「第3回共生共創フォーラム 食と農で拓く未来」が開催されました/ライフデザイン - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

「第3回共生共創フォーラム 食と農で拓く未来」が開催されました/ライフデザイン - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

ライフデザイン

「第3回共生共創フォーラム 食と農で拓く未来」が開催されました

2025年2月28日

2月19日(水)10時40分~12時20分に、最高学部棟中教室で共生共創プログラムイベントとして「第3回共生共創フォーラム 食と農で拓く未来」が開催され、最高学部学生のほか、オンラインで8名の方が参加されました。
今回は、講師として木村純平さん(パタゴニア日本支社・リジェナラティブオーガニックリサーチ担当)と野崎林太郎さん(奈良山園・15代目農園主)をお迎えしました。

 

木村純平さん(パタゴニア日本支社)のお話〈要約〉

パタゴニア日本支社は、アウトドア企業として知られる一方で、フードシステムや農業の課題にも積極的に取り組んでいる。特に、リジェネラティブ・オーガニック農業(RO農法)の推進に力を入れており、自由学園との協力関係もある。パタゴニアは設立52年を迎え、本社をカリフォルニアに置く企業である。クライミングやフライフィッシングなど、自然を愛する人々のためのウェアやギアを提供してきた。同社のミッションは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」であり、気候危機の解決に向けた対応を重要視している。その一環として、リジェネラティブ・オーガニック農業を推進し、気候変動の緩和と適応、増加する人口への食料供給、地球環境の維持を目指している。

現在、フードシステムは世界の温室効果ガス排出量の約3分の1を占めており、大きな環境負荷をもたらしている。農業自体が悪ではなく、食事という日常的な消費活動を含め環境問題に関与している構図である。農地の拡大に伴い、土壌の侵食や肥料の過剰投入が進み、持続可能な農業の実現が困難になっている。この問題を解決するためには、農地の利用方法を見直し、持続可能な方法で食料や繊維を生産することが求められる。リジェネラティブ・オーガニック農業は、有機農業を基にした取り組みであり、土壌の健全性を維持しながら農業を行う方法である。この農法は、炭素を土壌に戻すことで気候変動の緩和に貢献し、動物福祉や農業従事者の労働環境の向上にも寄与する。従来の農業が生態系のバランスを崩す側面がある一方で、リジェネラティブ・オーガニック農業は自然の循環を活かしながら、持続可能以上の農業の実現を目指す。

また、現在の農業モデルでは、化学肥料や農薬の使用が一般的であり、これが水質汚染や生物多様性の損失を引き起こしている。さらに、地下水の過剰な農業向け使用により生活用水の不足が深刻化している地域もある。しかし、農業は環境問題の要因であると同時に、その解決策にもなり得る。未来に向けて適切な農法や農地管理を採用することができれば、土壌の健全性を高め、持続可能な生産が産業として可能になる。自然生態系の恩恵には、生息地の保全、水流調整、炭素貯留などが挙げられるが、現在の集約型農業はこれらのサービスの替わりに作物生産に特化している。今後は、作物生産を行いつつも、生態系サービスを回復させる農業が求められる。そのために両輪として、消費者も環境負荷の少ない食品など、製品背景を意識しながら選択することがさらに重要となり、食生活のあり方も変えていくことが求められる。

特に、土壌の健全性は重要なテーマとなっており、人間が口にする食べ物の95%が土壌に由来している。野菜はもちろん、畜産動物の飼料も土壌に依存しているため、農業の持続可能性を確保することは、人類全体の未来に直結する。農耕が始まって以来、土壌や農地管理の歴史は長く、時代ごとの社会的な要求に応えながら持続可能な農業の実現に向けた試行錯誤が続いてきた。近年では、不耕起栽培や土壌への炭素貯留が注目されており、気候変動対策としての役割も期待されている。このようにフードシステムや農業は産業として気候変動の要因であると同時に、解決策ともなり得る。リジェネラティブ・オーガニック農業は、今後の農業の1つのあり方として推進されるべきものと考えている。

 

野崎林太郎さん(奈良山園)のお話〈要約〉

私は現在、奈良山園(農園)、東京ジャム株式会社(農業法人)、野崎書林(書店) を経営し、地域資源を活かした循環型の農業を展開している。農園は江戸時代から約400年続く歴史を持ち、15代目として都市における資源循環型農業を実践している。ブルーベリー摘み取りや養蜂、有機野菜栽培、規格外品の加工・販売を行い、生産・加工・販売まで一貫した事業を推進している。東久留米市は人口約11万人のベッドタウンで、農地が都市化によって減少している。そこで、近隣の西東京市や東村山市にも農地を広げ、4ヘクタール規模で運営。農業の目標として (1)資源循環 (2)多様性の維持 (3)農家暮らしの継承を掲げ、有機農業を実践。年間200品種の多品目栽培を行い、多様な人々が関われる農園づくりを目指している。

農業においては、東京都の有機認証を取得して、化学肥料や農薬を使わず、堆肥を活用する循環型農業を行っている。農産物の規格外品は廃棄せず、ジャムなどの加工品として商品化。農園だけでなく、書店や直売所と連携し、地域での流通を促進している。また、多品目栽培(200品種以上) を行い、多様性のある農業を実践。地域のさまざまな人が関われる農園づくりにも取り組んでいる。

農産物を地域内で消費する仕組みとしてCSA(地域支援型農業) を導入。消費者が年間契約を結び、農園の収穫物を定期的に受け取る制度を構築している。さらに、コンポスト(堆肥化) を組み合わせ、消費者が生ごみを農園に戻すことで、資源を循環させている。この活動はカフェや学校とも連携し、東久留米市の小学校では給食の生ごみをコンポスト化する実験も行っている。また農業だけでなく、DIYを活用した地域活性化にも力を入れている。駅前の書店「野崎書林」を自ら改装し、地域の文化発信拠点としてリノベーション。また、空き家や古い建物を活用し、新たな地域コミュニティを形成する取り組みも進めている。既存のインフラを生かすことで、無駄な開発を抑え、持続可能なまちづくりを目指している。

自身の活動の背景には、幼少期からの地域とのつながりがある。農家の家に生まれ、三世代で暮らし、地域の自然や人々との関係の中で育った。その経験が、地域を守ることの重要性を実感させ、農業を通じた持続可能な未来への取り組みにつながっている。都市化が進む中で、次の30年、60年後の地域の未来を考えることが重要であり、自分たちにできることを実践することが求められる。

最後に、未来のキャリア選択に関して思うことは、「今までの経験には意味がある」 ということで、これまでの歩みを否定せず、その延長線上で未来を考えることが大切だと思う。また、大きな課題に目を向けるだけでなく、身近な日常を少しでも良くすることが、社会全体の変革につながるのではないかと考えている。

 

続いてお二人との繋がりのある、山田周太郎さん(最高学部3年)が次のように話した。

山田周太郎さん(最高学部3年)の話

高校3年生の時にリジェネラティブ・オーガニック農業に興味を持ち、現在は那須農場などで仲間とともに栽培に取り組んでいる。きっかけは探求の授業で、パタゴニアの記事を読んで関心を持った。しかし、本当に実現可能なのか疑問に思い、実際の畑を見学することになり、そこで木村純平さんとのつながりができ、千葉県匝瑳市の畑を訪れ、不耕起栽培による大豆の育成を目の当たりにした。木村さんから「やってみないとわからない」との助言を受け、最高学部から実践を始めることになった。

昨年からは東久留米の農家・野崎さんと連携し、地元農家の視点を取り入れながら活動を拡大した。現在は中高生とともに探求活動を行い、野崎さんの畑の隣で不耕起栽培の実験をしている。また、ピーマンやオクラ、ナスなどの種や苗を野崎さんから提供してもらい、距離の近さを活かしてすぐに収穫が必要な野菜の栽培にも挑戦している。

これまでの取り組みをポスターにまとめ、学会で発表も行った。現在、農家の視点での課題や工夫点についても学びながら活動を継続している。こうしたつながりを通じて、農業の可能性を広げるために取り組んでいる。

山田周太郎さんのポスター発表 https://www.jiyu.ac.jp/college/blog/sl/71678

 

プラネタリー・バウンダリーについてお話される木村純平さん

 

地域の資源をつなぐ循環型農業についてお話される野崎林太郎さん

 

文:鈴木康平(最高学部)

カテゴリー

月別アーカイブ