今年度,新規開講した講義の一つに「日本の里山・里川・里海と地域デザイン(自由選択科目・全学年対象)」があります.担当は学部教員の小田と吉川です.受講生は,1年生が8名,2年生1名,4年生1名の10名が登録しています.
地域・地方が抱える現在・将来の課題(少子高齢化と人口減少,インフラ老朽化,気象災害の激甚化等に加え,コロナ渦の影響など)は深刻です.一方で里山・里川・里海が織りなす地域性には高いポテンシャルがあると考えられ,本講義ではフィールドワークや文献調査等を通じてそれらを再発見しこれからの地域デザインを考えていく「素材」を集め,可能な範囲で何らかの提案を行うことを目指します.
4月16日の第1回では,ガイダンスとイントロダクションを行いました.自己紹介とこの講義に期待することや興味を持っていることなどを共有したあと,「里山(里川・里海)」という言葉から想起されるキーワードを出し合いました.皆が抱く共通するイメージもある反面,それぞれの視点が反映された意見もありました.さらに,具体的に地域をとらえる原単位として,既存の行政区域ではなく,自然地形に由来する「流域」という概念に注目していくこととし,手始めに川上・川下のつながりと流域の水循環を感じる手がかりとして,加古里子氏の絵本「かわ(長さ7mの絵巻仕立て)」を教室に広げて皆で眺めてみました.また課題図書として岸由二氏の『「流域地図」の作り方―川から地球を考える』を指定し,次回関心を持ったこと,要点だと考えた点を発表することにしました.また,1年生には同じく新規開講した必修講義の「コミュニティ・人間中心のデザイン」や,新しい「飯能・名栗フィールド活動」とも直接的・間接的に関係していくことをアナウンスしました.
5月14日の第2回では,はじめに4月30日の1年生の飯能・名栗フィールド活動を振り返り,課題図書を読んでの発表を行いました.「流域というものを意識したことがなかったが,流域で地域を捉えることの必然性を感じた」といった感想がきかれました.続いて流域の概念について,内閣府水循環政策本部等が提供している副教材も活用して確認しました.更に岸由二氏の提唱する大地の凹凸に基づく「自然の住所」という概念を応用して,南沢キャンパスの自然の住所を確認しました.後半は,その中で上がった武蔵野台地というキーワードから,日本の里山のモデルの一つとしての「武蔵野」の特徴や,都市の発展とともに変化した過程を確認しました.最後に5月後半に予定している「流域」や「武蔵野」に絡めた見学のガイダンスを行いました。
今後,春期の間は教室でのディスカッションと見学を通じ,里山,流域,武蔵野,共通のフィールドである荒川流域についての理解を深めていく計画です.その上で,秋期には各自が興味を持ったテーマについて深めまとめていく予定です.そのような中から,地域・社会をより良くしていく新しい提案が生まれることを期待しています.
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文・写真:小田幸子・吉川慎平(最高学部教員)