「那須農場での清々しい一日」/前学園長ブログ - 一貫教育の【自由学園】/ 幼稚園・小学校・中学・高校・大学部・45歳以上

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前学園長ブログ

「那須農場での清々しい一日」

2023年4月1日

自由学園那須農場を訪れました。天気に恵まれ気持ちのよい1日でした。

自由学園那須農場(栃木県那須塩原市、52ha)は、「土を拓き、心を拓き、世を拓く」という創立者羽仁吉一先生の言葉とともに1941年に発足し、多くの生徒・学生と農場職員の手で拓かれてきました。

農場開拓に加えて植林も行われ、戦時中は食糧増産に、その後、農学塾や酪農、各種栽培やお米づくり、気象観測など、さまざまな活動が行われてきました。現在も職員による酪農業が行われており約100頭の乳牛を飼育しています。

当初は男子部中心の利用でしたが、2001年に自由学園創立80周年記念事業として60名が宿泊できる新宿舎が農場に完成し、酪農教育ファーム認証牧場の認証も受け、全学的に教育的な活用が進められました。

ところが2011年3月、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の影響により農場も空間放射線量の上昇がみられ、児童・生徒・学生の活動を停止しました。

その後、那須農場は男子部卒業生による熱心な除染作業が続けられ、地域的にも除染が進められてきました。那須農場での除染は国よりも厳しい基準で進めてきましたが、放射線量が次第に低減し、現在は条件付きでの利用を行う段階となっています。今回の那須訪問は場内の放射線量の一括測定を目的とするものでしたが、幸いなことに、長く目標としてきた安心できる基準値以下に値が下がっていることを確認することが出来ました。本当にうれしいことでした。

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農場片隅には簡素な日本家屋が建っています。創立者が那須滞在中に利用されたものです。今回あらためてその床の間に掛けられた書の言葉を読んで見ると、学ぶことの真の意味を示した顔氏家訓の一節でした。

古之學者為己、以補不足也。今之學者為人、但能説之也。 古之學者為人、行道以利世也。今之學者為己、脩身以求進也。夫學者猶種樹也,春玩其華、秋登其實 講論文章春華也、脩身利行秋實也。

以下、かなりの意訳ですが以下のような内容です。
「人が学ぶのは何のためか。古人はそれを、自己の至らないところを常に見つめ補うためであり、心ある道を行い世に益するためであると考えていた。決して今の人が思うように、他人に説くだけのためでもなければ、立身出世のためでもない。
学ぶとは、種を蒔き樹を育てるようなものだ。 春に花を楽しみ, 秋には果実を収穫する。思想を鍛え議論し文章を作ることは春の花であり、世に益をもたらす実践は秋の果実のようなものなのだ。」

自由学園での学びを人格養成の土台とし、よい社会をつくる実践に繋がるものとしようと願われた吉一先生の志にふれ、新年度を前に清々しい思いに満たされました。お宅の周りにはカタクリが群生し、きれいな花をつけ、桜もちょうど満開でした。

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車庫のファーガソンTEA-20も健在でした。
吉一先生がこの那須農場のために最初に購入したトラクターが、ファーガソン社によって1952年に製造されたこのTEA-20型です。これはエベレストに登頂したをヒラリーが南極で使用したトラクターとしても有名です。ナンバーは「0001」です。戦前戦中戦後と活躍しました。

時がたちその役目を終え、農場の車庫の片隅で眠っていたトラクターですが、2013年、卒業生の全面的なバックアップを得て、生徒たちの手によってオーバーホールを行い、再び走らせることを目指すプロジェクトが発足しました。那須農場から南沢キャンパスにトラクターを移し、卒業生でエンジニアの竹山佳一さんの指導の下、生徒たちによるエンジンの分解組み立て、塗装、部品交換が行われました。海外からの部品の輸入を行うなど、様々な課題を乗り越え、ファーガソンTEA-20は新しい命を得ました。
このプロジェクトに中心的に関わった生徒K君は、その後、自動車のエンジニアの道に進みました。大変思い出深いトラクターです。

今回の参加者には、自由学園カード「那須農場(1941年開設)」が配布されました。私は飯能市の「名栗植林地(1949年開設)」、「新名栗フィールド(2015年開設)」、三重県紀北町の「海山植林地(1966年開設)」と合わせて4枚目となりました。自由学園ゆかりの各地キャンパスをミニデータと共に紹介するこのカード、制作・発行は自由学園環境文化創造センターです。学園関係のキャンパスを対象に、今後、発行を続けていく予定です。

那須農場食堂に掲げられた羽仁吉一先生の書「晴耕雨読」。農場を開場した1941年秋に書かれたものです。今後この地での新たな教育活動の展開が期待されます。

2023年3月31日 高橋和也(自由学園学園長)

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