060円。奮発が必要です。家に、『ニールスの不思議な旅』(岩波少年文庫上下)があったのですが、これは抄訳、おすすめは、完訳本の福音館版です。アニメ(NHK1980年から50作)も、アマゾンプライム無料で閲覧できます。半分ほど見て疲れてやめましたが、タケカワヒユキヒデ作曲のメロディー耳に残っています。

Oh,come on ,Nils 旅に出かけよう

準備なんかいらない。・・・・

今更、ニルスの冒険でもあるまいと思う人もいるでしょうが、75歳の老骨にとって、「この時期に読んだ」と自分に刻印するにはいい本です。(孫にプレゼントにも最適です。)読み終わって深呼吸した時の爽快感は14歳の少年です。(ニルス、小学3年生くらいと思い込んでいませんか・・・)

この頃、コロナウイルスの問題に直面しているのは、自然との共存がうまくいっていなかったことの表れのように思えてならないのです。コロナとの戦いという表現が自分の中でしっくりしなくなってきたのです。人類学者やいろいろな方面からもそんな声を聞いたせいかもしれません。自分が大きな自然界に存在することの意味を素朴に問いかけてみたくなったのです。

1918年(大正7年)、日本で最初に訳された時の題名は「飛行一寸法師」です。いい題名ですね。因みに、スウェーデン語では、「ふしぎな旅」と云うより「すばらしい旅」と云ったニュアンスだそうです。

物語は、動物たちにいたずらばかりし、動物たちから嫌われた少年ニルスが、妖精によって小さな体にされてしまうことから始まります。飼っていたガチョウ(モルデン)の背に乗って空を飛び、ガンの群れと一緒にスウェーデン国内を旅します。行く先々で多くの動物たちや人々と出会い、やがて家に帰るのですが、ガチョウを殺そうとした両親を止めようと叫んだ時、元の姿に戻るという結末です。

スウェーデンの先進的教育の出発点とも言える話で、環境保護への意識が読み取れます。約100年前、この物語が日本に紹介された頃、新たなる自由への渇望が芽吹き始める一方でシベリア出兵を始め戦争への足音が迫ってきた頃でした。
その頃から、スウェーデンは、中立国としての歩みを始め、平和を模索していたことも云い添えておきましょう。

日本でも多くの作家たちに親しまれてきた1冊です。大江健三郎は、母親から幼い頃最初に勧められた本として、ノーベル賞の授賞式の挨拶でもこの作品を紹介しました。筆者のラーゲルレーヴはノーベル賞を受賞し、婦人解放運動のリーダーでもあり、平塚らいちょう等にも大きな影響を与えました。

小学校の教科書や大学入試にも取り上げられたことがありますが、長編の原本をじっくり読む機会はありませんでした。今はそのチャンスです。

後編の一部を紹介しておきましょう。当時、スェーデンでは結核が蔓延していました。ある日、幸せに暮らしていた家族のもとに、貧しい旅の女が病に倒れ宿を求めます。親切な家族はこの女に宿を提供します。悲劇はここから始まります。女は当時不治の病であった結核を患っていたのです。病は家族中に感染し、姉たちが死に、父親も発狂し家を出てしましまいます。そして、残された幼い姉と弟を前にして、死の直前の母親がこう言い残します。

「よくおきき。あたしは、あの旅の女を家に泊めたことを、少しも後悔していない。いいことをしたのだから、死ぬのはこわくない。人間は誰だって死ぬんだ。死は、誰にも避けられない。だが、よい心を持って死ぬか、悪い心を持って死ぬかは、自分でえらべるんだよ。」

非常に強いメッセージです。

今、私達が突き付けられているのは、本当のよい心とは何かです。世代をこえ家族そろって読みたい本です。

 

2020年5月4日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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