講義「日本の里山」でNPO法人TSUKKURA(つくば市)の取り組みを見学/教養・専門 - 自由学園 最高学部(大学部)/ 最先端の大学教育

講義「日本の里山」でNPO法人TSUKKURA(つくば市)の取り組みを見学/教養・専門 - 最先端の大学教育【自由学園 最高学部(大学部)】

教養・専門

講義「日本の里山」でNPO法人TSUKKURA(つくば市)の取り組みを見学

2023年11月22日

「日本の里山・里川・里海と地域デザイン」は、2022年度に新規開講した最高学部の自由選択講義です。日本の地域・地方が抱える現在・将来の深刻な課題(少子高齢化と人口減少、インフラ老朽化、気象災害の激甚化等に加え、コロナ渦の影響等)に対して、高いポテンシャルがあると考えられる日本の里山・里川・里海が織りなす地域性を、フィールドワークや文献調査等を通じて再発見し、これからの地域デザインを考えていく「素材」を集めることを目的としています。更に可能な範囲で何らかの提案にまとめ、実際のアクションに繋げていくことを目指しています。
具体的に地域を捉える原単位として、既存の行政区域ではなく自然地形に由来する「流域」と言う概念に注目していくこととし、春期には三浦半島の小網代の森の見学と、荒川流域を体感する見学を行いました。これらの経験の上で、秋期では各人が興味・関心をもったテーマを設定・整理して、課題・問題解決に向けての先行事例等の調査を行い、レポートを作成して講義時間内で発表、意見交換などを通してまとめる予定です。

10月29日(日)、今年度の受講生と昨年度の受講生の希望者5名と、担当教員2名の計7名で、茨城県つくば市の小田地区へ見学に出掛けました。関東平野西部の筑波山、宝篋山(小田山)山麓に位置する小田地区には、戦国時代の城郭である国指定史跡の小田城址を中心とした古い農村集落が残されています。しかし、こちらでも人口減少による空き家の増加など、日本各地で見られる問題に直面しています。これらの課題に対して空き家の活用、里山の再生などに実践的に取り組んでいる、NPO法人TSUKKURA(ツックラ)の方々からお話を伺い、実際に現地を案内していただきました。

 

「北斗の道」りゅうげ広場にて

 

TAMARIBAR(タマリバ)にて

 

当日は、「筑波山麓秋祭り」のタイミングと重なり、普段より地域は賑やかな状況でした。午前は、はじめにTSUKKURA(ツックラ)の拠点であるTAMARIBAR(タマリバ)を訪問しました。TAMARIBAR(タマリバ)は使われなくなった店舗をリノベーションし、土日を中心に軽食の提供や物販のほか、各種イベントなどを実施している交流スペースです。理事長の大類裕幸氏より、小田地区の歴史と現状を具体的な人口推移なども交えて解説していただきました。現在の空き家問題は日本全体の課題であり、空き家の増加・人口減少によって治安が悪化するだけでなく、地域の文化・伝統の継承を困難にし、社会全体が機能不全に陥ることになるというお話には、学生たちも真剣に聞き入っていました。一級建築士である大類氏はこれまでにも多くの古民家や空き家の再生を手掛けられ、移住者を募って地域を活性化し、地域に残された古くても良いものを活かしながら新しいコミュニティを作りたいとお話されました。またTSUKKURA(ツックラ)には40人ほどがメンバーとして関わり、それぞれの専門を活かしながら活動されているそうです。メンバーそれぞれの得意分野を活かし、楽しみながら活動することが大切と仰っていました。

 

大類氏からお話を伺う

 

再生中の築90年を超える古民家

 

史跡・小田城址にて

 

小田中テラス(古民家)でくつろぐ

 

その後、大類氏とTSUKKURA(ツックラ)のメンバーの方の案内で、小田地区を散策し、小田城址や古民家を再生・利用している現場を見学した後、TAMARIBAR(タマリバ)に戻って、地元の小田米と平飼いの卵、野菜を使った美味しい昼食をいただきました。
午後は、宝篋山麓で使われなくなった古い里道をメンバーが再整備した「北斗の道」を歩き、里山の再生例について各自が五感をつかって体感することができました。その他、地域にひっそりと佇む石仏群や、祠やお堂などについても解説していただきました。
最後に、TAMARIBAR(タマリバ)に戻って参加した学生一人一人が感想を述べ、充実した見学を終えました。大類氏を始め、お目にかかった地域の方たちが学生の訪問を温かな笑顔で迎えて下さったことが印象的でした。

 

TAMARIBARでの昼食

 

名物の卵かけご飯

 

「北斗の道」の石仏について解説を聞く

 

宝篋山麓の里山を歩く

 

見学後の学生の感想を紹介します。
「地域の落ち着いた雰囲気と知り合いが多い様子をみて、里山とはこのような場所なのではないかと思った。地域のことを詳しく沢山教えていただいて、空き家問題など地域の問題の切実さも感じたが、工夫しながら活動し生活されていることが分かり尊敬の気持ちを持った」
「地域振興に取り組む地域は多いが、ツックラの方々が地域のもつポテンシャルを活かした取り組みをしていることはとても参考になった」
「全体を通して感じたことは、問題は常に複合的ということだ。大類さん達の取り組みは、多方面から行われておりその奥深さを感じた」
「同じ団体でも、多角的な視点が集まることで、地域再生の幅が広がっていきそうだと思った。また、新しい何かを生み出す(例えば観光資源を用意したりする)のではなく、今ある財産や資源(里山や城跡、古民家など)を生かして活動することを念頭に置いているのだなと思った」
そして複数の学生が、メンバーの方々が自分の得意分野を活かして、楽しんで地域再生に取り組んでおられる様子が印象に残ったと話していました。今回初めて茨城県を訪れた学生もおり、学園が普段フィールドにしている名栗や那須といった地域とは異なる環境・景観に触れることができたのは、比較の視点を養う意味で貴重な機会となりました。

11月11日(土)の講義では、参加した学生の印象に残ったことや感想を共有し、自分にはない視点での気づきや、秋期課題に活かせるヒントが沢山与えられたとの意見が出ました。
TSUKKURA(ツックラ)のメンバーの方々ご助力により、充実した見学となりましたことに感謝申し上げます。

 

NPO法人TSUKKURA

 

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文:小田 幸子(最高学部教員・環境文化創造センター次長)
写真:吉川 慎平(最高学部教員・環境文化創造センター長)

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