【教育】ブルーカーボンと藻場の再生~熱海ブルーカーボン・プロジェクト視察を終えて~/環境文化創造センター - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

【教育】ブルーカーボンと藻場の再生~熱海ブルーカーボン・プロジェクト視察を終えて~/環境文化創造センター - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

環境文化創造センター

【教育】ブルーカーボンと藻場の再生~熱海ブルーカーボン・プロジェクト視察を終えて~

2022年5月27日

環境文化創造センターでは、「気候変動」を現在の地球規模の重大な課題と捉え、それに対する教育の充実を目指しています。

<カーボンネガティブを目指す>
カーボンネガティブとは、人間の活動の中で排出する温室効果ガス(主に二酸化炭素)の量より、吸収する温室効果ガスの量の方が多い状態のことを言います。具体的にカーボンネガティブを実現するには、化石燃料への依存を改めて再生可能エネルギーへの転換、また省エネルギーなどを行うことで温室効果ガスの排出量を削減すると共に、植林や自然環境の再生によって温室効果ガスの吸収量を大きくすることが必要になります。
自由学園ではこれまで80年にわたる植林活動の歴史がありますが、今後はこれに加えて自然環境の「再生」ということをキーワードとして気候変動の問題を考えていきたいと思います。

グリーンカーボンとブルーカーボン>
森林や陸上の植生によって貯留される炭素「グリーンカーボン」と海洋の生態系(マングローブや海藻・海草など)によって貯留される「ブルーカーボン」は、共に大気中のCO2を吸収して固定する大事な役割を担っています。
今年度から最高学部で始まった自主研究「RO農法による和綿栽培」は土壌の再生を通して固定されるグリーンカーボンの増加を目指す試みの1つです。一方、ブルーカーボンについても、世界では海の生態系の再生によって増加を目指そうとする試みが始まっています。

<熱海ブルーカーボン・プロジェクトの視察>
環境文化創造センターの鈴木はブルーカーボンに関する教育の可能性を探る目的で、5月20日(金)に、昨年から熱海の藻場(もば)の再生に取り組んでいる「熱海ブルーカーボン・プロジェクト*¹」を視察しました。プロジェクトの主な活動内容は①藻場の再生(異常発生した土肥海岸から熱海海岸への「コアマモ」の移植)と②藻場の調査(水中カメラ・GPS付魚群探知機・水中ドローンを利用)で、今回の視察では藻場の調査用の作業艇に乗船して調査の実際を体験しました。

 

藻場調査用の作業艇

 

GPS付魚群探知機

 

熱海の藻場の様子

 

水中ドローンの様子

 

<藻場の再生のコ-ベネフィット>
藻場の再生は、先に述べた温室効果ガスの吸収量を増加させて気候変動を抑制する役割を果たしますが、それ以外にもいくつかのコ-ベネフィットがあります。
藻場の再生は生物生存に不可欠な酸素を供給して生物多様性を豊かにし、漁業支援に繋がります。水質の汚濁を防止、浄化して透明度を高め、シュノーケリングやダイビングを含む観光支援に繋がります。波浪の抑制や海底の安定をもたらし海岸線の保全にも繋がります。

<ブルーカーボンと藻場の再生に関する教育の可能性>
環境文化創造センターでは、学外での活動において、活動地域の課題を研究の対象として捉えていくことを推進していきたいと考えています。そのような点から考えるとき、ブルーカーボンと藻場の再生に関する教育の可能な地域として、次の2つが考えられると思います。

1)石巻市十三浜
2011年の東日本大震災以降、全国友の会・婦人之友社・自由学園の3団体が連携して行ってきた復興支援活動の1つが、津波による甚大な被害を受けた漁村地域の宮城県石巻市北上町十三浜地域です。復興支援で始まった地元との交流は、その後漁師さんや関係者からのサポートを受けて漁業の手伝いが始まり、生徒たちが学ぶことが多くなっています。また「婦人之友十三浜わかめクラブ」は生産の場と食卓を結ぶ活動を行っています。
津波の被害を受けた三陸海岸では藻場の再生を目指して、様々な取り組みが行われてきました。宮城県では2020年8月に「宮城県藻場ビジョン*²」を策定し、藻場の保全・創造に取り組んでいます。

2)紀北町
1966年以来、三重県紀北町にある海山植林地で最高学部学生による植育林活動が行われてきました。また、女子部では2011年から中等科3年生の「平和と環境を考える」研修旅行で海山の林業地を訪れています。
しかし、海にも面している紀北町は、林業と共に水産業が盛んな地域です。紀北町は島勝浦海域での藻場再生事業を2018年度から開始して、2021年度からは県の水産多面的機能発揮対策事業*³に引き継がれています。

<おわりに>
これまで初等部では3,4年生を対象として「貝の勉強」、中等科2年では「磯の勉強」が、それぞれ校外学習を取り入れて行われてきました(コロナ禍で現在は中止されている)。それらの学びをさらに「ブルーカーボンと藻場の再生」に関する学びに発展させ、「探求」の時間のテーマとして取り組む生徒が表れることを期待します。そして自由学園における環境の学びにおいて、山と川と海が1つに繋がる学びとなることを願っています。
なお、今回の「熱海ブルーカーボン・プロジェクト」の視察は、クライメイト・リアリティ・プロジェクト(CRP)リーダーによって、気候危機に対する活動に繋げるための調査研究として行われたもので、CRPジャパンにお礼申し上げます。

 

*1:枝廣淳子氏が代表を務める未来創造部の企画
*2:宮城県藻場ビジョン 2020年8月
*3:三重県水産多面的機能発揮対策事業 2021年4月

 

文・写真:鈴木康平(環境文化創造センター次長・最高学部特任教授)

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