10月31日、水文・気象観測室では、埼玉県飯能市にある自由学園のフィールド、名栗植林地内を流れる水の流量測定を主な目的とするダムの造成を行いました。このダムは流れる水を堰き止めて一本のパイプから放水するもので、ダム内に溜まった水がパイプから流れ始める水深を元に流量を算出することができます。
造成に際しては事前準備として資材の購入や流量測定の準備、計測機器の制作などを行いました。また現場では、水が流れる岩場の周辺の大きな岩を取り除き、奥行き約1.5m、幅約1mのダム湖を作ることのできる空間を確保しました。
当日は午前8時ごろ自由学園を出発しました。名栗に到着後は現場へ資材や機器を搬入し、午前10時ごろから作業を開始しました。
まず、水が溜まっている岩場の下流側、水の流れる方向に対して直交方向となる部分に奥行き約0.5m、幅約1mの平坦な面をつくり、水を堰き止める堤防の土台としました。
次にその上に土のうを並べ、隙間を粘土質の土で埋めることで堤防を造成しました。土のうは計3層積み上げ、2層目と3層目の間に塩ビパイプを差し込むことで、放水口を確保しました。大きな水の漏れがないことを確認し、ダム本体が完成しました。
パイプの水が流入する断面には、逆三角形状の切り込みを入れた板が取り付けられています。これは「(三角)堰の公式」という流量を算出する式を適用するための工夫となっています。
ダム湖には水深を計測する機器を沈め、付近に計測されたデータを記録する機械を設置しました。また、落ち葉などによって放水口が塞がれることのないように、ダム上部にネットをかけました。
今回の名栗での作業は、ダムの造成以外にも名栗に設置している観測機器のデータの回収や新たな機器設置の準備などがあり、最終的に午後4時30分ごろ撤収しました。名栗から帰る前に名栗湖(有間ダム)を見学する機会もあり、実際のダム建設においてどのような工法が取られているのか学ぶことができました。
気温が低い中での作業となりましたが、順調に作業を進め、事前の計画に沿った形でダムを造成することができました。
文:栗田匠(最高学部2年)
「水源の森づくり」と水文観測
名栗植林地では所有者である飯能市との協定に基づき「水源の森づくり」を推進しています。2021年3月にはその先駆けとして,埼玉県の補助金を活用した全長900mの森林作業道の開設と,周辺を含めた3haの切り捨て間伐が実施されました.今回の「ダムづくり」は,こうした森の手入れを進めることで,流れ出る水の量や質の変化を捉えられないかという試みです.各地の大学演習林ではこうした水文(すいもん)観測が古くから行われており,今回名栗植林地での実施を検討しました.しかし谷に複数の砂防ダムが設置されていることや,岩石が厚く堆積していることなどから,観測条件としては芳しくはないものの,実験として雨量の観測と,林内から流れ出る小流に簡易的な堰を設け流量の観測を試みることにしました.また同時に林内の5つの窪(沢)と、沢が流れ込む荒川水系横瀬川の水質・流量の定期的な調査にも着手しました.現在,水理学の公式等を用いた流量の計算や,自動観測データの解析などに学生達で取り組もうとしています.
また今回現状回復が容易なように,セメント等の材料は一切使用せず,土嚢袋と周辺の土砂・土壌を基本に作り上げました.いわゆる「フィルダム」と呼ばれる形式で,飯能市内の有間ダムと同じ構造です.極めて小さなダムづくりの経験と,帰路に立ち寄った本物のダム見学を通じて,天然の材料のみで水を止める技術の一端も学ぶことができたのではないかと思います.フィールドから生まれる自由学園の実学をこれからも推進して行きます.
文・写真:吉川慎平(最高学部教員)
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