オルタナティブ教育機関「一土学校 ETUSchool」創設者来校/前学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

オルタナティブ教育機関「一土学校 ETUSchool」創設者来校/前学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

前学園長ブログ

オルタナティブ教育機関「一土学校 ETUSchool」創設者来校

2023年8月23日

「無事アメリカに戻ることができました。自由学園の訪問、本当にありがとう!」8月2日、Yinuo Li (李一諾)さんからメールが届きました。

中国で2016年にオルタナティブ教育機関「一土学校 ETUSchool」を創設したYinuo (イノウ)さんを、卒業生の吉良直さんの案内でお迎えしたのは先月半ばのことです。

この日は女子部男子部は終業式前日の大掃除「完全家事」。あちらこちらで働く姿から生徒の自治的取り組みを説明。畑、初等部、みらいかんと学園内をご案内しました。その後、学部で昼食。学生たちに向けてスピーチをお願いしました。

YinuoさんはUCLAで生物学の学位を取得。マッキンゼーで10年、ビル・ゲイツ財団北京代表として5年働いた後、学校設立に至ります。

その背景には3人の子どもたちの母親としての思いと共に、ビジネス界で接した若者たちの多くが社会に出る準備が出来ていないと知ったこと、SNS発信者として多く親たちの悩みに触れた経験、教育が世界の課題と分断されていることへの違和感などがあったそうです。

日本へは国際交流基金の招聘研究員としてこの春に来日。東大の鈴木寛教授の研究室をベースに4ケ月間滞在し、日本の初等・中等教育における「教育エコシステムの構築」をテーマに、視察や調査をしてきたとのことでした。

「エコシステム」は、もとは生態系の物質循環の繋がりを表す言葉ですが、そこから転じて、互いに関連し影響し合う仕組みの全体を表す場面で広く使われています。

教育エコシステムは、教育を単に学校で行われる活動ととらえず、生徒、教師、学校、保護者、地域社会や企業など、生徒の学びと成長に関わるステークホルダー全体のつながりとしてとらえる考え方です。

生徒を学びの主体として、その生活の全てを学びの機会とする発想は「生活即教育」に通じる考え方ともいえます。

イノウさんはご自身のチャレンジと共に、今、中国が暗い時代にあること、それを逃れ中国の知識人が日本に集まりはじめていることにふれ、自由に学べる皆さんの恵まれた環境をぜひ生かしてほしいと、学生たちを励ましてくださいました。お話の後、中国語を学んでいる学生が「とっても勇気づけられました」と思いを伝えにきました。

私はイノウさんに、さまざまな国際比較調査が示している日本の子どもたちの自己肯定感の低さについてどう思うかと質問しました。答えは次のような考えさせられるものでした。

「3歳の子どもはアメリカも日本も中国も同じように元気で無邪気です。しかし中学くらいになると日本の子どもたちは自信なさげで、相手の目を見て自分の思いをはっきり語らなくなります。日本人がシャイということもあるけれど、それだけではなく、この背景には社会全体が単一の成功に向かう価値観をもっており、塾と受験によって子どもたちがその序列化に追い立てられていることがあるのだと思います。日本ほど、思春期の子どもたちの多くが受験に向かっている国はなく、そして親も子も誰もが不安の中にいるのです。もっと多様なよさを認めることが必要です。」

単一の価値による序列化を相対化するためには、社会そのものが一人ひとりの多様なあり方を認め、様々な側面から成長と自立を支える環境づくりに向かうことが必要です。これはまさに社会と教育のエコシステムにも関わることであり、もう少し突っ込んでお話ししたいところでした。
以下はイノウさんからのメッセージです。

*****
忙しいスケジュールの中、自由学園で私を受け入れてくれて本当にありがとう。様々な面で深い感動を得る機会となりました。

第一に、1930年代のキャンパスが今日も存在し、繁栄し、歴史と現在と未来をつないでいるのを見るのは、ただただ素晴らしいことでした。100年前に始まったビジョンが、現在に至るまで何世代もの教育者の努力によって実現しているのを目の当たりにして、力が湧いてきました!

第二に、この美しいキャンパスで生徒たちの自主性を目の当たりにして感動を覚えました。生徒たちが鳴らすチャイムや鐘は、単なるタイムスケジュールではなく、生徒たちが生活のリズムそのものを作り出すことを象徴していました。これは教育において最も貴重なものであり、彼らの生活を見て深い感動を覚えました。

そして最初に案内してくれた木造の建物が暗示していることについて。中に入った人は誰もが、自然とその育み、人間の努力、そしてより大きな存在に抱きしめられるのを感じることでしょう。植林から始まりこのホール建設に至る70年の旅は、私にとって、日常的であると同時に非凡な人間の一生を象徴しているようでした。これこそが、私たち一人ひとりの日々の生活や仕事を鼓舞し、理想に向かって突き動かすものなのではないでしょうか。

自由学園のキャンパス、生徒たち、先生たち、グラウンド、ホールを見学させていただき、本当にありがとうございました。また、大学関係者の前で話す機会を与えてくれてありがとう。とてもよい機会となり、私は交流を楽しみました。

深く感謝し、これからも連絡を取り合えることを楽しみにしています!もしあなたが中国に来る予定があれば、私たちの学校と家族は喜んであなたをお迎えします。ありがとうございました!
*****

今、中国は、歴史的にこれまでにない大きな規模の洪水の被害の中にあります。1日も早い復旧をお祈りします。

 

2023年8月5日 高橋和也(自由学園学園長)

カテゴリー

月別アーカイブ