2025年10月1日(水)10時40分~12時20分に、最高学部棟中教室で共生共創プログラムイベントとして「第5回共生共創フォーラム 地球環境を守る技術を求めて」が開催され、最高学部学生のほか、オンラインで13名の方が参加されました。
今回は、講師として株式会社フィールドプロ代表取締役の三上正洋さん、株式会社UPDATER SXコンサル&イノベーション本部の沖山敬さんをお迎えしました。
三上正洋さん(株式会社フィールドプロ 代表取締役)のお話の要約
自由学園男子部42回生で、学生時代は勉強よりも登山に熱中した。八ヶ岳での登山をきっかけに体力に自信を持ち、奥武蔵・奥秩父・奥多摩の山々を中学時代に踏破。中学3年からロッククライミングを始め、高校時代には岩壁・氷壁登攀にも挑んだ。社会人山岳会に所属し、名クライマー平田謙一(現自由学園の山岳ガイド)氏と、その師匠に師事。自由学園の山岳ガイドも務めたが、仲間を事故で失い、自らも命の危険を感じたことで24歳で引退。その後、山から空を飛ぶパラグライダーに転向し、現在も続けている。
25~26歳のころ、南極越冬隊経験者の研究者2人から誘われ、気象観測機器メーカーの前身となる会社を3人でスタート。電子工学の知識と山岳気象経験を活かし、気象データを記録する装置「データロガー」を開発した。1995年、30歳のときに独立して「株式会社フィールドプロ」を創業。温湿度・風向風速・雨量などを自動計測する観測装置を開発・製造・販売し、国立大学の研究所や筑波の各研究所をはじめ、自由学園とも深い関係を築いている。
自由学園では創立当初から気象観測を行ってきたが、手作業のため継続が難しかった。那須農場での観測が一時中断していた際、弊社からの機器寄贈により再開が実現。2009年には校内での治水研究に観測装置が活用された。その後、フィールドプロと自由学園が産学連携協定を締結し、共同研究体制を整備。高精度な観測機器を導入し、学生も「水文・気象観測室」として運用に携わり、顧問として技術指導にあたっている。
咋今、国内でも酷暑や豪雨、線状降水帯の激化、豪雪や氷河融解など、極端気象が頻発している。地滑りや洪水、地震、火山活動、生態系の破壊が進み、火山性地震への危機感から新たに地震計の開発を進めている。さらに、自由学園卒業生で防災科学技術研究所に所属する砂子宗次朗氏のヒマラヤでの氷河の研究や国内の雪氷災害用にも観測機器を提供している。
気象庁の観測点が学園周辺に少ないため、自由学園の観測設備は地域的にも貴重である。2025年8月、南沢で発生したダウンバーストをこの観測装置が初めて捉え、気象庁の観測網では把握できなかった現象の記録に成功した。「地球規模の変化を正確に把握するには、地域レベルの観測が不可欠」であり、技術と教育の両面から環境問題に挑むことが重要である。(以上の内容には自由学園水文・気象観測室の吉川慎平教授の途中説明も含まれている)
沖山敬さん(株式会社UPDATER SXコンサル&イノベーション本部)のお話の要約
皆さん、「電気会社を選んだことがありますか?」。実はスマホのキャリア変更よりも簡単に電力会社を選べることが出来る。2016年の電力自由化により、個人や企業は東京電力のような大手以外からも電気を購入できるようになった。新たに参入した「新電力」は現在約779社にのぼり、東京電力管内では約3割の家庭がそれらを利用している。
電力業界には、発電事業者・送配電事業者・小売電気事業者・需要家の4者が関わる。発電所が電気を作り、送配電事業者が電線を管理、小売電気事業者が販売し、家庭や学校が利用する。この構造の中で「発電所は農家、小売事業者はスーパー、送配電は運送業、需要家は消費者」に例えられ、誰でも参入できるのは発電と小売の部分である。
2011年の東日本大震災による福島第一原発事故を契機に、日本の電力供給は大きく揺らいだ。原発停止による供給力の低下と電気料金の高騰、計画停電などを経験した社会は、電源の多様化とリスク分散を求めた。その結果、2016年に小売電気事業が全面自由化され、多様な会社が再エネや価格競争を軸に市場へ参入した。
UPDATER(みんな電力)は、再生可能エネルギー100%の電力を供給する企業である。太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱など、自然の力で発電された電気を販売し、CO₂を出さない電力の利用を推進している。家庭におけるCO₂排出の約3分の2は電気使用に由来し、4人家族で月に約224kg(レジ袋約3700枚分)の排出に相当するという。電力を再エネに変えることでの環境効果が大きいことがわかる。
再エネには「再エネ」と「実質再エネ」の2種類がある。電線を通す段階で電気は混ざるため、再エネで発電された証明として「非化石証書」が発行される。多くの企業はこの証書を使って「実質再エネ」と称しているが、みんな電力は再エネで発電する発電所から直接購入し、証書も併用することで「中身も外見も再エネ」の電力を供給している。利用者の支払った料金は、再エネ発電所の運営資金となり、新しい再エネ設備の普及に貢献する。
みんな電力のもう一つの特徴は、発電者の「顔が見える」仕組みである。生産者を公開することで安心感と信頼を高め、消費者が発電所を選択できる。さらに、30分単位でどの発電所の電気を使っているかを可視化し、地域の電気を地元で使う「電力の地産地消」を実現している。新潟県三条市では、地元のバイオマス発電所の電力を市内の企業が利用し、地域経済の循環にもつなげている。
2011年の原発事故は決して「対岸の火事ではない」。首都圏の暮らしを支えるために作られた電気が、福島の人々の生活を奪った。火力発電もまた海外からの燃料輸入に依存しており、環境や国際問題と無関係ではない。だからこそ、自分が使う電気の「出どころ」を知り、選ぶことが社会を変える第一歩になる。「電気を選ぶ」という行為は、単なる契約変更ではなく、環境と地域、そして未来への投票である。みんな電力はその選択を通して、透明で持続可能な社会を共につくることを目指している。



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https://youtu.be/ohElwpc9Lhg
文・写真:鈴木康平(最高学部教員)