第159回 2020年8月終業式「隣人を自分のように愛する」/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

第159回 2020年8月終業式「隣人を自分のように愛する」/前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

前最高学部長 渡辺憲司のブログ「時に海を見よ その後」

第159回 2020年8月終業式「隣人を自分のように愛する」

2020年8月8日

今学期、かって経験したことのない全面オンライン授業が、まずもって、大過なく終えたことに対し、諸君の多大な協力のあったことに感謝します。又、諸君のみならず、それを支えてくれた皆さん殊に保護者の方々に心から御礼を申し上げます。

遠隔講義は異例ではありましたが、同時に新たな教育体制を模索、構築できたのではないかと考えます。そして同時に対面授業で得られるよさも浮かび上がってきたような気がします。

自由学園最高学部では、基本的に9月15日の始業式に向けて準備を行っています。しかし、秋授業は、けっして、3月以前の授業にもとどおり戻すというものでありません。あくまで、コロナ禍において、安心安全を第一に考えた再開です。従って、対面授業を原則としながらも、個別の授業状況を考えオンライン授業を継続して行っていく所存です。

現在、都内の大学の多くでは、対面授業の再開をせず、オンライン授業の継続を行っているところも多くあります。

しかし、現時点で、秋学期より学園への登校を許可し、対面授業を原則とするのは、本学が文部科学省及び保健所等の指示による衛生管理状況を守りうるという判断をしたからです。教室における受講距離、立ち入りの検温、マスクの使用など、こまかな指示はまた行いますが、これは一人一人の状況を把握しうる少人数教育の利点を最大に生かした結果です。大規模大学のマスプロ授業では到底考えられないことです。

以上のような物理的衛生管理状況保持も条件ではありますが、まず第一に強調しておきたいのは、諸君への信頼です。我々は現在に至るまでの苦難ともいえる状況を乗り切ってきました。守るべきことは守ってきました。自粛を厳しく課して来ました。

極めて重要なことは、自粛を今後も続けることです。例えば、三密を避けること、アルバイトの時間体制における自粛、生活の自主規制など是非これから始まる夏休みにおいてもそのことを堅持してほしいと念願します。

寮生のみならず、通学生にも、生活上の誓約書を書いてもらいたいと考えています。これは、君たちに強制的生活を求めているのではありません。相互の信頼を一層深め、自粛への強い決意を促すものであることを了解してください。またそれが諸君の自由を束縛するものではなく、コロナ禍終結の時には、形式的な誓約書などないものになることをこの場で約束しておきます。

大学生活において自由と自治は重要な権利です。その自由な自治を守るための、臨時的緊急的措置であることを理解し、生活の自粛を毅然と堅持し、誓約してほしと考えます。

学部生全員に対して、9月12日以降、学部棟内への、原則学生立ち入り禁止を解除し、15日始業式を講堂で行うことを予定しています。当日のスケジュールは追って知らせます。

従って、開寮は、始業式前の9月12日、閉寮は秋の終業式過ぎを予定しています。有志による学内清掃準備、寮内整備のための寮委員の前倒しの帰寮などの詳細は担当の先生から説明があります。

以上は、現時点での予定です。緊急事態宣言などの発令があった場合や学園内での発症者が出た場合など、予定変更に関しては、状況について十分な配慮を行い、すみやかに伝達します。

変更予告はほぼ10日前には行うつもりですが、状況によっては直前になる場合もあります。

新コロナ感染症の影響は、現時点においても予断を許さない状況にあります。学生諸君は、常に学園からの情報に注意を向け、情報を的確に判断し、行動してください。

経済支援についても、きめ細かい支援体制を考えていきますが、前回のような形での公募は行いません。但し、コロナ禍の状況下、家庭状況の急変などによって、就学がどうしても困難な学生諸君が出る場合も想定されます。われわれ教職員としては、学園の指針である、一人一人こまかに対応するという考えのもとで経済支援も考えています。学生諸君は、各担任の先生に状況を説明し、前回応募しなかった状況からの経済状況の変化を相談して欲しいと思います。出来うる限り期待に応えるように対応していきたいと考えています。

1年生諸君、私はまだ学園の大学生として諸君に接していません。多くの不安を抱えているのではないかと憂慮します。4年生諸君、学生生活最後の夏休みのびのびと謳歌できないことを悔やんでいることと思います。卒業研究の準備、進学・就職への不安を抱えていると思います。2,3年生も大学生活の重要な部分をもぎ取られたような不安を持たれていることと思います。殊に2年課程の諸君にとっては、学園生活の4分の1の時間を過ごしてきたことになります。不安はいかばかりかと思います。

しかし、私たちは今この不安をどうしてもステップボードにしなければなりません。不安が生む不信を信頼に変えなければなりません。

 

「学園町自治会新聞」6月19日に載った学部生酒井大治郎君の一文です。

「自粛期間が始まってから、多くの事に感謝するようになりました。毎日学校に行けていたこと、学校の食堂でみんなと昼食を食べられたこと、会いたい時に会いたい人と会えていたこと、欲しいものがすぐ手に入ったこと、バイトでお金を稼げたこと、数え切れないほどの当たり前が今では特別に感じます。

はたして、それらに対して今まで感謝の気持ちを抱いたことはあるでしょうか。また、それらに見合うような生き方をしてきたのでしょうか。今振り返れば、持っているものをさらに欲しがり、大事なものを簡単に捨てていた気がします。

自分が本当に必要なものは何か、本当に感謝すべきものは何か。そして、自分とはどのような人間なのか。急速なスピードで過ぎていく日々の中で、少し立ち止まって今までの自分、そして今の自分を見つめ直してみる。コロナウィルスが無事収束した後、「あの時の生活があるから今の自分がある」と笑顔で言えることを願っています。」

100年に一度という危機を我々がいかにして乗り切ったか、自己を如何に正当に保ったか、それを後の世に語り継ぐために、この困難を共に乗り越えていきたいと思います。」と結んでいます。

 

最近私の胸を締め付けるように浮かぶ聖句があります。
新約聖書マルコ12章33節」です。

「心を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する」

万全の注意をはらっても、油断は生じます。油断せずとも、コロナに罹患することがあるかもしれません。例え、罹患した学生が生じたとしても、私たちは聖書の語るように「隣人を自分のように愛する」ことを誓います。みんなで互いに支え合い不安を乗り越えていきましょう。

9月皆さんに会うことを楽しみにしています。

 

2020年8月6日 渡辺憲司(自由学園最高学部長)

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