南沢キャンパスでは6月29日〜7月5日まで7日間連続の降雨(総雨量198.5mm)があり,今年2月28日頃から涸れ川(瀬切れ)状態となっていた校内の立野川の流水がおよそ5ヶ月ぶりに回復(河川水の電気伝導率測定から雨水の流入ではなく地下水起源であることを確認)し,水際では地下水の湧出も確認されました.早速,男子部高等科の川管理グループの生徒によって,流水とともに流れ込んで来たゴミなどを回収した他,一斉に姿を現したアメリカザリガニの防除が進められました.
立野川は武蔵野台地の崖線下に現れる「湧水」を集める自然河川です.湧水は図-1のように地下水の地上への出口部分に当たり,その起源は地表に降った雨水が地中へと浸み込み蓄えられたものです.これらが時間をかけてゆっくりと地上に湧き出す(流出する)ことで,立野川の流れが作られます.しかし降雨が少なければ次第に地下水の蓄えは減少し,やがて流出は止まってしまいます.立野川の上流部は,年間を通じて安定的な湧水が見られる落合川(立野川に並走)に比べ川底の標高が高く,少雨により周辺の地下水位が低下するといち早くその影響を受ける傾向にあります.但しこれは年によって異なる現象で,今年(2021年)のように1日以上「涸れた年」と,去年(2020年)のように1日も「涸れていない年」があることが経験的に分かっていますが,その背後にある雨量と地下水位・河川流量の関係は定量的(数値的)には明らかになっていません.
そこで現在,最高学部フィールドサイエンスゼミの鈴木祐太郎さん(4年生)がこうした実態の解明に向けて,一次元での流出解析に取り組みつつ,様々な観測地点で実データも収集しており,これにはゼミの先輩から継承したデータも含まれています.早速,今期の「涸れ川状態」の水文的背景について,自由学園水文・気象観測システムの雨量データと,毎週行っている地下水位・河川水深のデータをグラフ化(図-2〜5)したところ次のようなことが分かりました.
グラフの図-2と図-3は,2021年と2020年の同時期(1/1〜7/8)の学園地点の日雨量と校内観測井(代表地点)の地下水位の変動です.これまでの仮説として春先の降雨の減少がその要因と見られていましたが,「涸れていない」2020年の地下水位は1月上旬時点で2021年に比べて30cm程高く,冬〜春にかけての降雨よりも,夏・秋から冬にかけての降雨による地下水の蓄えが,春先の湧水(立野川)の状態に大きく影響している可能性が示唆されました.また図-4と図-5は同時期の日雨量と河川の水深の変動です.地下水位,河川水位は手作業により週1回の観測のため,日雨量に対する応答を完全には捉えきれていませんが,概ね傾向は読み取れます.今後データの蓄積により年間を通じての傾向や,年毎の傾向について分析を進めて行きたいと思います.
今回,自然現象の一部ではありますが,近年では異例とも言える長期間に渡り「涸れ川状態」となったことで,動植物への影響等が考えられます.特に河道内の植生変化が顕著に見られ,初春から賑わいをみせる「水草」に類される浮葉植物,沈水植物の多くが姿を消している他,陸生の植物が河道内でも卓越して来ました.
こうした地下水・湧水を取り巻く環境変化や湧水機構について,今後も各種観測と観察から研究を進めて行く計画です.
データ整理:鈴木 祐太郎(最高学部4年)・小田 幸子(最高学部教員)
文・写真:吉川 慎平(最高学部教員・環境文化創造センター研究員)