大学部の学びとMINAMATA/教養・専門 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

大学部の学びとMINAMATA/教養・専門 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

教養・専門

大学部の学びとMINAMATA

2020年3月13日

2020年ベルリン国際映画祭で,水俣公害病を世界に知らしめた写真家ユージン・スミスをモデルにした「MINAMATA」(ジョニー・デップ主演)が招待部門で披露された(日本での配給は未定.国連環境計画でも水銀に関する水俣条約2017と共に紹介されている[1]).

なぜ今水俣なのかといえば,メチル水銀化合物等による人体への影響が世代を超えて健康被害や差別・偏見といった形で現在も影響し続けているということと,放射性物質の影響による将来への健康不安,それに伴う差別・偏見,代償でしかない金銭による対応や賠償が生み出す様々な問題とが重なるからであろう.

(複数の分野からとりあげる水俣公害病)
さて,最高学部の1年生必修の「経営と経済・社会」(担当:杉原弘恭)では,主にそれらの学問分野の基礎をひもとくが,講義の中のケーススタディとして,ここ数年3回にわたって水俣公害をとりあげている.
1) 環境学,経済学,法学からみた水俣公害(担当:杉原弘恭):現在日本を代表する複数の化学メーカーを輩出したマザーインダストリー,日本窒素肥料(株)の歴史から始める.複合汚染とは.公害とは.
2) 社会学,近現代史からみた水俣公害(担当:木村卓滋):経済成長の光と影.
3) 文学からみた水俣公害(担当:渡辺憲司[2]):石牟礼道子(1969)『苦海浄土 わが水俣病』を題材.
水俣公害をテーマとしても,各学問分野で対象へのアプローチの仕方が違うことから,1年次のオリエンテーションで各学問分野の特徴を概説する「領域総観」(担当:杉原),2年次の「方法論基礎・人間論」(担当:咲花昭嗣・杉原)の具体的な例となっている.

また,これらの分野は,対象とするスケールが,1)マクロ(国・産業)~2)メゾ(村・企業)~3)ミクロ(個人・担当者)となっており,それら3つの相を行き来しながら考えることで,立体的にとらえることを狙っている.

(水俣への研究旅行)
さらに,2年生の研究旅行(引率:咲花昭嗣)で,水俣を訪問するのである.工場廃液が処理されずに流された干潟は埋め立てられていて元には戻らない.机上のものが現実のフィールドにつながっていく.現地では,国,自治体(県,市),民間の資料館を訪れ,その立場の違いを学ぶ.さらに,かつて垂れ流された水銀が今も埋められたままの「エコパーク水俣」や,漁業を奪われた人々が柑橘類の栽培を行っている袋地区の漁港一体を見て回る.

民間の水俣病歴史考証館((財)水俣病センター相思社)では,卒業生の小泉初恵さん(90回生)が出迎えてくれる.水俣との距離が一挙に縮まっていく.

大学部の学びとMINAMATA

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小泉さんは,最高学部2年課程終了後,立命館アジア太平洋大学に進学し,環境開発学を学び(1年間スウェーデンに留学),2015年に相思社に就職し,(1)水俣病の教訓を伝える活動,(2)水俣病患者のサポート,(3)被害地域の支援として始まった無・低農薬のみかん販売といった活動,などに従事している.

学園の寮生活で培った立場の違う人たちとの協力・調整,人と人をつなぐ,あるものを活かす,気づいて自分で考えながら工夫して実行することなどが現在の仕事に活かされているという.さらに,「水俣病はいろんな分野にまたがる問題(医療,福祉,環境,化学,経済,水俣という地域,教育,差別・偏見…)です.ここに,自由学園で学んだリベラルアーツの基礎,物事の全体を眺める視点が活かされているように感じます.」

(文)杉原弘恭・咲花昭嗣
[1] http://www.mercuryconvention.org/
魚介類に含まれる水銀について(厚生労働省)も参照
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/

[2] 下記もご参照:ウィルスと戦う若者たちへ 自由学園最高学部長の言葉全文
https://news.nifty.com/article/domestic/society/12180-591741/

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