「500人以上」の声は/学部長ブログ - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

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学部長ブログ

「500人以上」の声は

2026年7月18日

国際移住機関(IOM)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は7月16日、ミャンマー沖でロヒンギャ難民250人、280人を乗せた二隻の船が消息を絶ち、500人以上が死亡した可能性があると発表しました。

「500人以上」。

その一人ひとりには名前があり、家族があり、願いがありました。荒れた海上で波に巻かれる船の中には幼い子どももいたでしょう。親に抱かれていた赤ちゃんもいたでしょう。子どもの手を離さないように必死だった母親、新しい人生に期待をかける父親もいたでしょう。手を取り合う姉弟もいたかもしれません。「500人以上」の人たちの絶望的な声は船と共に「消息を絶ち」ました。

ロヒンギャは、ミャンマー西部ラカイン州に住むイスラム系少数民族です。仏教国であるミャンマー政府は彼らを隣国バングラデシュからの「不法移民」と見なし、国籍を認めていません。多くのロヒンギャがミャンマーで長年迫害を受け、ロヒンギャ武装勢力と国軍との武力衝突を経て、2017年には国軍による大規模な「掃討作戦」が行われました。これを逃れて100万人以上のロヒンギャがバングラデシュへ避難し、現在もコックスバザールの難民キャンプで暮らしています。

UNHCRによれば、この難民キャンプは、「世界最大かつ最も過密な難民キャンプ」であり、日々過酷な生活を余儀なくされているといいます。

この劣悪な生活環境を脱し、他国へ逃れるために、国籍を持たないロヒンギャの人々は密航船に乗ります。粗末な船におびただしい人数で乗り込み、危険を承知で海に出ることが、唯一の希望となった人たちです。しかもブローカーに身を切るような多額の代価を支払っての乗船だったことでしょう。乗船にあたって持ち物は制限され、船の上での食事も粗末なものだったことでしょう。昨年5月にも同様の海難事故でロヒンギャ難民427人の死亡が伝えられています。生まれた場所が違っていれば、私自身がこの「427人」「500人以上」の中の一人だったかも知れません。

このニュースを耳にして、先日ポレポレ東中野で観た映画『LOST LAND/ロストランド』を思い出していました。

テキストの画像のようです

映画の主人公は9歳のソミーラと5歳のシャフィ。バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプから、家族と再会するため命がけで海を渡る姉弟です。映画を観ている間、特に冒頭の荒れた海上のシーンでは何度も「これはドキュメンタリーではないか」と思いました。映画と分かっていながらも現実との境界が曖昧になるほどのリアリティがありました。

「ロヒンギャ難民」についての説明はほとんどありません。ただ、実際に難民キャンプに暮らす方々が出演し、全編ロヒンギャ語での会話が交わされます。子どもたちが懸命に生き、時に遊び、時に祈りながら過酷な現実に向き合う姿が映し出されます。

主人公の2人とともにこの体験を共有しながら、「このソミーラとシャフィのために何ができるだろう」という思いが沸き上がりました。このような現実を多くのロヒンギャの方々が経験していることが伝わってきました。そして今回のニュースから、これが今この瞬間も続いている現実であることを突きつけられました。

私は妻のすすめで事前情報をまったくもたずにこの映画を観ましたが、映画を観終わり、会場に貼られた藤元明緒監督のインタビュー記事などを読み、ロヒンギャ難民のこと、そして映画の背景を知りました。この映画が日本人監督によるものであることも驚きでした。

映画館の階段上には『LOST LAND/ロストランド』の大きなポスターの隣に、上映中の『聴く隣人のいるところ』のポスターが掲げられていました。仲間の語る言葉に、歌に、そして言葉にならない深い心の声に、丁寧に耳を傾け合う、「キリスト教愛真高校」の生徒たちの日常を描いた素晴らしいドキュメンタリー作品です。

この2枚のポスターを見ていると、まるで問いかけられているかのような印象を受けました。

ロヒンギャの人々の声を聴く人は、どこにいるのか。
声にならない人々の声を聴く人は、どこにいるのか。

私は、隣人として、その声を聴いているか。

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