5月2日、ニッポン放送「春風亭昇太と乾貴美子のラジオビバリー昼ズ」に出演しました。『いのりの海へ』宣伝のための婦人之友社の企画です。
こんな質問を受けました。
「最近嬉しかったことは何ですか」
「セリバヒエンソウ(芹葉飛燕草)という野の花を知ったこと。ヤクルトスワローズのファンですからね。昨夜も神宮で悔しい思いをしましたよ。ヒエンソウはヤクルト復活ののろしです」などと気炎を上げました。昇太さんもヤクルトファンなのです。
学園の欅坂の下の草むらに薄い青色の小さな花が咲いています。「つばめが飛んでいるように見えるでしょう」と教えられた時、<これだ。>最下位に低迷するヤクルトの守り神になるのではなかろうか。押し花にしました。しかしこれは花弁が小さいのでうまくいきません。
リクエスト曲の注文には、(学生に教えてもらったビリー・ジョエルのピアノマンを立ち飲み屋でイヤホンで聞くのが好きですなどと、キザに格好よく答えるつもりだったのですが、ノリはまったく違い)東京音頭!!。その後も江戸の文化の魅力についてや、「昇太さんにすすめたい旅先はなどと聞かれました。」(これにはカムチャッカと即答です)。
そして、ヤクルトのノリが一変して、教員生活で忘れられない学生はと聞かれました。
・・・・・もちろんそんな答えは出て来ません。
「忘れられない学生というよりは・・。忘れてはならないと思う学生はいます。何らかの理由で、卒業出来ずに学校をやめた生徒や学生です。そんな生徒や学生のことはしっかり名前を覚えておくようにしています。」と答えました。
私の教員生活も、横浜の定時制時代から数えると約50年になります。数多くの学生との思い出があります。激怒したこともありました。学校の校歌を声高らかに歌い勝利の感激に酔ったこともありました。肩を組みあった学生のことも思い出します。
しかし、浮かんでくるのは、さびしく学校を去っていった生徒や学生のことです。忘れまいと手帳に書き残しています。教員生活は慚愧の思いの連続です。
連休が終わり、さてまた学校だと思ったら、久しぶりに発熱、37度3分とたいしたことはないのですが、咳が止まりません。どうも連休中に一緒だった孫の風邪が移ったようです。熱も下がって、机に向かおうとした瞬間今度はぎっくり腰です。久しぶりに動きが取れず昏々と眠り続けました。
朝起きると、窓の外を小学生が学校に向かっています。
石垣りんのランドセルという詩を思い出しました。
ランドセル
あなたはちいさい肩に
はじめて
何か、を背負う
机に向かってひらく教科書
それは級友全部と同じ持ちもの
なかには
同じことが書かれているけれど
読み上げる声の千差万別
入学のその翌日から
ほんの少しずつ
あなたたちのランドセルの重みは
違ってくるのだ
手を貸すことの出来ない
その重み
かわいい一年生よ。
五月病などと云いますが、この時期はどうも疲れが出るようです。小学校へ入学する児童ばかりではありません。新たな目標に向かって歩み出した人にとってこの時期は不安が増す時期です。
一緒に出発した仲間と同じようにできるだろうか。同期の連中はあんなに元気にやっているのに自分はこんなでいいのだろうか。そんなことが頭をよぎるのがこの時期です。
私も教師として生徒や学生に同じものを求めていたのではないだろうか。個性が大事などと云っていたのは空文だったのかもしれません。やめていった生徒や学生にもっと違った言葉がかけられたかもしれない。古ぼけた手帳を見ながらぎっくり腰をなぜています。
少し重すぎるように見える黄色いカバーのランドセルに、途中で学校をやめていった生徒の顔が重なりました。
「もうすぐ雨の日が続くぞ。頑張れ一年生。」
追記::おかげさまで、3月婦人之友社刊行『いのりの海へ』再版が決定しました。アマゾンによれば、中古本が新刊より1,000円以上高くなっています。こんなことがあるのですね。もうすぐ値下がりするでしょうが・・。
6月12日池袋のジュンク堂書店で19時より出版記念会があります。お時間のある方はどうぞ。予約受付は池袋ジュンク堂、03-5956-6111へ。無料です。1階の売り場でも受け付けているようです。
2018年5月19日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)