最高学部らしい世代を超えた学び/研究・実習 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

最高学部らしい世代を超えた学び/研究・実習 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

研究・実習

最高学部らしい世代を超えた学び

2019年7月12日

6月10日に(株)婦人之友社で、最高学部学生から入谷伸夫社長(男子部35回生)にあるデジタルデータが手渡された。それは、25年前に小田泰夫先生(男子部13回生)が女子学部の特別勉強として始めた「生活研究」で、学生が5年がかりで作成した『婦人之友』の衣食住に関する記事の手書きデータベース(1908(明治41)~1995(平成7)年88年間の記事)をPDF化したものである。

当時はそのデータベースを用いて、研究活動を行って卒業勉強報告書を作成している。その後、様々な事情により研究室の片隅で眠っていたのであるが、学部の教育活動の記録として、また学部で再び利用できないか、婦人之友社の情報化の話もあり読者からの問い合わせの際などに使ってもらえるのではないかということになった。

昨年の夏休み6日間をかけて、小田先生と杉原で1万数千枚を超える全資料を再整理し、紛失分などを考慮し衣食住3領域にしぼり、冬休み4日間をかけて当時学部1年生の國島ゆりなさんと金子歩加さんが約1万枚をスキャンした。

自由学園の一貫教育では、材料を購入し、調理・加工して、料理や木工品をつくるのではなく、その材料をつくる最初のところ、畑やフィールドでいのちを受け継ぎ育てるところからはじめ、いのちを頂き、また次世代に渡すという全体の循環プロセスを学んでいる(食・農・木の学び)。そこでは、一方通行では責任先送りにつながるが、循環では責任が付いて回ることを学び、また、貨幣価値評価だけではない多様な価値評価があることを学ぶ。そこでの時間も、生活団から学部までの学び約20年が用意されているが、創立者は300年の時間軸を置いている(「人一人の教育には十代かかる」)。このようなことが共感されて、自由学園の関係団体によるコミュニティが形成され、学園町などの地域ともつながって、自由学園ブランドの元ともなり、関係団体との協働の中での実践につながってきた。

今回の取り組みも、同様ではないだろうか。データベースという材料、畑から作り、卒業勉強に調理するだけではなく、再び婦人之友に循環することができ、友の会にもお渡しし、図書館にも納め、さらに次世代に引き継いでゆく。6月10日には、今回のデジタル化に関わった関係者だけではなく、当時小田先生の下で作業と研究に取り組んだ卒業生(女子部75回生,薮内明子さん)も参加し、共に作業の様子や感想を語り、団体の垣根と世代を超えた貴重な交流のときをもつことができた。友の会にも喜んでいただき、また,単に図書館に納めただけではなく、その際に村上民先生(女子部67回生)から,資料整理の学びの大切さやデータベースに関する指導もいただいたことも、自由学園ならではの実学の機会となった。

6/10の様子など、詳しくは下記に収載した「学園新聞」(712号)の國島さんの記事をご覧ください。

文責:杉原弘恭(最高学部教員)


最高学部らしい世代を超えた学び

生活研究のデータを自由学園と婦人之友社で共有



自由学園最高学部の「研究」の原点

「国も個人もまだ貧しかった今世紀〔20世紀―補足〕初頭から『ムダのない合理的な生活』をすることを通して『豊かな社会の実現』を願い、数多くの生活提案を社会に対して働きかけてきた創立者の思想を学び直し、その理念を現代におきかえて、新しい生活提案を社会に働きかけることを、自由学園には求められているのではないかと考えてきました」(女子部75回生「生活研究グループ報告書Ⅰ」・「はじめに」より)。

「生活研究」は、今から約25年前に女子学部生たちが取り組んだ研究であり、上の言葉は、その第一号の研究報告書のはじめに当時指導された小田泰夫先生が書かれたものである。四半世紀前の言葉であるとはいえ、いまを生きる私たちに新鮮な印象を与える。日々さまざまな人とのつながりの中で、互いに認め合い支え合いながら生きていることを私たちはつい忘れがちであるが、「生活研究」は、クラスメイトや教職員はもちろん、自由学園の関連団体、『婦人之友』の読者をはじめ、学園町住民の方々などとの深いつながりを通して、かつ自由学園の歴史とみずからの生活経験の上に立って、女子学部生たちがよりよい生活のあり方を模索し共同で研究を続けてきた成果である。「生活研究」は、自由学園で学ぶ私たちの研究の原点とその重要性をいまなお私たちに示してくれる貴重な学びといえるだろう。

これからの時代と社会を生きてゆく学生たちの手によって、「生活研究」の基礎データが丁寧にデジタル化され、誰でも利用可能となった意義は大きい。さらに使いやすくするための検討も始まっている。今後、これらのデータが、学生たちの卒業勉強及び卒業研究の中で活用され、自由学園最高学部で学ぶ価値を学生たち自身が掘りさげるきっかけとなることを大いに期待したい。

文責:田口玄一郎(最高学部教員)


時代を超えた学びを~「生活研究」手書きデータベース資料のデジタル化~

昨年度、最高学部に保管されていた手書きデータベース資料(衣食住に関する『婦人之友』の記事を収集・整理したもの)のデジタル化が行われ、今年度、そのデータが(株)婦人之友社と共有された。

25年前の「生活研究」
ことの発端は1995年、当時の羽仁翹学園長の要請を受けて、小田泰夫先生が女子学部の特別勉強として始めた「生活研究」という講義までさかのぼる。

小田先生は、「よい社会を作る」という創立者の理念を現代に具体化するため、創刊以来の『婦人之友』に着目された。ほぼ一世紀にわたる日本の生活史として極めて貴重なものであり、その中の「変貌する時代の中で社会・生活に対する働きかけの記録」を整理することは、創立者を同じくする3団体にとって、また社会にとっても有意義なことであるとされたからである。そして、それを活用することで他ではできない研究の可能性があると考えられた。

「生活研究」グループ専攻の学生は、1年次には「生活研究」の基礎講座と、衣食住に関する『婦人之友』の記事を手作業でデータベース化し、2年次には『家事家計篇』を輪読しつつ、年度ごとに大きなテーマを設定し、自分たちが整理したデータベースを使って研究活動を行い、卒業勉強報告書を作成した。

データベース化作業は、女子学部が男女共修の新学部制度へ移行する1999年度までの5年間、所定の用紙に手書きで行われた。対象記事は創刊以来の『婦人之友』からその年のテーマに沿った内容のものである。創業90年に婦人之友社が作成した「記事索引資料」を活用しつつ、データベース化が進められた。将来のデジタル化に備えてコードも付与された。

実際の「生活研究」では、できるだけ自分たちの生活、属する社会(自由学園)に対する「提言」につながる研究を、年間のテーマとそれに関わる具体的なテーマを決めて行っている。

例えば、1998年度の全体のテーマは『私たちの理想とする装いを考える』で、具体的なテーマとして「調和のとれた服装」、「死蔵品を無くす」、「手作りと既製品」の3つが挙げられ、それぞれ「女子部での装いはどうあったらよいか」の提言、『衣服管理ノート』の考案と商品化、「手づくり」の意義についての提言が行われた。この年の研究は友の会大会でも発表されている。

デジタル化へ
昨年度、「生活研究」で使用していた手書きデータベース資料が学部で見つかり、デジタル化が開始された。

夏休み期間中に1万数千枚を超える全資料を再整理し、冬休みに最高学部生が、「食する」「装う」「住まう」の3領域、1908年(明治41年)~1995年(平成7年)の88年間の記事をまとめたデータベースをスキャンしPDF化を行った。一部の資料は紛失してしまっていたが、残っていたものはそれぞれ状況に応じて一枚ずつ丁寧にスキャンをした。

今回の活動に参加した最高学部生の感想として、「食の資料に書かれていた料理が現在、女子部で作っているものと同じだとわかり、時代を超えた伝統を感じた」、「住まいの在り方が現代と異なり、関心を持った」などがあった。

データの共有
6月10日、婦人之友社に関係者が集まり、今回デジタル化したデータを、婦人之友社の入谷伸夫社長にお渡しした。この集いには、今回のデジタル化に関わった最高学部の学生と教員、婦人之友社関係者のほか、当時、指導に当たられた小田先生と「生活研究」に取り組んだ卒業生も参加し貴重な時間を過ごした。

小田先生は、「デジタル化により時代を超えて世代をつなぐ研究活動となったことは大事であり、このような学園でしかできない研究がより盛んになることを期待したい」と述べられた。

入谷社長は、「今後デジタル化が進む中で、婦人之友社としても今回のデータを有効活用するとともに、3団体の連携を強化して時代をリードしていきたい」と話された。

学生、卒業生もそれぞれ、作業の様子や感想を語った。団体の垣根と世代を超えた交流の時間となり、3団体のつながりの大切さを改めて強く実感するひと時であった。

世代をつなぐ
今後、学部での卒業研究、卒業勉強での活用に加え、婦人之友の読者である友の会の関係者の方々にも、今回デジタル化したデータを活用していただければうれしい。

時代を超え、年代を超えた先輩方とも再びつながり、その学びを現在につなげ、生かし、学ぶことができることは学園特有の学びである。

現在、今回のような関係性や学びは少なくなってきているように思われる。自由学園創立100周年を迎えようとしている今、3団体で連携して研究をすることが、学生にとっても大きな学びと経験になると強く実感した。

時代を超えた学びを

自由学園資料室へデータを手渡す國島さん(右)

文責:國島ゆりな(最高学部2年)(学園新聞 2019年7月号より)

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