「フランク・ロイド・ライト展に寄せて ③ヒルサイド・ホームスクールと自由学園」/前学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

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前学園長ブログ

「フランク・ロイド・ライト展に寄せて ③ヒルサイド・ホームスクールと自由学園」

2023年12月13日

四半世紀ぶりとなるフランク・ロイド・ライト展。自由学園からも資料提供をしています。

帝国ホテルを建てるために来日していた世界的建築家フランク・ロイド・ライトが、名も無き小さな自由学園校舎の設計を引き受けたのはどんな経緯によるのか。

これまでライトの「叔母たち」がつくったヒルサイド・ホームスクールと羽仁夫妻の教育思想に共通点があったためと漠然と理解していました。

ライト展を機に、ライトと新教育の関係に興味がわき、あらためて調べてみると、なるほどと思えることがわかりました。

まず注目すべきは進歩的教育に関心を持っていたという母方ロイド・ジョーンズ家。ライトの母は幼いライトにフレーベル玩具を与えており、ライト自身もフレーベル積み木から影響を受けたと語っています。

叔母たちがウィスコンシンに新しい考えによるヒルサイド・ホームスクールを設立するのが1886年。米国で最初の共学のホームスクールの 1 つとのことです。19歳のライトが翌1887年にこの校舎を設計しています。

ちなみにこの1887年、羽仁(松岡)もと子は14歳、羽仁吉一は7歳です。

この学校について、展示ではデューイとも関連付けて解説されていましたが、デューイの実験学校設立は10年後の1896年、また後にライトが関わりを持つエレン・ケイの『児童の世紀』は1900年なので、ヒルサイド・ホームスクールはこれらに先立つ先駆的な実践と言えます。

ではヒルサイド・ホームスクールの思想的背景はどこにあるのか。これについて鈴木正和さんにいくつかの記事(URLはコメント欄)を教えていただき、以下のことが分かりました。

ライトはキリスト教の一派ユニテリアンとして、後にユニテリアンの教会も建てていますが、ライトの母親の姉妹エレンとジェーンもユニテリアンの思想を持ち、そのリベラルな考えがヒルサイド・ホームスクールの教育の根底にあるとのことです。

しかもジェーンはミネソタ州の幼稚園教育学校の理事長を務め、エレンはウィスコンシン州リバーフォールズ州立師範学校の歴史学科の部長を務めています。当時としては珍しく女性として社会的な地位を得ていた2人でした。

さらに遡るとライトの叔父のジェンキンスが意欲的に宣教活動を行っていたユニテリアンの牧師でした。ユニテリアンの思想家としてはエマソンが有名です。

ヒルサイド・ホームスクールでは基礎を学ぶと共に、自然と調和する共感力を育てることが目指され、科学の授業は屋外や庭園で行われました。

また取り立てて「規則」というものはなく、大人が躾けることよりも、年長の生徒が年少の生徒に礼儀と責任を教えるという「実践して学ぶ」方針がとられていました。このあたりは自由学園に通じるところです。

1910 年にこの学校の教師として雇われた女性は、「彼らは、教師が必要な科目について私が知っていることについて何も質問しなかったので、私を驚かせました。

・・・彼らは代わりに、私がその国が好きかどうか、子供たちが私を面白がって興味を持っているかどうか、私が好んで長い散歩ができるかどうか、鳥や一般的な花について何か知っているかどうかを知りたがりました。」と語っています。

教科の知識伝達を中心とするのではなく、人間的豊かさが目指されていたことが伝わる言葉です。
この教育の土台がユニテリアンの思想であったことは私にとっては新たな発見でした。

キリスト教を合理的に捉え、ヒューマニズムの精神から社会改良にも取り組んだこのユニテリアンの思想は、明治の初めに福澤諭吉、矢野龍渓らに注目されて日本に受け入れられ、キリスト教社会主義の運動を支える思想にもなっています。

そして遠藤新も羽仁吉一もユニテリアンとのつながりを持っており、若き日に吉一は演説者としてユニテリアンの活動に数年間関わっています。

エレン・ケイとライトとの深いつながりについては前回触れましたが、これと共にユニテリアン思想に基づくリベラルな教育観をライトが理解していたことを思うと、羽仁夫妻の学校構想をライトが深い理解と共感を持って受け止めたであろうことが容易に想像されます。

さらに言えば、ライト自身の構想が、羽仁夫妻に与えた影響も検討すべきではないかと思いました。
自宅兼アトリエ「タリアセン」は後にこの学校のあった土地に建てられます。

今回のライト展、現代的なジェンダー平等の視点を踏まえ、ライト研究にもライトが関わった女性たちに光が当てられ、女性解放運動や進歩的な教育運動との繋がりが明らかにされたことが大きな成果と感じられました。

ヒルサイド・ホームスクール、エレン(右)とジェーン(左)の写真はコメント欄URLの参照記事に掲載されていたもの。

高橋和也Facebook 2023年11月27日

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