「李 一諾Li Yinuoさんからのメッセージ」/前学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

「李 一諾Li Yinuoさんからのメッセージ」/前学園長ブログ - 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上【一貫教育の自由学園】

前学園長ブログ

「李 一諾Li Yinuoさんからのメッセージ」

2023年12月2日

Wedge 11月号は日本の教育特集。「記事の中に自由学園の名前があったよ」とのお知らせを数人の方からいただきました。記事を書いた李 一諾Li Yinuoさんからも、以下のメッセージと共に、「拝啓 日本の皆様 教育の力で国家の再構築を」という記事を書いた、自由学園にもふれた、とのお知らせをいただいていました。

I mentioned Jiyu Gakuen and the comparison with China. Thank you so much again for showing me the school and for all your and Jiyu Gakuen’s inspiring persistence in education through the century!
Yinuoさんを自由学園にお迎えしたのは7月半ばのこと。学校をご案内し、教育について意見交換をしました。

Yinuoさんは、このWedgeの記事で、日本の「子どもたちは塾通いを続けて優秀になったのだろうか より革新的になったのだろうか 日本は、国として強くなったのだろうか」と問いを投げかけます。そして今日本は、教育の本質、理想を見つめ直し、教育を通じて「困難に耐え、冒険好きである」日本人の国を再興するときではないかと訴えています。「自由学園」の名前は理想を持った教育の文脈で挙げられています。以下はこの記事に「自由学園」の名前が出たその背景です。

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李 一諾Li Yinuoさんを自由学園にお迎えしたのは、女子部男子部が終業式前日の大掃除に取り組んでいる日でした。あちらこちらで働く姿から生徒の自治的取り組みを説明しました。畑、初等部とまわり、最後に生徒が植林した木で建てられた「みらいかん」をご案内しました。自分たちで学校をつくる生徒、学生の姿に心を動かされると何度もおっしゃっていました。その後、学部で昼食。学生たちに向けてスピーチをお願いしました。

YinuoさんはUCLAで生物学の学位を取得。マッキンゼーで10年、ビル・ゲイツ財団北京代表として5年働いた後、2016年にオルタナティブ教育機関「一土学校 ETUSchool」の設立に至ります。

その背景には3人の子どもたちの母親としての思いと共に、ビジネス界で接した若者たちの多くが社会に出る準備が出来ていないと知ったこと、SNS発信者として多く親たちの悩みに触れた経験、教育が世界の課題と分断されていることへの違和感などがあったそうです。

Yinuoさんはご自身のチャレンジと共に、今、中国が暗い時代にあること、それを逃れ中国の知識人が日本に集まりはじめていることにふれ、自由に学べる皆さんの恵まれた環境をぜひ生かしてほしいと、学生たちを励ましてくださいました。お話の後、中国語を学んでいる学生が「とっても勇気づけられました」と思いを伝えにきました。

私はYinuoさんに、さまざまな国際比較調査が示している日本の子どもたちの自己肯定感の低さについてどう思うかと質問しました。答えは次のような考えさせられるものでした。

「3歳の子どもはアメリカも日本も中国も同じように元気で無邪気です。しかし中学くらいになると日本の子どもたちは自信なさげで、相手の目を見て自分の思いをはっきり語らなくなります。日本人がシャイということもあるけれど、それだけではなく、この背景には社会全体が単一の成功に向かう価値観をもっており、塾産業と受験によって子どもたちがその序列化に追い立てられていることがあるのだと思います。日本ほど、思春期の子どもたちの多くが受験に向かっている国はなく、そして親も子も誰もが不安の中にいるのです。もっと多様なよさを認めることが必要です。」

記事でも触れられていることですが、単一の価値による序列化を相対化するためには、社会そのものが一人ひとりの多様なあり方を認め、様々な側面から成長と自立を支える教育環境づくりに向かうことが必要です。

学園訪問の数日後、Yinuoさんから次のようなメッセージをいただきました。

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忙しいスケジュールの中、自由学園で私を受け入れてくれて本当にありがとう。様々な面で深い感動を得る機会となりました。

第一に、1930年代のキャンパスが今日も存在し、繁栄し、歴史と現在と未来をつないでいるのを見るのは、ただただ素晴らしいことでした。100年前に始まったビジョンが、現在に至るまで何世代もの教育者の努力によって実現しているのを目の当たりにして、力が湧いてきました!

第二に、この美しいキャンパスで生徒たちの自主性を目の当たりにして感動を覚えました。生徒たちが鳴らすチャイムや鐘は、単なるタイムスケジュールではなく、生徒たちが生活のリズムそのものを作り出すことを象徴していました。これは教育において最も貴重なものであり、彼らの生活を見て深い感動を覚えました。

そして最初に案内してくれた木造の建物が暗示していることについて。中に入った人は誰もが、自然とその育み、人間の努力、そしてより大きな存在に抱きしめられるのを感じることでしょう。植林から始まりこのホール建設に至る70年の旅は、私にとって、日常的であると同時に非凡な人間の一生を象徴しているようでした。これこそが、私たち一人ひとりの日々の生活や仕事を鼓舞し、理想に向かって突き動かすものなのではないでしょうか。

自由学園のキャンパス、生徒たち、先生たち、グラウンド、ホールを見学させていただき、本当にありがとうございました。また、大学関係者の前で話す機会を与えてくれてありがとう。とてもよい機会となり、私は交流を楽しみました。

深く感謝し、これからも連絡を取り合えることを楽しみにしています!もしあなたが中国に来る予定があれば、私たちの学校と家族は喜んであなたをお迎えします。ありがとうございました。

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Wedgeの特集が扱った、詰め込み教育を見直し、自ら問い、考える力を育てる教育の必要性を説く内容は、100年前から繰り返されている議論であり、正直なところまだここにいるのかとため息の出るものでした。

高橋和也Facebook 2023年11月18日

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